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SUPER BEAVER、sumikaら所属レーベル<murffin discs>志賀正二郎氏が語る、“日本語のメッセージ”を大切に歩んだ軌跡

リアルサウンド

20/6/4(木) 12:00

 バンドシーンを引っ張り、ライブハウスの“今”を担う気鋭のレーベルを取材する連載「次世代レーベルマップ」。第2回は、SUPER BEAVER、sumika、マカロニえんぴつ、Czecho No Republicといったバンドが所属する<murffin discs>より、レーベルの立ち上げを担い、現在はレーベルヘッドを務める志賀正二郎氏を迎えた。立ち上げ当初から現在に至るまでの経緯、自身の音楽遍歴や未来に向けた眼差しなどを語ってもらうことで、変化の激しい時代の中で信念を貫き、シーンを賑わすバンドを多数輩出する<murffin discs>ならではの特色をしっかり感じられるインタビューとなった。なお、次回からは、<murffin discs>内のレーベル<[NOiD]>代表・永井優馬氏、<TALTO>代表・江森弘和氏と3回連続で迎える予定だ。(編集部)

レーベル立ち上げ〜現体制に至るまで

murffin discs

ーー今の仕事に就かれるまでの経緯からお伺いしてもいいですか。

志賀正二郎(以下、志賀):もともと僕自身もバンドをやってまして、とあるインディーズレーベルにアーティストとして所属してたんですけど、当時の社長に「お前、裏方の方が合うな」ってズバッと言われて。特性を見抜かれたのかわからないですけど、それが転機になって裏方に回りました。それから今の会社(株式会社エッグマン)の社長に誘われて移ってきたっていう経緯があります。

ーーそこから<murffin discs>はどうやって立ち上がったんでしょう?

志賀:移ってきてからはライブハウスのブッキングも並行してやってたんですけど、社長からは「レーベルやりたいよね」と当初から話をされていたので、そこで<murffin discs>が立ち上がって。カッコいいなって思う音楽を発信するレーベル作りを始めようと思ったんですけど、最初は鳴かず飛ばずで全然上手くいかなかったんですよね。

ーーきっかけを掴んだ瞬間はいつだったんでしょうか。

志賀:Czecho No Republicの前身バンドにあたるVeni Vidi Viciousと出会った時ですね。社長がブッキングしてeggmanに出演してたんですけど、すごくカッコいいなと思って。その周りにはちょっとしたシーンもできていて、そこにThe Mirrazもいたので、彼らを絡ませたら面白いんじゃないかと思って、The MirrazとVeni Vidi ViciousのスプリットEP(『NEW ROCK E.P』)を2007年に出したんですよ。それがノンプロモーションだったけど1,000枚すぐに売り切れちゃって、「なにこれ、すごい!」と思いました。それでレーベルもいい感じになるかもなって。

ーーたしかに当時の感覚からすると、Czecho No RepublicやThe Mirrazって新しい感性を持ったバンドたちでしたよね。具体的にはどういうところに惹かれたんでしょうか。

志賀:例えば海外でいうとThe Libertinesみたいな、生意気な雰囲気で、0点か100点のライブしかできないようなロックバンドっているじゃないですか。そういう感じがあったんですよね。0点か100点しかないけど、それを見たいが故にファンがいっぱいライブハウスに来ていて。100点のライブを見た時の感動はスタッフ側にも伝わってきていましたし、そこをどんどん追求していきたくなりました。

ーーさらに所属アーティストの幅が広がっていったのはいつ頃でしょうか。

志賀:2011年に永井(優馬)が<[NOiD]>を立ち上げたことで広がった気がしますね。僕はもともとオルタナティブロックがすごく好きで、NUMBER GIRLとかMO’SOME TONEBENDERを通ってきたので、いわゆるJ-POP、J-ROCKにそんなに触れていなくて(笑)。そこで、eggmanで働きながらSUPER BEAVERやsumikaの前身バンドをブッキングしていた永井から「レーベルをやりたい」っていう話が持ち上がって<[NOiD]>ができて、間口が広がったと思います。

ーーそこから2016年に<TALTO>が立ち上がる流れに繋がっていくんですね。

志賀:そうですね。もともとうちのアーティストと、<TALTO>を担当しているエモさん(江森弘和)が前の会社でマネジメントしていたアーティストがよく一緒にツアーを回ってたんですね。エモさんとはすごく息が合って、同じようなアティチュードを持ってる人だなと思って毎週飲みにいって意見交換していたんですけど、エモさんが前の会社を辞めるっていう話になったので、「じゃあうちに来てもらえないですか?」って誘ったんですよね。それで<TALTO>が立ち上がって。僕が東京カランコロンやSAKANAMONをすごく好きだったっていうのも大きいです。

