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RADWIMPSが3月11日発表曲を通して伝え続けること 「世界の果て」を機に考える

リアルサウンド

20/3/13(金) 12:00

 3月11日、RADWIMPSが「世界の果て」という新曲を発表した。誰でも自由に無料で聴くことができるようにと、バンドの公式YouTubeアカウントでのみ聴くことができるようにしている。動画の備考欄にはボーカル野田洋次郎の楽曲に込めた想いについて綴られている。内容は2011年3月11日の東日本大震災についてだ。

(関連:映画『天気の子』とRADWIMPSの音楽が“現代の大人たち”を解放する 劇中5曲の視点から紐解く

 RADWIMPSは震災の発生後すぐに被災地へ支援の手を差し伸べた。震災発生から3日後には被災地へのメッセージと義援金を募るサイト『糸色-Itoshiki-』を開設。義援金は合計2500万円を超えた。2013年には野外ワンマンライブ『青とメメメ』を被災地の宮城県で行ない2万2千人を集客した。

 RADWIMPSは義援金を募ったりライブを行うことで震災後の地域活性化に貢献してきた。しかしそれだけではない。RADWIMPSは2012年以降、毎年3月11日に新曲をYouTubeで発表している(2017年を除く)。毎年3月11日に楽曲を発表することで、音楽によって被災者や震災で傷ついた人を救おうとしている。今回発表された「世界の果て」もその一環だ。

 しかしRADWIMPSが毎年発表している楽曲は「復興支援ソング」とは少し違う。「頑張ろう」「負けるな」など前向きに励ます歌はない。後ろ向きな表現も含んでいる歌詞が多い。「世界の果て」では〈明日もしもこの世界が終わんなら それは地獄なのかワンダーランド 誰一人もわからんなら 考える価値もないのか〉というフレーズから歌が始まっている。第1弾の「白日」でも〈誰かに空いた穴はさ 誰かが奪ったもんなら ねえ誰が償えばいい?〉と歌っている。「カイコ」(2014年)では〈世界は疲れたって あとはもう壊れるだけ〉と歌っている。

 動画の備考欄に野田洋次郎からのメッセージが綴られている。「白日」では「あれから一年経つこの日をどう迎えるかずっと考えてたらどうしてもこの曲を録りたくなって、昨日の昼にメンバーに連絡しました。どうしてもこの日に演奏して歌いたかった」と綴られ、翌年発表された「ブリキ」では「やっぱり自分たちにできること、したいことはこれしかないや。ぜひ聴いてください」と綴られていた。歌詞も動画に添えられたメッセージも、自身の気持ちについて表現しているように思う。被災者や震災で傷ついた人たちを励ますというよりも、一緒に寄り添おうとしている。

 しかし「世界の果て」は過去に発表された楽曲とは少し方向性が違う。RADWIMPが3月11日に発表した楽曲はスローテンポの温かみを感じるバラードが多い。2019年に発表した「夜の淵」も優しいメロディと温かみのある演奏が印象的な楽曲だ。「世界の果て」もスローテンポの楽曲ではあるが、演奏は無機質で冷たさを感じる。メロディも淡々としている。歌っているというよりも、ポエトリーリーディングをしているような歌唱方法。楽曲の時間は3分11秒。3分11秒で突然ぶつ切りしたように突然動画が終わる。それは2011年3月11日に、全く予測できなかった地震によって一瞬で何もかもが終わってしまったことを表現しているようだ。

 ぶつ切りで終わる楽曲に3.11を思い出して胸が痛む人もいるかもしれない。今まではマイナスな表現を含みつつも、寄り添うように歌っていたが、この終わり方は突き放されたと感じる人もいるかもしれない。しかし野田洋次郎は動画の備考欄に「年々薄れていく記憶。それでも癒えることのない傷。新たに生まれる災害。すべての痛みに向き合っていたら到底心が追いつかない時代に僕たちは生きているのかもしれません。日々の小さな幸せに、眼を向けることを忘れずに生きたいです」とコメントしている。突き放したのではないのだ。これも被災者に寄り添う形の一つだ。

 東日本大震災は9年前。当時はまだ生まれていなかったり、物心がついておらず覚えていないという人もいるかもしれない。生まれていてもはっきりと当時を覚えている人は少ないかもしれない。大人も同じだ。少しずつ記憶は薄れている。しかし忘れてはならない。今も仮設住宅に住む人たちもいる。大切な人をや家を失った人たちの傷は完全に癒えたわけでもない。改めて思い出し考えるきっかけをRADWIMPSは音楽によって与えてくれたのだと思う。

 過去の3月11日に発表された楽曲とは違う雰囲気ではある。しかし変わらず優しさも感じる歌詞でもあり、〈心配せずいてよ この世界で君を 見つけたのと同じようにたやすく たどり着くから〉というフレーズで曲が締めくくられている。希望を感じる表現なのだ。

 前向きな表現や励ます歌でリスナーに力をくれる楽曲も魅力的だとは思う。しかし希望も絶望も両方感じさせてくれて、それによって考えさせられたり寄り添ってくれる音楽も必要だ。RADWIMPSはその役割を担おうとしているのかもしれない。(むらたかもめ)

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