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『鬼滅の刃』“かまぼこ隊”の魅力とは? 支え合う人間関係が教えてくれること

リアルサウンド

20/11/13(金) 8:00

 『鬼滅の刃』のアニメ映画化『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』によって、よりフォーカスされている“かまぼこ隊”。この“かまぼこ隊”とは、主人公・竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助のトリオを指す、いわばチーム名のこと(炭治郎の妹・禰豆子を含める場合もアリ)。本作にあまり関心がなくとも、彼らのことは知っているという方も多いだろう。そんな“かまぼこ隊”の関係性には、本作における一つの大きな魅力が詰まっているように思う。

 あらかじめことわっておくが、“かまぼこ隊”とは一部のファンが彼らを呼称するときに用いるもので、公式名称ではない。ここではこのトリオの関係性について言及するのだが、愛らしい彼らに親しみを込め、“かまぼこ隊”と呼ぶことにする。ことの発端は、第4巻27話でのこと。一戦を交えたばかりの炭治郎に向かって伊之助が、「かまぼこ権八郎!! お前に勝つ!!」と名前を間違えたのがはじまり。その後も伊之助はこれでもかと炭治郎の名を呼び間違えるが(わざととしか思えない)、この「かまぼこ権八郎」という名がファンの間で人気を博し、彼らのことを“かまぼこ隊”と呼ぶようになったのだ(そういえば、かの煉獄さんも炭治郎のことえを「溝口少年」などと呼んでいた……)。

 このようにして名前を間違えられた炭治郎は“ツッコミ”を入れるのだが、かといって彼がこのトリオのツッコミ担当というわけではないことは多くの方が知るとおり。炭治郎は生来の底抜けの優しさや生真面目さがたたって、世間の感覚とのズレを生み、それがボケに転じることがある。目上の者に対しても、「間違っている」と感じれば噛みつかずにはおれないのが彼の性分だ。いわゆる一般的な常識からズレており、そのへんを心得ている善逸がここではツッコミに回る。相手が強者だと見れば、とにもかくにも飛びかかろうとする伊之助などはみなから総ツッコミだ。

 さて、そんな三人だが、彼らの個性の強さは言うまでもない。炭治郎は正義感も責任感も強く、曲がったことは許せない、まさに頑固一徹。その“頭の硬さ”ゆえに、ときに思考が柔軟性に欠けることもある。善逸は臆病者で、敵前逃亡とまでは言わずとも、敵を前にして腰が抜けてしまうこともあった。伊之助はもっとも好戦的で、山育ちに由来する“動物的勘”が先んじて、状況を早合点してしまう性質がある。この三者三様のキャラクター性は表立ったもので、標準スタイルだが、その場に応じて関係性が瞬時に転換することもある。これは何を意味しているのだろうか?

 弱っているとき、怒っているとき、悲しみにくれているとき……あるいは楽しくて仕方がないとき、人はしばしば自分を見失う。この事実を前提としたうえで“かまぼこ隊”を見ると、彼らは自在に立場を転換し、自然と“支え合う関係性”を保っているように思える。その場その場でのそれぞれの足りないものを、互いに補い合っている印象だ。柔軟に立場を転換できる人間関係の大切さを、この三人はその身をもって示しているように思うのである。それがときとして、“ボケ”と“ツッコミ”の関係に見られることがあれば、まだ若い彼らの精神的な成長面においても見受けられるのだ。

 たとえばいま話題の映画「無限列車編」でいえば、強敵・猗窩座を前にして崩れた煉獄さんを囲んで、炭治郎が取り乱す場面がある。読者である私たちでさえそうだったのだから、彼の胸中は計り知れない。ここで炭治郎は自身の弱さに打ちのめされている。この弱さとは、肉体的な弱さだけでなく、無力さを知った己の自信の喪失からくる精神的な弱さでもあった。“かまぼこ隊”のリーダー的な存在といえば、やはり炭治郎。しかしここでは、炭治郎の強靭な心が折れかけてしまうのだ。

 そんな炭治郎を必死に鼓舞したのが伊之助。ふだんは「猪突猛進」が口グセの、自分勝手な彼が、である。それに善逸も続くかたちとなった。三人ともが洪水のように涙を流しているのは、感情を共有し合っている証でもあるはず。もちろんこのような互いに影響し合う関係は、その後の展開にも反映されていく。いざというときに善逸は、恐怖心を払拭する踏ん張りを見せるし、伊之助は、より人間らしい感情や情緒といったものを知るようになる。この二人がいるからこそ、炭治郎はまるで“長男”のような役割を果たすこともあるのだ。この関係性がもっとも顕著に描かれているのが、やはり「無限列車編」なのだろう。

 壮大な物語が紡がれる『鬼滅の刃』。その中心に立つ“かまぼこ隊”の関係性にフォーカスしてみても、なぜ本作がこんなにも支持されているのか、その理由が自ずと見えてくるような気がする。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■書籍情報
『鬼滅の刃』既刊22巻
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
価格:各440円(税別)
公式ポータルサイト:https://kimetsu.com/

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