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天皇杯決勝、浦和が現役を退く主将を優勝で送り出すのか? 大分が初優勝で退任する監督の最後の花道を飾るのか?

ぴあ

宇賀神友弥(浦和レッズ) 写真:JFA/アフロ

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今年は“元日・国立・決勝”ではない。『天皇杯 JFA 第101回全日本サッカー選手権大会』決勝は12月19日(日)・国立競技場にてキックオフを迎える。1月末には『FIFA ワールドカップ 2022 カタール』アジア最終予選・中国戦が控えている。12月に日本で行うはずだった『FIFA クラブワールドカップ 2021』はコロナ禍で開催権を返上した。選手たちを1日も早く休ませるため、日本サッカー協会は決勝の前倒しを決断したのだった。

覇権を争うのは、浦和レッズと大分トリニータである。両チームには負けられない理由がある。浦和のレジェンド・阿部勇樹が11月14日に今季限り引退を発表。以来、「天皇杯のカップを掲げて阿部を送り出す」がチームの合い言葉である。一方の大分はJ2降格の責を負い、片野坂知宏監督が今季限りで退任。選手たちは指揮官の最後の花道を初優勝で飾ろうと結束を固める。

タイトルへの渇望は変わらないが、準決勝の戦いぶりは対照的だった。12月12日、浦和はセレッソ大阪を埼玉スタジアム2002で迎え撃った。序盤はC大阪がやや優勢で試合を進めたが、先制点は浦和が獲得。29分、右SH関根貴大の右サイド深くからの柔らかいクロスがポストに当たりファーに流れると、左SH明本考浩がボールを収めシュートを打つもミートせず、そうならばと後方の左SB宇賀神友弥へパス。宇賀神はペナルティエリア左から右足をコンパクトに振り抜くと、ボールはゴール右に吸い込まれていった。3年前の『天皇杯』決勝でスーパーゴールを決めた宇賀神が、今季限りで契約満了となった宇賀神が、意地の一発を決めたのだ。

その後、ほしかった先制ゴールを手にした浦和は一気呵成に攻め込んだかと思えば、C大阪の反撃に遭うなど一進一退の攻防に。リカルド・ロドリゲス監督は73分に小泉佳穂、平野佑一のMFを投入し、ボールの保持率を高め、87分にはCB槙野智章と右SB西大伍ピッチへ送り出し、逃げ切り態勢へ入った。すると89分、小泉がゴール前へドリブルで侵入、ふたりをかわし、絶妙なタイミングでシュートを放ち、ジ・エンド。2-0で決勝の切符を手にした。

試合後の宇賀神の言葉が胸に響いた。浦和ユースから大学を経て、浦和へ舞い戻ってきた左SBは「正直なところ、(明治安田J1最終節の)名古屋(グランパス)戦で自分のピッチの上での役割は終わったのではという気持ちがあった。気持ちの切り替えが難しい日が何日かあり、監督に話をしにいこうかと考えた日もあった。このトーナメントを勝ち抜くことは来季以降浦和に残る選手にとって非常に貴重な経験だと思い、『僕じゃないのではないですか』と話をしにいこうと悩んだ日もあった。最後に頭に浮かんだのは支えてくれたサポーターに自分を見てもらうチャンスがあるならば、埼スタのピッチに立つことが浦和レッズの人間としてやれる最大のパフォーマンスなんじゃないかと思ってピッチに立った。そして悪い言い方にはなってしまうが、自分を契約満了にするという決断をした人たちを『ピッチで見返してやるんだぞ』と。『あなたたちは間違っていたんだぞ』ということを証明してやるという強い気持ちを持ってピッチに立った。今日のゴールにはそう言う気持ちが乗り移ったんじゃないかと思う。最後必ずタイトルを取って、最高の形で若い選手にバトンタッチしたい」と思いの丈を口にした。

阿部、宇賀神、そして同じく契約満了となった槙野と長い時間を過ごしてきたGK西川周作も「この試合が始まる前、正直怖かった。この試合に負けることがあれば、このメンバーと今日で最後になる。阿部選手、槙野選手、宇賀神選手、長く一緒にプレーしてきた選手と最後になってしまうという葛藤が試合前にあった。この感情をコントロールするのは非常に難しかったが、今日はファン・サポーターの方の力を借りて、集中して最後まで戦い抜くことができた。泣いても笑ってもあと1週間、このメンバーでサッカーができることをすごくうれしく思うし、価値のある『天皇杯』にしたいので、最後は勝って笑いたい。阿部選手にカップを掲げてもらうのをイメージしながらまた1週間がんばりたい」と複雑な胸中を明かした。