ーー体制が整ってきたことで、<murffin discs>はどんな特色のレーベルになっていると感じますか。

志賀:最初に立ち上がった<mini muff records>はオルタナティブロックの趣向が強い印象です。<[NOiD]>は比較的J-POP寄りなバンドが多くて、<TALTO>はJ-POPなんだけど癖強め、みたいなジャンル分けが勝手にされていったというか。それぞれ担当者の色がちゃんと反映されてると思うんですけど、レーベル全体としてはオールジャンル網羅になってきているかもしれないですね。

ーーおっしゃる通り、決して音楽性を限定しないことが<murffin discs>を特徴づけていると思うんですけど、ご自身が理想としていたり、憧れていたのもそういうレーベルだったんでしょうか。

志賀:僕が本当に好きだなって感じていたレーベルは、日本コロムビアの<TRIAD>っていうレーベルで。THE YELLOW MONKEYとかTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとかクラムボンがいたので、それくらいカッコいいバンドを輩出しているレーベルを目指していた部分はありますね。あと、<Ki/oon>にもギターウルフからL’Arc-en-Cielまでいたので、それくらい幅広いレーベルがカッコいいと思ってました。

「年齢関係なくいいバチバチがちゃんとある」

ーー志賀さんから見て、<murffin discs>の所属アーティストに共通するものって何だと感じますか。

志賀:表現するジャンルは多岐にわたるんですけど、メロディが際立ってるバンドが多いなと思います。レーベルでの暗黙のルールがあって、英詞のバンドはやらないんですよ。僕が日本語詞のバンドに影響されたっていうのも大きいんですけど、日本語のメッセージ力を大切にするバンドがいいなって思っているので。

ーーまさにそれは自分も感じてたところで、歌や言葉でしっかりとメッセージを伝えるバンドが多いですし、それを際立たせているのがグッドメロディだと思うんですよね。

志賀:ありがとうございます。歌詞についてはアーティストと話し合ったりしていますね。ただ、スタッフの話を聞き過ぎてアーティストが失敗するのはよくないじゃないですか。あくまでスタッフはアドバイス程度というか、アーティスト自身が決めてジャッジするのが一番いいと思うんです。乱暴な言い方になってしまいますが、もし仮に成功しなくても、自分たちの責任だってことははっきり分かるわけですから。たぶん自分たちでディレクションできないバンドは、これからダメになっていくんじゃないかと思うし、アーティスト自身がちゃんと考えないといけない時代に来てるんじゃないかなって。

ーーそういった意味では、どのように時流と対峙しながらやってきたと感じますか。

志賀:あんまり時代の流れを汲んでる感じはしてないですね。それこそSUPER BEAVERとかsumikaって、流行とは関係ない音楽だと思うんですよ。ひたすらグッドミュージックをやっている感じなんで、流行にとらわれてる気はあんまりしなかったです。Czecho No Republicとかも時代の流れに乗ってたわけではないので、自分たちが好きだからひたすらやってきた印象の方が強いかもしれないです。

SUPER BEAVER「予感」MV
sumika / Lovers【Music Video】
Czecho No Republic(チェコノーリパブリック) / Forever Dreaming

ーーフェスブームの中でも、しっかりライブハウスに根ざして集客を上げていきましたよね。

志賀:そこは単純にフェスに誘われなかっただけだと思います(笑)。でも、自分のライブでしっかりお客さんをつけてから誘われようねっていう想いは脈々と繋がってきているので、ライブハウスをすごく大切にしているというか。自分たちのライブをしっかり作り上げてから、大きな舞台で披露しないと、結局フェスでもお客さんを掴めないんじゃないかなって思うんですよね。

ーーバンドの地力を養うということですよね。

志賀:はい。新人バンドを育てなきゃいけないからこそ、まずは先輩バンドが揺るがないことも大切だし、そこが崩れちゃったらレーベル自体が崩れると思うんで。オーディション(『murffin AUDITION』)が始まったのが2014年で、初回はAmelieが優勝しているんですけど、状況のいいバンドが増えてきたからこそ、そういうアーティストに影響を受けた新人バンドもどんどん出していって盤石の状態にしていきたいっていう狙いもあったんです。バンドって人間なんで解散も起きるし、やっぱり状況が悪くなる時が少なからずあると思うんですよ。だから次々ちゃんと育てていかないと、いつか上の世代のバンドがいなくなった時にどうするんだっていう話もあるので、そうなる前にどんどん新しい才能は発掘しなければなっていう感じですね。本当はヒップホップとか打ち込み系とかボカロのアーティストもやってみたいんですけど、オーディションでのうちのスタッフの意識として、最終的にメロディがいいバンドにフォーカスされるんだなっていう感じはしましたね。一昨年はosageとなきごと、去年はSherLockが選ばれてますけど、やっぱりメロが強いっていうのが一致してるというか。

osage/アナログ 【MUSIC VIDEO】
なきごと / 『メトロポリタン』【Music Video】
SherLock / 杪夏【Lyric Video】

