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中村勘九郎、12年ぶりに「吃又」で夫婦演じる市川猿之助の「手のぬくもりが忘れられない」

ナタリー

20/11/17(火) 10:52

中村勘九郎

「十二月大歌舞伎」に出演する中村勘九郎の取材会が、昨日11月16日に東京都内で行われた。

勘九郎が出演するのは、「十二月大歌舞伎」の第3部で上演される「傾城反魂香」より「土佐将監閑居の場」(通称「吃又」)。近松門左衛門作による本作は、吃音症の画家・浮世又平とその妻おとくの、夫婦愛が奇跡を起こす義太夫狂言だ。勘九郎は作品の魅力を「古典ではありますが、ファンタジー要素がすごく詰まっている」と紹介し、「夫婦がぶつかっていた壁を乗り越えて、その先に明るい未来が待っているという作品。この“奇跡”を観に来ていただきたいですね」と目を輝かせた。

今回は、又平を勘九郎、おとくを市川猿之助が勤める。なお、「吃又」での2人の共演は、同役をそれぞれ初役で演じた2008年の「新春浅草歌舞伎」ぶりのこと。勘九郎は「あのときは、まだ2人とも襲名前で、僕が(中村)勘太郎、猿之助さんが(市川)亀治郎でしたね」と懐かしそうに目を細め、共演の思い出を「猿之助さんの手のぬくもりが忘れられないですね。筆を握ったまま開かなくなってしまった又平の手を、おとくが指を温めながら1本1本ほどいていくんですけど、猿之助さんのその手付きに、又平への愛情が込められていて。そのぬくもりを感じている間、僕の中で、おとくとの思い出が走馬灯のように頭をよぎるんです。もちろんそんな思い出は、作中で描かれていないんですけど……又平にとって、暗闇の中の一筋の光がおとく。彼女がいなければ生きてはいけないんですね」と語った。

勘九郎は、又平役を故・坂東三津五郎から教わったと話し、「又平は、精神的な面で(『仮名手本忠臣蔵』の早野)勘平の次にくらいにきつい。絵の師匠である土佐将監光信から、弟弟子の修理之助は名字を与えられたのに、自分には与えられない。身体の感覚がなくなるほど、本当に絶望に落とされるんですよ」と明かす。さらに「又平にとって、吃音はコンプレックスの1つではあるけど、生まれついてのもの。卑下せず、ネガティブにとらえないようにやらなければいけない。おとくとのやり取りもそうですが、彼らにとっての“日常”を出せたらいいなと思います」と言葉に力を込めた。

また今回、狩野雅楽之助役と土佐修理之助役には、それぞれ市川團子、中村鶴松と、いずれも若手がキャスティングされた。勘九郎はコロナ禍により、観劇もままならなくなった現状に触れ「父はよく『芝居観ろ、芝居観ろ』って言ってましたが、やはり同じ空間で体験することが俳優にとって一番大事。先月の『十月大歌舞伎』で、僕は(松本)白鸚のおじさまと共演させていただきましたが、芝居の間、呼吸、そういったものを間近で観られたのが一番の財産でした」と述べたうえで、「團子ちゃんには、僕からオファーしました。4代目(猿之助)の側にもいられますし、パワーを感じ取ってほしいなと思いますね。修理之助役の鶴松も同様です。彼にとっても、いろんなことを吸収する場になるのではないかと」と声に期待をにじませる。

坂田藤十郎の訃報に話が及ぶと、勘九郎は「(中村)鴈治郎さんもおっしゃっていましたが、本当にスターで、とにかくカッコいい人でした」と語り、「おじさまはよく“におい”が大事とおっしゃっていました。江戸時代だけではなく、明治時代の“におい”さえ、もう誰も知らなくなってしまいましたが、おじさまのように、上方なら上方の、江戸なら江戸の“におい”を、観客に錯覚させるような俳優になっていきたいですね」と真摯に述べた。

「十二月大歌舞伎」は、12月1日から26日まで東京・歌舞伎座にて行われる。

「十二月大歌舞伎」

2020年12月1日(火)~26日(土)
東京都 歌舞伎座

第1部

「弥生の花浅草祭」

補綴:戸崎四郎

武内宿禰 / 悪玉 / 国侍 / 獅子の精:片岡愛之助
神功皇后 / 善玉 / 通人 / 獅子の精:尾上松也

第2部

「心中月夜星野屋」

脚本:小佐田定雄
演出:今井豊茂

おたか:中村七之助
星野屋照蔵:市川中車
母お熊:市川猿弥
和泉屋藤助:片岡亀蔵

第3部

「傾城反魂香 土佐将監閑居の場」

作:近松門左衛門

浮世又平:中村勘九郎
女房おとく:市川猿之助
狩野雅楽之助:市川團子
土佐修理之助:中村鶴松
将監北の方:中村梅花
土佐将監光信:片岡市蔵

第4部

「日本振袖始 大蛇退治」

作:近松門左衛門

岩長姫実は八岐大蛇:坂東玉三郎
稲田姫:中村梅枝
素盞嗚尊:尾上菊之助

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