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福山雅治が追求する“今しかできない”表現の可能性 鮮烈な音響&ステージ演出で『AKIRA』映像化した初のオンラインライブ

リアルサウンド

20/12/31(木) 20:00

 福山雅治の立つ“そこ”はどこだろう?

 見る限り真っ白い壁に囲まれた空間はおよそこれからライブが始まるような場所には思えない。

「こんばんは、福山雅治です。今ご覧になっているあなたにとって、そして僕にとってもまったく想像していなかった形でのライブです。ですが、今しかできない音楽、今しかできない映像表現を存分に楽しんでいただけたらと思います」

 “今しかできない”という言葉がすぐさま照射するものは、コロナ禍におけるエンターテインメント、という事実だろう。本来であればこの時期、全国ツアー『WE’RE BROS. TOUR 2020-2021』が開催され全国各地を飛び回っていたはずだった。しかし今年はやむなく来年に延期という判断を下した。それゆえのオンラインライブ開催ーーという側面ももちろんある。けれど、福山がここで言った“今しかできない”という言葉はより深く彼の表現領域に根差すものなのだということが、彼自身初となるオンラインライブ『FUKUYAMA MASAHARU 30th Anniv. ALBUM LIVE AKIRA』には込められていた。

 まず、度胆を抜かれたのが音のクオリティだ。冒頭の挨拶の後、福山はマイクスタンドにセットされた、Neumann TLM 107に向かってマイクチェックを始める。そのクリアな音の近さにまずハッとさせられる。そして1曲目の「AKIRA」のイントロでアコースティックギターの印象的なフレーズとキーボード、さらに同期された打ち込み音に続いて福山のボーカルが重なった瞬間、今までテレビやスマホで聴いたことのない音の中に自分がいることに気づかされた。各楽器の微妙なニュアンスが相殺されることなく際立ったままひとつの音塊となって届く。その時点で、福山はこのオンラインライブで、“ライブ”とはまた違った表現を追求しているのではないか、という大いなる期待が高まった。

 2曲目の「煌」、そして「暗闇の中で飛べ」とライブは進んでいく。ここまでの3曲で気づいたのは、派手な照明がないということだ。「AKIRA」は完全にモノトーンの世界で、続く2曲にしても床面のLEDはあるにせよ、普段ライブで見るような派手な照明が動き回る、というような演出はなかった。

 このオンラインライブの2日前のことだ。福山はこんなことを語っていた。

「“どれだけ通常のライブから逸脱することができるか”が、今回のオンラインライブのテーマです。僕にとってライブとは、オーディエンスと共に創り上げてゆくもの。そのライブを創り上げる上で最も重要な“オーディエンスという表現者”たちが会場にいないということを、逆説的、かつ有機的に捉えられないかと考えました」

 オーディエンスとして会場で目撃するステージと、画面越しで観るオンラインライブとでは、観ているものが根本的に異なるのではーーそうした命題を立てて一度、30年かけて築き上げたライブという土台を壊し、新たに“オンラインライブにおけるライブ”を創り上げたのが今回の斬新な表現というわけだ。面白いのは、当たり前だと思っていたライブ感をどんどん剥ぎ取っていくことが、今しかできないライブ感を獲得していったという、まさに福山の言うところの「逆説的、かつ有機的」プロセスが発生したことだ。ただし、どうしても外せなかったものがある。それがオーディエンスの歓声や拍手だ。福山はそれを、例えばギターやキーボードなどと同列の音楽的マテリアルとして捉え、曲と曲の間に組み込むことで、セットリスト全体をひとつの物語として編むことに成功している。しかもその歓声は、過去ライブの音源やどこかにある素材などではなく、このライブのために彼のラジオ番組を通じてファンから募集した“生の声”だ。その一つひとつの声が合わさり、その瞬間だけの大きな歓声となっている。

 「暗闇の中で飛べ」の後のMCで福山はこう言った。「どこかの誰かのよくわからない声ではなくて“顔の見える声”ですよね。これまで年末に開催していた『福山☆冬の大感謝祭』でずっと聴いてきた声です。この声を聴いているだけでみんなの顔が思い浮かびます」

 「革命」「Popstar」はステージを移動してパフォーマンスされた。実は今回のために3つのステージが用意されているのだ。ひとつはアルバム『AIKRA』のアートワークで表現されている異次元世界を彷彿とさせる【『AKIRA』ステージ】、そしてカメラアングルによって異なる背景演出を可能とする【センターステージ】、全面が白で覆われた【ホワイトステージ】。この3つのステージを行き来しながら各曲の世界観を創っていく。【センターステージ】での「革命」と「Popstar」のパフォーマンスを終え、再び【『AKIRA』ステージ】へ。そこで「漂流せよ」、さらに映像を挟んで【センターステージ】で「トモエ学園」を披露した。無数のキャンドルの明かりが揺れる幻想的な空間は曲の世界観と相まって心に迫るものがあった。この後も、「失敗学」「甲子園」を【『AKIRA』ステージ】で、さらに【ホワイトステージ】で「ボーッ」と「心音」のパフォーマンスに臨んだ。さながら、壮大な試みがなされているライブの実験場(ラボ)とでも言うべき現場を目撃しているような趣があった。