ーーなるほど。でも、なきごと辺りを聴いていても、言葉の感覚とともにメロディも更新されてきている感じがしました。

志賀:本当にそうですね。彼女たちはちょっと天才肌なんで、あの言葉のチョイスはなかなか出てこないなって思います。メンバーにも言ったことがありますよ、「こんな歌詞書けないわ。まともじゃないわ」って(笑)。

ーー(笑)。そうして個性の強い新人がいることで先輩バンドの良さも立ちますよね。

志賀:実は年に1回、レーベルの全アーティストを集めた新年会をやるんですよ。いわゆる新人バンドが先輩たちにご挨拶する場ですね。オーディションから入ったアーティストは何を話していいのか分からず緊張しますよね。でも先輩から声をかけてもらって色々と有難いお話をいただいている感じです(笑)。ちょうど今の30代中盤くらいのアーティストって、対バンの打ち上げとかで音楽論にすごく熱中してるというか、生真面目にやってきているところが出るんだなって思いますね。でも、そうやって先輩たちが音楽に厳しいのは、下の世代にも一番勉強になってると思いますし、シビアに考えて音楽やってるから今の地位があるんだっていうのを目の当たりにできるのは、いいことなのかなって。この間も事務所で、先輩バンドが後輩バンドのメンバーに「今回すごくよかったね」って声かけて、楽曲のフィードバックとか意見交換をしっかりやっていて。褒めるところはちゃんと褒めるし、「もうちょっとこうした方がいいんじゃない?」みたいにアドバイスしているのも見たりします。先輩同士もいいライバル関係ですし、年齢関係なくいいバチバチがちゃんとあると思いますね。

新しいコンテンツでマネタイズする必要性

ーーレーベルの良さを楽しめるのが『murffin night』だと思うんですけど、今年は新型コロナウイルスの影響で3月6日の名古屋ダイヤモンドホール、3月18日の新木場STUDIO COASTでの開催が中止になりました。ロックバンドの大きな力の一つは現場で音楽を伝えることだと思うんですけど、それができなくなってしまった今、レーベルとしてどういう部分に注力していかなければいけないと考えますか。

志賀:ミュージシャンだからこそ、そこは音楽で何か表現しなきゃいけないのかなと思っていて。もちろん現場のメッセージは重要だと思うんですけど、根本は音楽じゃないですか。ライブはネットで配信くらいしかできないですけど、だからこそ制作したり新曲を書き溜めて、しかるべき時にズドーンと発射できるような準備期間なのかなって思ったりもするんですよね。変な言い方ですけど、そういう時間をもらえたというか。やっぱり最終的にはいい音楽を届けることしかないんじゃないかなと思ってますね。

ーーそんな中でも、例えばSUPER BEAVERのメジャー復帰はファンも歓喜する素晴らしいニュースだったと思いました。

SUPER BEAVER 「ハイライト」 MV

志賀:1回メジャー契約を切られて、どん底に落ちてから這い上がってきた彼ららしいというか、今回のメジャー復帰もこの世の中の状況もあっていいタイミングとは言えなかったですけど、ここから挽回するのがSUPER BEAVERかなとは思ってますね。お客さんとしても平坦な道を行くバンドよりも、デコボコ道を行くバンドの方が人生を投影できると思うし、苦難があった方が音楽は絶対によくなるんですよね。ずっと成功してるバンドは見たくないとは思うんですよ。やっぱりドラマがないと、奮い立たせる何かがないと無理なんだろうなって。

ーー志賀さんご自身も、そうやってドラマを作るアーティストに惹かれてきたんでしょうか。

志賀:まさにそうですね。フィッシュマンズがすごく好きなんですけど、もう彼らってドラマしかないじゃないですか。ものすごいドラマの中にああいう音楽性があって。佐藤(伸治)さんが亡くなった後、ライジングサン(『RISING SUN ROCK FESTIVAL』)で復活するっていう話があったんで観に行ったんですけど、もう号泣でしたね。勝手に涙がドロドロ出てくるっていうか……あのライブはたまらなかったです。あとはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTも好きで、豊洲でやった第2回のフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL』)を見に行ったんですけど、お客さんがドミノ倒しみたいになってライブが何回も中断して……。

