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『BNA ビー・エヌ・エー』は世界を見据えた意欲作に 注目を集め続けるTRIGGERの戦略

リアルサウンド

20/4/8(水) 8:00

 TRIGGERが世界を狙いにきた。

 Netflixで先行配信されているTVアニメ『BNA ビー・エヌ・エー』を鑑賞した際に、一番に思ったことだ。『プロメア』の大ヒットも記憶に新しいアニメスタジオ・TRIGGERは、時にはバカバカしいほどにけれん味のある、熱いバトルアニメを制作するスタジオという印象が一般的だろう。だが、近年は緻密な世界展開への戦略など、新たなる客層を呼び込むことをより重視しているようにも感じられる。今回はTRIGGERの作品から垣間見える、ファン層拡大に向けての戦略について考えていきたい。

参考:『プロメア』は大衆娯楽映画の最先端に 強烈な生のエネルギーを描くTRIGGERの手法とは

 今、アニメ業界は大きな転換期にある。これまでも日本アニメが世界中で人気を集めた事例は数多くあるものの、それがビジネスとして成功するに至った例はそう多くない。スタジオジブリの世界的な知名度の高さや、1996年に『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のビデオ売り上げがアメリカビルボード誌で1位を獲得するなどの例があるものの、その人気はアニメ業界で一般的な現象であるかと問われると、言葉に困るのが現状だろう。

 そんな中、現在の日本アニメを取り巻く状況の変化として顕著なのが、世界市場へのアピールだ。これはNetflixなどの配信サービスの充実化と、それにより日本アニメの世界的な人気が可視化されたことにより、より世界市場へのアピールが容易になってきている。Netflixは視聴者数などは公表していないものの、日本国内でのランキングTOP10には日本アニメ作品も数多く並んでおり、世界的にみても決して軽視できないほどの視聴者がいることは想像に難くない。プロダクションI.GをはじめとしたいくつかのスタジオはNetflixと業務提携を結ぶなど、世界に向けて大きな変化を始めている。

 そんな中で面白い試みを行っているのが、フジテレビのアニメーション放送枠「+Ultra」だ。公式サイトにも明確に「海外にアニメカルチャーを広げていきたい」と書かれており、Netflixでも配信することで、世界視点で人気を集める作品を取り揃え、放送枠としてのブランド価値を高めようとアピールを続けている。作品も『コードギアス 反逆のルルーシュ』など多くの人気作を手掛ける谷口悟朗監督の『revisions リヴィジョンズ』や、『カウボーイビバップ』などで世界的にファンの多い、渡辺信一郎監督の『キャロル&チューズデイ』など、アニメファン垂涎の面々を揃えている。今回『BNA ビー・エヌ・エー』も「+Ultra」内で放送されている。

 この世界展開が一般化している中で、いち早くその可能性を見出したのがTRIGGERだったのではないだろうか。過去作『リトルウィッチアカデミア』は、若手アニメーター育成支援プロジェクトの一環である「アニメミライ2013」の作品として制作された、30分弱の短編アニメだ。続編制作のためにクラウドファンディングで資金を募ったところ、初日で目標金額達成、最終的には62万ドルが集った。これは『この世界の片隅に』がクラウドファンディングを利用するよりも前の話であり、多くのアニメファンを驚愕させたが、最も衝撃を受けたのはTRIGGERの経営陣だったのではないだろうか。

 なぜTRIGGERはそれほど注目を集めるのか? その特徴の1つが、オリジナル作品の多さだ。初の元請制作を行ったTVアニメ『キルラキル』以降、オリジナル作品を多く手掛けているスタジオであるが、これは前身にあたるGAINAX時代から受け継がれてきた文化の1つであると、大塚雅彦代表と今石洋之監督が『月刊MdN 2017年5月号』で語っている。オリジナル作品は大変な労力がかかるうえ、原作の知名度に頼れない以上ヒットの可能性も未知数になるが、それがTRIGGERでなければ発揮できない魅力を生み出す原動力となっている。

 『BNA ビー・エヌ・エー』もオリジナル作品だが、人間と獣人の世界を舞台とした差別が明確なテーマとなっている。世界的な関心の高い差別問題を描くことで、広い視野と深い社会批評性を内包した作品にしたいという試みが伝わってくる。

 ディズニーアニメーション『ズートピア』や、同じ「+Ultra」で放送された『BEASTARS』も同じような図式の作品であったが、2作品が草食獣と肉食獣の生態を描くことで、差別問題を描き出していたことに対し、『BNA ビー・エヌ・エー』は元人間が獣人になってしまうという差異を出してきた。この点を中心に、いかにTRIGGERらしい作品を生み出すことができるのかどうか、今後の展開を楽しみにしたい。

 TRIGGERは国内の男性アニメファン向けなスタジオという印象が強かったものの、それを覆したのが『プロメア』だろう。新千歳空港国際アニメーション映画祭にて行われたトークショーでは、事前に用意された椅子がなくなり、立ち見客が出るほどの盛況具合であったが、観客の8割が女性だったことも驚かされた。応援上映などに駆けつける熱い女性ファンを獲得することで、興行収入10億円以上のヒットを記録している。

 また『プロメア』の英語吹替版では、スタッフたちが中心となり演技の方向性などを指示しており、女性と海外という既存のファン層とは異なる人たちを取り入れる、強かな戦略を感じさせた。今回の『BNA ビー・エヌ・エー』では動物の動きも可愛らしく、子供たちからも受けいられる可能性も感じさせ、ファミリー層からも支持を得る作品になりうるのではないだろうか?

 近年『羅小黒戦記』など、中国のアニメーションの一部作品にはすでに日本アニメと見分けがつかない作品が生まれている。日本アニメはすでに国境を超え、少なくとも東アジア全体のテイストになってきている。独特なルック故に、ヨーロッパアニメーションが中心となるコンペディションなどと比べると、日本アニメはガラパゴス化しているのではないか?という声も散見される。しかしそれは、日本アニメが世界へのアピールが足りていないが故の声といえるかもしれない。日本アニメが“世界のアニメ”になるかどうかによって、今後のアニメ業界の先行きが決まる。その鍵はTRIGGERが握っている。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。

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