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『君と世界が終わる日に』は“本気”のゾンビ作品 『ウォーキング・デッド』との共通項は?

リアルサウンド

21/1/31(日) 8:00

 現在放送中のドラマ『君と世界が終わる日に』(日本テレビ系)は、日本が未だかつてないほど本気で作っているゾンビ作品だ。もともと、こういったジャンルの類が地上波放送で、しかも主演に竹内涼真、ヒロインに中条あやみという豪華な俳優を迎えて放送されていることが少し新鮮である。海外では、もとよりゾンビをテーマにした作品が根強い人気を博していたが、ここ数年の間にアジア圏、特に韓国からのゾンビ作品が世界的ヒットを収めた頃合いから、風向きが変わり始めたように思える。

 『君と世界が終わる日に』の前には、田中圭主演のドラマ『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)の中でもゾンビが取り扱われ、昨年1月から3月にかけてNHKオリジナルドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』などが放送されているが、どちらもいわゆる深夜枠。その中でゴールデン枠、かつHuluとの共同製作ということで潤沢な資金で作られた大規模な『君と世界が終わる日に』は、間違いなく日本のゾンビコンテンツの中心にあり、牽引しているドラマだ。そんな本作は、正統派ゾンビドラマとしての完成度を高めるために、ありとあらゆる海外のゾンビ作品からの“典型”を綺麗になぞっている。

 もとより、ゾンビドラマを世界的にメインストリームにもってきた存在は10年以上前から放送されている『ウォーキング・デッド』である。2010年より開始し、2021年よりファイナルシーズン(S11)が本国で放送される予定だ。海外ドラマの中でもご長寿番組として愛されてきた本ドラマは、すでにいくつものスピンオフが存在し、映画化も決定している。ここまでゾンビを扱った作品の中でも幅広い年齢層、そして世界中に愛され(もちろん日本でも大人気)、長く息をしてきた本ドラマに『君と世界が終わる日に』は大きく影響を受けているように思える。『ウォーキング・デッド』を思わせるシーンが、特に、演出面や設定などを含めすでに放送された2話の中にたくさん登場しているのだ。今一度『君と世界が終わる日に』がヒットを目指して大先輩となる『ウォーキング・デッド』から得たアイデアとオマージュに目を向けて見たい。

※本稿には『君と世界が終わる日に』第2話までのネタバレが含まれています。

主人公が気を失っている間に崩壊する社会

 本ドラマの“『ウォーキング・デッド』らしさ”は、冒頭で主人公が事故に遭うシークエンスからすでにある。自動車整備工の主人公の間宮響は、いつものように出勤するがトンネル
に入ると地響きが起き、崩落事故に巻き込まれる。意識を取り戻すも携帯は繋がらず、救
助隊が助けにくる前に自ら瓦礫をわけて脱出するが、それまでに数日間経っている設定だ。外に出た彼が目にしたのは、もぬけの殻となり変わり果てた町の姿である。

 『ウォーキング・デッド』も、警察官のリックが意識不明の状態で入院するところから
始まる。そして目を覚ました彼は、花瓶の花が枯れていることに気づきながら異変を感じ
て病室を出る。彼の目の前にも、生きた人が忽然と消えてしまった世界、そしてようやく
現れた少女が“生きていない”ことにショックを受けるところから物語が幕を開けるわけだ。間宮も自分の職場にたどり着き、そこで変わり果てた姿の同僚に出会う。ちなみに、この同僚が人肉を食う姿を背中から映し、ゆっくり彼が振り返るというシークエンスはまさにゲーム『バイオハザード』で初めてゾンビが登場した時のムービーそのものだ。こういうところも、あらゆる成功したゾンビ作品から演出のヒントを得ているなと感じる。