 ここまでの曲順を見ていてお気づきだと思うが、今回のオンラインライブは12月8日にリリースされたオリジナルアルバム『AKIRA』の世界観を、音だけではなく、映像という形で可視化させるという福山にとって初の試みとなるプロジェクトだ。ここでもまた、“今しかできない”表現へのトライを存分に見て取れる。前提として、アルバムの曲順とライブにおけるセットリストの曲の並びとは必ずしも一致するものではない、という常識がある。それはもちろん、オーディエンスの期待するヒット曲を散りばめるというアーティストとしての責務もあるが、それよりも音楽的な流れの問題の方が大きい。作品には作品の、ライブにはライブの流れというものがあるからだ。

 では、いかにしてアルバムの曲順通りに演奏しながら、かつライブのダイナミクスを損なわずに構成できるか。そのために先に触れた3つのステージが大きな役割を果たしているのは言うまでもないだろう。曲ごとに立ち上がるそれぞれの世界観をハッキリと示すことはもちろん、ステージ間を福山が移動することで観ている側のテンションはライブのまま保たれる。ブロックごとに演奏が繋がっていることよりも、むしろそうした音楽ではない部分が浮き上がることで、オンラインライブにおけるライブは成立するのだということに気づかされる。当たり前だが、福山はこれを意識的に行っている。それはおそらく、彼が俳優というもうひとつの顔を持っていることも影響しているのではないかと推測する。シーンとシーンをいかにして繋いでいくかというスキルと経験則がここで大きな作用をもたらしているのではないだろうか。

「ステージを3つにしたことで、3つのシチュエーションというよりは、さらに複数のバリエーションを持つことができました。それは発見でしたね。この3つのステージを掛け合わせて、アルバム『AKIRA』の全曲を生演奏で表現する。そしてそれを最新の映像技術で表現する。例えば1本の映画を観るような、そんなイメージで楽しんでいただきたいと思います」

 アルバムのために書き下ろされた「ボーッ」では、イントロに福山のガットギターによるクラシカルな旋律や曲中でのスライドギターが、続く「幸せのサラダ」ではアコーディオンやマンドリン、多彩なパーカッションなどがいいアクセントになり楽曲の表情をより豊かにしている。アルバム再現ライブというものが存在するが、この『ALBUM LIVE AKIRA』は、再現を目指しているのでは決してない。アルバムの世界観を音楽的に、そして映像的に再解釈して立体的に立ち上げる、あくまで新たな表現として完成されており、再現とは一線を画したものだ。それは言わば、福山雅治というシンガーソングライター個人の奥深くから出発した表現が、より多くの人の物語として機能し始める瞬間を描くものなのだ。

 後半の「聖域」「零-ZERO-」「始まりがまた始まってゆく」という、すでにこれまでのライブで披露されたことのある楽曲のパフォーマンスを観ながら、いつか刻まれた出発点を確認することで、その想いはより鮮明になった気がした。そして、ラストソング「彼方で」は、福山個人の物語を我々一人ひとりに手渡すような確かな感触があった。17歳の頃の父親の他界という“自らのソングライティングの出発点”を辿って昇華した作品『AKIRA』を可視化させることーーそれこそが、福山雅治にとって“今しかできない”表現だった。

 彼の立つそこは、おそらく誰も立ったことのない新たな表現領域の“ある地点”だ。そこから一歩進んだ先に何があるのか、これからの福山雅治を見届けたい。そう思った。

■セットリスト
『FUKUYAMA MASAHARU 30th Anniv. ALBUM LIVE AKIRA』
M1 AKIRA
M2 煌
M3 暗闇の中で飛べ
M4 革命
M5 Popstar
M6 漂流せよ
M7 トモエ学園
M8 失敗学
M9 甲子園
M10 ボーッ
M11 心音
M12 幸せのサラダ
M13 1461日
M14 聖域
M15 いってらっしゃい
M16 零 -ZERO-
M17 始まりがまた始まってゆく
M18 彼方で

見逃し配信:2020年12月28日(月)~2021年1月3日(日)23:59まで

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福山雅治 – 30th Anniv. ALBUM LIVE AKIRA(Digest Movie)

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