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宇多田ヒカルが抱える“孤独”と“祈り” 「初恋」披露した『SONGS』から感じたこと

リアルサウンド

18/7/9(月) 13:00

 宇多田ヒカルが、6月30日に放送されたNHK『SONGSスペシャル』に出演し、「初恋」を含む新曲の初パフォーマンスを披露した。

(関連:宇多田ヒカルが語る、“二度目の初恋” 「すべての物事は始まりでもあり終わりでもある」

 『SONGSスペシャル』には1年9カ月ぶりの登場となった今回、宇多田が「今、話してみたい人」として指名した芥川賞作家の芸人・又吉直樹との初対談も実現した。指名のきっかけは小袋成彬に勧められて又吉の作品『劇場』を読んだことだったそう。「あの作品暗いですけど大丈夫でしたか?」と又吉が聞くと、宇多田は「そうでしたか? 私も暗いところ多いんで」と答え、どこか似た雰囲気を持った言葉の表現者同士による“宇多田ヒカルの歌詞の魅力”についてのトークが繰り広げられた。

 「Automatic」の〈七回目のベルで受話器を取った君〉や、「First Love」の〈最後のキスは/タバコのflavorがした〉という歌詞について又吉が「短い中でも物語のシーンが浮かぶ歌詞」と評すると、宇多田は12、13歳までは小説家になりたかったことを明かした。幼い頃の自分にとって世の中は思い通りにならないものばかりだったが、同じ本を読んで同じ感想を持つ他者がいるという事実に「みんな同じじゃん」と救われるような気持ちになったのだという。

 また、又吉が最も惹かれた曲として「あなた」を挙げ、宇多田の綴る言葉に“祈り”の要素があることを指摘すると、宇多田は「子供の時にいた環境のせい」だと赤裸々に答えた。音楽プロデューサーの父、歌手の母を持つ彼女は特殊な環境の中で育ち、転居や転校もよくあることだった。いつ何が起こるかわからない環境の中で、「安心したら傷つく」「何も信じないようにしよう」と決めたものの、消しきれなかった当時の想いが“祈り”や“願い”、“希望”に繋がっているのだという。

 少し切ない話だが、このエピソードからも汲み取れるように「宇多田ヒカル」と「孤独」は切り離せないものである。近年の作品は特に、彼女のその時々のモードが正直に曲に反映されているイメージだが、最初から一貫して“孤独”が滲む作品であることは変わりない。しかし彼女にとっての“孤独”は決して周りに誰もいないのではなく、一人ではないからこそ周りの人をピュアに愛してしまうが故の感覚であると思う。だから彼女の“孤独”には常に“祈り”がセットなのである。

 宇多田は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』から〈なにがしあわせかわからないです〉という言葉を引用し、今苦しんでいる状況も先を見つめれば幸せに向かっているかもしれないから、今は今だけで判断できない、という考えを持っていることを明かしていたが、これもある種の“祈り”だろう。彼女が持つ“孤独”から生まれる“祈り”の要素は、楽曲に差す一筋の光でもあり、それこそがいつどんな時代でも彼女の歌が多くの人々から必要とされ続ける最大の理由なのかもしれない。

 番組後半では、最新曲「初恋」について語られた。宇多田にとっての“初恋”とは「初めて人間として深く関係を持った相手」という意味を持ち、彼女の“初恋”の対象は両親なのだという。そんなトークを経て、スタジオで披露された「初恋」は、その歌詞の意味がぐんぐん体中に染み渡ってくるようだった。真っ白なワンピースを身に纏い、大切なものを救い上げるように歌唱する姿から伝わってきたものは、〈誰か〉に出会うことでまた世界が違って見えること、そしてそれは“初恋”を経てきたからこその変化なのだということ。彼女は今まさに何かの喪失と共に、新しい季節を迎えた真っ只中にいるのだろう。「初恋」と題されたこの曲は、孤独と表裏一体で存在し続けた“祈り”が、また一つの光の先に辿り着いたことを告げているようだと感じた。宇多田ヒカルが今どれほど良い状態で歌を届けてくれているのか、その絶好調ぶりが伝わってきて思わず嬉しくなってしまう放送内容だった。(渡邉満理奈)

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