 主人公が意識不明の間に舞台が整っているという作り方は、謎を多く用意しておくことで物語を今後発展しやすいという特徴がある。シーズン11にも及ぶ『ウォーキング・デッド』でさえ、まだ感染が始まった明確な原因は明かされていない。『君と世界が終わる日に』はすでにシーズン2の製作が決定されているため、長期戦で作り上げていく上でこういった初動から『ウォーキング・デッド』を手本にしているようだ。

“ゾンビ”という言葉が存在しない世界観

 これは『ウォーキング・デッド』に限らず、多くのゾンビ作品に共通することなのだが、ゾンビという概念がある世界観と、ないものがある。ジョージ・A・ロメロ監督作品は基本的に「ゾンビ」という言葉を使わずに、「生きた屍」という認識で徐々にその生態(噛まれたら感染、頭を潰すと死ぬなど)を学んでいくスタイルになる。『ウォーキング・デッド』も、「ウォーカー」をはじめあらゆる言葉で“ゾンビ”の代用をしている。

 一方で『ゾンビランド』など、その世界にすでにゾンビという認識があるタイプの作品は話が早い。なぜなら、主人公たちは大方ゾンビの特徴に関する知識をすでに映画などで知っているからだ。だから、ある意味物語を広げていくことが難しいタイプでもある。「なぜ感染したのか、感染とは何なのか」という基礎的な展開をカットし、「今後どう生きていくか」からの展開にフォーカスしているからだ。こういう点でも、『君と世界が終わる日に』からは改めて丁寧な描写に重視すること、そして物語を長期で展開していく気概を感じる。

お決まりのグループメンツ、のちの相棒キャラと不仲スタート

 さて、ゾンビものでお決まりなのが主人公と生存者グループとの合流である。『ウォーキング・デッド』のリックは最初単独で街を探索するが、すぐにゾンビに襲われてピンチになる。そんな時、どこからかその様子を見ていた他の生存者(グレン・リー)に助けられた。

 『君と世界が終わる日に』も、竹内演じる間宮が足を負傷した状態でゾンビの集団に襲われているところを、生存者グループが助ける。そこには幼い子供(三原結月/横溝菜帆)、母親(三原紹子/安藤玉恵)、老人(宇和島雅臣/笹野高史)、外国人(ユン・ミンジュン/キム・ジェヒョン)、利己的な人間(甲本洋平/マキタスポーツ)、主人公と因縁のある人物(等々力比呂/笠松将)……と、これまた『ウォーキング・デッド』的な定番の顔ぶれがいる。リックの息子カール、妻であり母のローリ、最年長の老人デール、アジア人のグレン、自己中なメルル、そして警官仲間にして妻を寝とった男シェーンといった具合だ。

 ここで特筆すべきなのは、笠松将演じる等々力だ。間宮が実は弓道部出身で弓使いであることが第1話で明かされ、なんだかまるでダリル・ディクソンのような活躍っぷりを見せてくれる。一方、最初は主人公と不仲なのに(恐らく)のちに背中を預け合う相棒になりそうな、それこそダリルポジションの等々力が警察官というリックのポジションで、ここの入れ替わりが興味深い。どうやら二人が不仲になった原因が間宮の恋人の小笠原来美(中条あやみ)という点は、ローリを取り合った元親友同志のリックとシェーンの間にも重ねられる。

第2話で描かれたゾンビ作品の醍醐味 「価値のある命」とは

 第1話から仲間の一人がゾンビになるという展開だったが、第2話でもメンバーの最年長である宇和島が実は噛まれていたことが発覚し、彼を殺すか殺さないかで意見が割れる。『ウォーキング・デッド』で例えると老人はデールポジションにあたるが、デールはあまりにも有能すぎた。対して、宇和島のような老人は物語の中で“足手まとい”という描き方をされる。