また、ロドリゲス監督は試合後の会見で「次の試合に向けて大きな希望、期待を持って戦っていけるようにする。浦和レッズという名前がアジアの舞台に再び返り咲けるよう、その前に『天皇杯』の決勝をしっかりと戦い、阿部勇樹に天皇杯を掲げてもらえるよう、チームがひとつになって戦っていければ」とキッパリ。

高木駿(大分トリニータ) 写真:JFA/アフロ

同じく12月12日、大分はV2王者・川崎フロンターレの本拠地・等々力陸上競技場へ乗り込んだ。『明治安田J1』で9勝8分21敗・勝点35の18位に甘んじた大分に対して、川崎Fは28勝8分2敗・勝点92。下馬評は王者絶対有利の中、大分は必死で食らい付いた。

前半から川崎Fがボールを握り、スピーディで細かいパスワークからサイドチェンジを織り交ぜ、隙を伺う。チャンスと見ればCFレアンドロ・ダミアン、MF脇坂泰斗、10番大島僚太らがシュートを放つもGK高木駿が立ちふさがる。後半も変わらず川崎Fのワンサイドゲームが続く77分、大分にビッグチャンスがやってくる。GKチョン・ソンリョンからボールを奪い、最後はMF下田北斗がシュートを放つも、枠をとらえず。その後も両チームともゴールが遠く、延長戦へ突入する。

この日当たりに当たっていた高木だが、ついにゴールを献上する。113分、途中出場のMF小塚和季の折り返しのパスを同じく途中出場のFW小林悠にゴール前で合わせられたのだ。絶対王者のとてつもなく大きくとてつもなく重い1点に等々力に集ったファンは川崎Fの2年連続決勝進出を確信したが、大分イレブンは諦めていなかった。延長後半アディショナルタイムに、下田のクロスにCBエンリケ・トレヴィザンがヘディング一閃。試合終了間際に勝負を振り出しに戻したのだ。

PK戦に入ってもこの日の高木は大当たり。3本のPKストップで初の決勝のキップを手繰り寄せた。

「今日はちょっと自分でもビックリするくらいいいプレーができた」と振り返った高木は、「全員で戦った。途中までずっと無失点に抑えていた。失点しても最後の最後で1点を返せたのが本当に大きかった」とチームの勝利だと強調した。

片野坂監督も「こうして試合が終わったあとでも、正直勝てたという実感がない。夢のような、ちょっと信じられない結果と感じている」と率直な思いを口にしつつ、「絶対王者の川崎Fに対して、我々がどうすれば勝てるのかとスタッフとともに準備し、選手はそれを信じて粘り強くやってくれた。高木駿のビッグセーブがなければ勝ち上がることができなかったゲームだと思う。本当にファン・サポーター、大分トリニータに関わるすべての方に、決勝に進出した喜びをもたらせてよかった。決勝戦も我々らしい戦いを思い切ってやれるよう、また1週間準備して、今季を最高の結果で終えられるようにしたい。悔しい思いをしたリーグ戦からタイトルを取るというところまでいけるように準備したい」と前を向いた。

J1リーグでの通算対戦成績を振り返ってみると浦和が10勝4分8敗、直近3シーズンの成績では大分が3勝1分2敗とほぼ互角の展開と言える。今季もイーブンとなった。4月25日・埼スタでの第11節は開始早々に西のゴールで浦和が先制するも、FW町田也真人の2得点で大分が前半の内に逆転。それでも浦和は75分に槙野の同点弾、82分には田中達也が古巣から決勝弾を決めて3-2、大分は泥沼の7連敗を喫した。7月10日・昭和電工ドーム大分での第22節は12分に町田のヘディングシュートで先制すると大分は激しいプレスから鋭いカウンターを連発。しかし運動量が落ちた後半は防戦一方に、それでも粘りの守備でゴールだけは許さず、大分が勝点3を勝ち取った。互いに苦手意識はないだろう。

果たして、浦和がスパイクを脱ぐチームキャプテンのはなむけに3年ぶり8度目の優勝を勝ち取るのか、大分が監督の最後の置き土産として初制覇を成し遂げるのか。『天皇杯』決勝・浦和×大分は12月19日(日)・国立競技場にてキックオフ。決勝も準決勝2試合と同様に人数制限を撤廃し、観客収容率100%で実施される。チケットは予定枚数終了。試合の模様はNHK総合にて生中継。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

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