Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

劇映画でしか描けない“真実”。『テッド・バンディ』監督が語る

ぴあ

19/12/17(火) 12:00

『テッド・バンディ』 (C)2018 Wicked Nevada.LLC

1970年代のアメリカで30人以上の女性を殺害した男とその恋人のドラマを実話を基に描く映画『テッド・バンディ』が20日(金)から公開になる。監督を務めたジョー・バリンジャーはドキュメンタリー界で数々の作品を発表してきたベテランで、この映画では歴史にその名を残す殺人鬼を“恋人が凶悪犯だとは知らなかった女性”の視点から描いている。映画の完成後、娘たちとプレミア上映会に出席したバリンジャー監督は、帰り道に質問されたという。「パパ、この映画は“誰のことも信頼するな”って言ってるの?」。映画監督、そして父親ジョー・バリンジャーは何と答えたのか?

頭脳と話術を駆使して相手を翻弄し、信頼させ、凶行におよぶ冷酷で残忍な殺人者。“シリアル(連続の)キラー(殺人者)”の語源にもなった男。それがテッド・バンディだ。彼は1970年代のアメリカで多数の若い女性を殺害し、死体を凌辱。7つの州に渡って犯罪が行われ、逮捕されるも2度も脱獄。1989年に死刑が執行されたが、現在にいたるまで殺された人の正確な数はわかっていない。

「計画していたわけではなく偶然にそうなってしまったのですが、この映画とドキュメンタリーのプロジェクトを同時に進行することになりました」とバリンジャー監督は振り返る。ドキュメンタリー企画はNetflixで配信中のミニ・シリーズ『殺人者との対話:テッド・バンディの場合』に結実し、映画『テッド・バンディ』も完成したが、監督は「両方を同時に進めたことで、それぞれの作品の目的を明確に見定めることができた」という。

「ドキュメンタリーは“何が起こったのか?”を真実に沿って包括的に描き、バンディ自身の言葉を通じて殺人者のマインドに深く潜り込んでいくような作品にしたいと考えました。しかし、同じことを映画でやるのは無理です。物語の枠にドラマを圧縮するにはあまりにも情報が多すぎますし、仮に俳優がバンディら実在の人物を“マネ”をしたとしても、本人の記録映像より興味深いものにはならないでしょうから」

そこで、監督は“コインの反対側”に視点を移すことにした。つまり、事件の被害者のドラマだ。「ドキュメンタリーが“真実”を描くとしたら、映画では“エモーショナルな真実”を描き、事件の被害者の主観的な体験を掘り下げようと思いました。ですから、私たちはあえて映画の前半部でバンディのことを“信頼できる人物”として描いています。そうしなければ、被害者の感じたことを観客の方に体験してもらえないからです。こんな風に観客の感情を操るような手法はフィクションだから可能なわけで、ドキュメンタリーではしてはいけないことです」

リリー・コリンズ演じるシングルマザーの女性リズはある日、バーで素敵な男性テッド(ザック・エフロン)と知り合う。笑顔が素敵で、優しくて、家庭的で、ひとり娘のモリーのことも受け止めてくれるテッドとリズは恋に落ち、幸福な日々が始まるが、ユタ州をドライブしていたテッドはスピード違反で逮捕されたのをきっかけに誘拐未遂事件の犯人だと言われてしまう。自分は無実だと訴えるテッドと、優しくしてくれるテッドが凶悪犯だとは信じたくないリズ。やがてテッドには次々と容疑がかけられていき、事件の行方は法廷にゆだねられる。

この記事の冒頭に書いた通り、私たちがテッド・バンディが何者なのかを知っている。しかし、リズにとってテッドは愛すべき、信頼すべき恋人だった。「この映画は先入観と誤解にまつわる作品だと言えるかもしれません。私たちは、連続殺人犯は“モンスター”のような存在で、自分とは遠い場所にいると考えがちです。しかし、実際の悪人はモンスターではなく、簡単に見極められるようなものではありません。25年に渡って犯罪ドキュメンタリーに携わってきた経験から言えることですが、犯罪者は“絶対に悪いことはしなさそう”と思える人や、私たちが信頼を寄せている人間だったりします。この事実を描くことは私たちにとってツラいレッスンかもしれません。でも、これらのすべては先入観と誤解から生じているのです」

リズは信じている。テッドは優しい人物で、そんな悪いことをする人じゃない。テッドの正体を知っているあなたはリズを愚かな人間だと思うかもしれない。でも、それはあなたが客席で、安全圏から物語を観ているからで、リズと同じ立場に立った時、あなたは信頼する人間が“極めて邪悪で衝撃的に凶悪で卑劣”な人間だと見抜けるだろうか?

「この映画のプレミア上映のあと、娘たちと車で帰宅しながらいろいろと話したのですが、娘から『パパ、この映画は“誰のことも信頼するな”って言ってるの?』と質問されました。私は“そうじゃないよ。でも誰かを信頼することで危険な状況に置かれてしまうことがあるんだよ”という話と、“だからこそ相手にとって信頼してもらえるような人間になるのが大事なんだよ”という話をしました。正直に言いますと、親としては難しい問題です。私だって若いころに海外に長い旅行に出て、そこで出会った人に優しくしてもらったり、一生続くような友人に出会ったりもしてきました。でも、娘には“簡単に人のことを信頼しちゃダメだよ”と言ってしまっている。その矛盾に対する明確な説明をいまだに私は持っていません。邪悪さは私たち人間の一部にあるものですから……“誰のことも絶対に信頼するな”とは言わないけど“盲目的に信じてはいけないよ”とは言いたい。でもその境界がどこにあるかと問われると……答えはないんですよね」

バリンジャー監督は何かを断罪したり、まるで自分が神でもなったかのような視点で事件を語ったりはしない。この映画の物語はあなたを導き、誤解させ、勘違いさせ、先入観を与える。そして少しずつヴェールは剥がれていき、邪悪な面が顔を出す。その時、あなたは何を感じるだろうか?

「ですから、この映画ではテッド・バンディを描くのと同時に、リズを支える友人を描くことが必要でした。人間は誰しもが優しさや温かさを表現できる一方で、自己中心的で邪悪なものを表現できる。そのふたつはどちらも人間の中にあるものです。人間には悪もあれば、善もあるのですから」

『テッド・バンディ』
12月20日(金)よりTOHO シネマズシャンテほか全国ロードショー

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む