 ゾンビを扱ったようなポストアポカリプス作品では、しばしこの老人が見捨てられる立場に置かれる。例えば薬がもったいないとか、どうせ長くない人生だから若者を優先させろ、とか。足腰の悪い彼らを庇いながら生き延びるのは、リスクがあるとか。恐らく、現実世界で何か起きた時、こういった老人を蔑視する意見は出てしまうだろう。しかし、ではそんな時、“どんな人間なら生き延びるべきなのか”という、命の価値にまつわる問いが生まれる。命の価値は平等ではないのか、老人だからといって切り捨てられる側の気持ちに価値はないのか。そんな悲痛を宇和島は第2話で語る。このシーンからも、『君と世界が終わる日に』が間違いなく、ゾンビドラマの核を余すことなく拾っていくような作品になりそうな気配がする。

 噛まれた人間をどうするかという問題は、『ウォーキング・デッド』でも何度も登場する。特に、今後は愛する者がゾンビに転化しても殺すことができず、ゾンビとして側におく者(ミショーンやガバナー)なども登場しそうだ。それに第1話ラストでは滝藤賢一演じる研究者、首藤が実験用か何かのゾンビを手元に置いて管理している様子がうかがえた。ゾンビを鎖に繋ぎ、番号が振られた服を着させるやり方は、『ウォーキング・デッド』のシーズン7で登場したニーガンのそれを想起させる。彼はゾンビをアジトの門に立たせて一種の防御策のように使っていたが、マッドサイエンティスト感満載の首藤がどう使うのか、今後の展開の見どころとなりそうだ。

新たなグループの登場、メインキャラクターの退場も当たり前になる?

 さて、第3話には大きな動きが見られそうな『君と世界が終わる日に』。第2話で突然撃たれ、倒れた本郷を置いてグループはその場を逃げる。宇和島に続き本郷も退場という流れで、ハッキリと本作も『ウォーキング・デッド』同様、メインキャラクターだからといって安心して観ていられない、次に誰が死んでしまうのかという緊迫感が堪能できそうだ。

 学校を去り、次に彼らが拠点とする場所は“ショッピングモール”。『ドーン・オブ・ザ・デッド』しかり、モールに立て篭もるのもまた、ゾンビ作品のあるあるだ。そこで新しい生存者と、新しいグループに遭遇することになる。『ウォーキング・デッド』も、途中からゾンビから生き延びるのではなく、新たな生存者グループとの統合、そして戦いがメインテーマとなっていく。要するに、ゾンビよりも生きた人間の方が恐ろしいという展開だ。ところが、この新たなグループの登場は『ウォーキング・デッド』において“中だるみ”してきた要因だと、マイナス評価されている面もある。確かに、毎回「また新しいグループとの抗争か……」となると、物語の新鮮みが欠けてしまう。これまで『世界と君が終わる日に』は、一話ごとの展開が早く、それこそ中だるみを一切感じさせてこなかった。だからこそ、第3話以降での新たなグループを含めた要素をどう生かしていくかが、ヒットの鍵を握っているかもしれない。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。『ウォーキング・デッド』で大好きなキャラはニーガン。InstagramTwitter

■放送情報
『君と世界が終わる日に』
Season1(全10話):日本テレビ系にて毎週日曜22:30〜放送
Season2(全6話):Huluにて、3月配信開始
出演:竹内涼真、中条あやみ、笠松将、飯豊まりえ、大谷亮平、笹野高史、マキタスポーツ、安藤玉恵、横溝菜帆、鈴之助、キム・ジェヒョン、滝藤賢一
脚本:池田奈津子
音楽:Slavomir Kowalewski A-bee
主題歌:菅田将暉「星を仰ぐ」(Sony Music Labels Inc.)
制作:福士睦、長澤一史
チーフプロデューサー:加藤正俊、茶ノ前香
プロデューサー:鈴木亜希乃、鬼頭直孝、伊藤裕史
協力プロデューサー:白石香織
演出:菅原伸太郎、中茎強、久保田充
制作協力:日テレアックスオン
製作著作:日本テレビ、HJ Holdings,Inc.
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kimiseka/
公式Twitter:@kimiseka_ntv
公式Instagram:@kimiseka_ntv

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