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ルーク・スカイウォーカーからチャッキーへ マーク・ハミルを救った“声の世界”との邂逅

リアルサウンド

19/7/29(月) 8:00

 印象からくる客観的イメージを完全に払拭するには、多分な時間を必要とする。いわゆる “当たり役”のイメージというのは、役者にとっては死活問題なのである。映画の世界では、演ずるキャラクターのイメージ固着は、役者人生の今後に大きな影響を及ぼしかねないのだ。例として、元子役のダニエル・ラドクリフは、『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)と以降のシリーズの記録的ヒットによって、“メガネの魔法少年”というイメージを完全なるものとした。同シリーズの終了後も幾つかの映画に顔を見せているが、やはりラドクリフの背景には、ハリー・ポッターというペルソナの影を絶えず感じてしまう。このイメージをいかに払拭できるかが、役者の未来に直結する。

参考:『チャイルド・プレイ』は現代のホラー映画として見事な出来! 作り手がクリアしたリブートの課題

 俳優のトム・サイズモアは、軍人のタイプキャストとして、映画界ではよく知られた存在だ。『プライベート・ライアン』(1998)『パール・ハーバー』(2001)『ブラックホーク・ダウン』(2001)など幾つかの戦争映画の中で、サイズモアは軍人という印象を定着させ、以後の別作品でも似た役柄にキャストされている。彼の場合は、固定化した役者イメージを利用し、“軍人俳優”としてのキャリアを築き上げてきたワケだが、大抵の役者はこうした印象付けを嫌う。

 近年では、ヒュー・ジャックマンが長年演じた『X-MEN』シリーズ(2001-)でのウルヴァリン役を自ら降板し、その後、『グレイテスト・ショーマン』(2017)では、ミュージカル俳優としての更なる円熟ぶりを久々に披露した。ラドクリフと共演したエマ・ワトソンは、「ハーマイオニーを演じた女優」というステレオタイプを脱し、『美女と野獣』(2017)ではディズニープリンセスに抜てきされている。

 はるか彼方の銀河系を描く、スペース・オペラの金字塔『スター・ウォーズ』(1977)で、映画史に残る世界的キャラクター、ルーク・スカイウォーカーを演じた名優マーク・ハミルも、ジェダイの騎士としてのイメージに長年悩まされてきた人物だった。『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』(1983)と、『スター・ウォーズ』旧三部作を主人公ルークとして駆け抜けたハミルだが、それ以降はあまり多くのヒット作に恵まれることなく、伸び悩んだ時期があった。

 役者人生の岐路に立たされていた、そんな折、彼が役者としての未来に希望を見出したのは、なんと“声の世界”だった。ジェダイの騎士として、多くの人々を魅了し、勇気を与えたハミルが、声優として再び返り咲いたのだ。しかも、声優としてのマーク・ハミルを極めて印象付けたのは、ルーク・スカイウォーカーという正義的キャラクターとは真逆の存在、ジェダイとは似ても似つかない、ジョーカーだった。DCコミックスの看板キャラクター、バットマンの宿敵ジョーカーは、マーク・ハミルのキャリアを遮る、ルーク・スカイウォーカーの陰影を一気に消し飛ばした。ハミルは現在までに、アニメーションやビデオゲームなど、数多くの『バットマン』関連作の中で、ジョーカーという稀代のヴィランに命を吹き込み続けている。声の世界との邂逅こそが、ハミルにとっての“救い”であり、ルークとの一旦の決別だった。

 そんなハミルだが、声優としての実力は、実写映画の中でも異彩を放っている。誘拐事件を題材に描いた『ブリグズビー・ベア』(2017)では、少年を誘拐したテッド・ミッチャムとして出演した一方、同作ではボイスアクターとしてもキャストされている。映画の中の架空の教育番組において、クマのマスコットキャラクター、ブリグズビー・ベアと、その宿敵、サン・スナッチャーの声を担当。正義のベアと、悪のサン・スナッチャーという、対極の立場のキャラクターをひとつの作品内で演じ分けている。役者として成熟したマーク・ハミルの実写の演技と、ボイスアクターとしてのハミル、その両方を堪能できる贅沢な作品なのだ。

 そして最近、リメイク版『チャイルド・プレイ』(2019)にて、ハミルはいよいよシリアルキラーとなった。殺人人形チャッキーとなったのだ。最先端のAI(人工知能)を搭載する現代の殺人人形チャッキーを演じるハミルは、映画の中で、少し不気味で愛らしい“歌”を披露。ブリグズビー・ベアのような不思議な魅力と、ジョーカーの狂気を交わらせた新境地に挑んでいる。オリジナルのチャッキーを演じたのはブラッド・ドゥーリフだったが、今作ではハミルが演じることによって、これまでのチャッキーにはなかった柔らかさを体現している。ハミル版のチャッキーは、もちろん狂気も含まれるが、総体的には「なんだが不思議な憎めないヤツ」として、描かれている。

 声優としてのキャリアを順調に築きつつ、ルークと決別したかと思われたが、2015年には『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で、およそ30年ぶりに、ふたたびルーク・スカイウォーカーを巧演した。続く『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)にて本格復帰し、最終章となる『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)にも出演を予定している。

 なぜここにきて、ようやくイメージを払拭したにもかかわらず、ふたたびジェダイとなる道を選んだだろうか。一度、ルークというペルソナを消し去ったからこそ、ふたたびルークを演じる気になったのかもしれない。彼が声の世界に足を踏み入れていなければ、いまもルークのイメージに悩んでいたのなら、ともすればハミルはルークと決別し、銀河に戻ることもなかったかもしれない。

■Hayato Otsuki
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。

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