ーーものすごい映像が残ってますよね。

志賀:すごかったですね。地面がマジで揺れたんですよ、これ大丈夫かな……みたいな(笑)。何回も中断して、チバ(ユウスケ)さんが「下がってくれ」みたいに言って。ああいうハプニングが起きても、やっぱりアーティストがちゃんと引っ張ってくれる感じというか、そういうものにこそ惹かれる気がしますよね。

ーーフィッシュマンズにしてもミッシェルにしても、そういう出来事って意図的に引き寄せられるものではないじゃないですか。

志賀:運命的なものを感じますよね。

ーー特に2010年代以降はネット発のソロアーティストも増えてきたからこそ、そこに生まれるドラマ性も90年代とは違うものになってきていると感じます。

志賀:そうですね。それこそネット上だと炎上もありますから、ハプニングってあまりいい例ではないと思うし、発言には慎重にならざるを得ないですよね。ただ、こういう時代だからこそ起こせるバズもあるんだろうなとは思ってます。やっぱり新しい仕掛け方も常に考えなきゃいけないんだろうなって。

ーーその点で、今面白いと感じられている新しいカルチャーってどういうものなんでしょうか。

志賀:今年は新木場でのレーベルナイトができなかったので、事務所を使ってスタジオライブをやったんですけど、それを小学生の息子がYouTubeで見ていて「パパ、テレビ出てるね」って言われたんですよ。完全に芸能人みたいな感覚で言われた時にハッとしたというか、最近の子って「YouTuber=芸能人」なんだと思って。カッコいい職業、なりたい職業上位にYouTuberがあるっていう話もよく聞くじゃないですか。今の子たちにとっては、YouTubeがヒーローになり得るコンテンツなんだってことを身をもって知らされたんですよね。テレワークになってから息子と一緒によくYouTuberの動画を見るようになったんですけど、どれもしっかりコンテンツを作っていて。正直ちょっと舐めてたところがあったんですけど、ネタも考えなきゃいけないし、何日もかけて撮影と編集やってもたった10分ちょっとの動画しか作れないんだ……と思うと、ものすごいハードな仕事だなと思って、ちゃんとリスペクトするようになりました。レーベルでも、僕がピエロになってもいいから、そういう新コンテンツ事業部を作ってみたいねっていう話をしてたところなんです。

はっとり(マカロニえんぴつ) / 恋人ごっこ

ーーMVなどとは別に、アーティストが出演する動画を充実させていくイメージでしょうか。

志賀:そうですね。もちろんアーティストの個性によって、動画に出演する、しないはあるとは思いますが。こうやってアーティストが現場で動けない状況になった時に、新しい動画コンテンツでマネタイズして、お金を生み出すことも考えなきゃいけない。こんな状況になるとは正直思ってなかったですけど、コロナ禍が一度収まってもまた来るかもしれないので、新しいコンテンツ作りはちゃんとしておかないとダメだなって今すごく感じてます。あと、いわゆるロック好き、音楽好きだけじゃないグレー層を掴むには、それがいいんじゃないかって思ったりするんですよね。ちゃんと音楽に付随したもので、好きな趣味を伸ばしていく企画とか、ネットで配信できることはたくさんあるよなって思います。

ーー軸にロックバンドがありながらも、かなり柔軟にチャレンジしていくことをお考えなんですね。

志賀:そこはかなり自由に考えてるというか、僕がカッコ悪いと思ってることが、実は世の中的にはカッコいいのかもしれないし、数年後にカッコよくなってるのかもしれない……そう思うと、あんまり型にはめて考えたくはないですね。昔と比べたらすごく柔軟になった気がします。一つ思うのは、アーティストをマネジメントするっていうのは、言うなれば宝くじみたいな部分もあって、買わないと当たるかどうかも分からないんですよね。確率は決して高くはないし、少なからず運もあると思うんですけど、だからこそうちのレーベルはアーティストに下駄を履けせたくないんです。動員が全然ないのにデカい会場押さえてライブやれっていうのはできなくて。しっかり身の丈に合った活動を重ねていかないと足元を掬われちゃうなとは思ってるので、そこはすごく大切にしていることかもしれないですね。

murffin discsオフィシャルサイト
murffin discs Twitter

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