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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

映画の町、信州上田に復活した 100年以上の歴史を持つ上田映劇

隔週連載

第26回

19/12/15(日)

信州上田は、細田守監督のアニメ『サマー・ウォーズ』(2009年)の舞台であり、数多くの映画のロケが行われ、「映画の町」と言われる。そこに復活したのが、上田映劇だ。芝居小屋から映画館に転用された劇場は1917(大正6)年竣工。11年に定時上映館としての役目を終えたが、この劇場を愛する人々が存続させ、17年4月からは再び常設の映画館として開業している。

JR上田駅から徒歩7、8分。突然、通りの名前は「花やしき通り」に変わり、目の前に「あさくさ雷門」という大きな看板とちょうちんが現れる。もちろん、ここは浅草ではない。劇団ひとり監督、大泉洋主演による『青天の霹靂』(2014年)のメインロケ地。その際、昭和40年代の浅草を再現したセットがそのまま残されているのだ。劇場内には、その名残があり、今でも多くのファンが訪れている。

「上田映劇」は明治時代に「末広座」という芝居小屋で、その跡地に建てられたのが前身の「上田劇場」。当時1階は桟敷と花道がある回り舞台仕様で、昭和になって、「上田映画劇場」と名称を変えた。1950年代の全盛期には年中無休2~3本立て入れ替えなし、1週間ごとに新しい番組を上映していた。2階席にはメイドがコーヒーを給仕し、切符売り場も東西2カ所あり、もぎり、映写技師2人、清掃人など常時5~6人の従業員が詰めていたという。95年にはライブや演劇もできるように改装も行ったが、市内にシネコンが参入したこともあり、動員が激減。11年4月に定期上映を終了した。

大きなステージが特徴。音楽ライブや寄席なども行われる
最大収容270席

そんな中、復活を目指す市民有志による上田映劇準備委員会が発足。そのメンバーの一人で、現在、支配人を務めるのが上田市出身の長岡俊平さんだ。「小さい頃はおじいちゃん、おばあちゃんに連れてきてもらい、『千と千尋の神隠し』『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)といった大作映画を観ていたので、昔からなじみがありました。中〜高校生ぐらいの時は友達と『スパイダーマン』(2002)や『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003)を観ましたね」と振り返る。

支配人の長岡俊平さん

2016年、大学院卒業後の進路を考えている時に、上田映劇準備委員会の中心にいた叔父の長岡秀貴さんから「一緒にやらないか」と声をかけられた。秀貴さんは、不登校や引きこもりの若者が通う民間の教育施設「侍学園 スクオーラ・今人」(長野県上田市)の理事で、三浦貴大、松岡茉優出演で上田ロケされた映画『サムライフ』(2015)の原作者だった。「上田映劇は上京のタイミングでなくなってしまいました。大学時代もアルバイトをしていたシネマート六本木の閉館(2015年)にも立ち会い、寂しい思いもしましたので、なんとかしたいという思いがありました」と長岡さん。

特別上映やイベント開催など準備を続けながら、17年4月に映画館として完全復活。今では年間100本以上の作品を上映し、「NPO法人上田映劇」(2018年10月発足)の15名のメンバーとボランティアスタッフが上田の文化の魅力を発信するフリーペーパー「上田映劇ジャーナル」を発刊し、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムでも情報発信を続けている。

約2年半、続けてきての手応えはどうか?「1年目は難しかったんですけど、続けていくうちに認知され、ちょっとずつお客さんの動員も増えました。協賛イベントでもお客さんが増えていますし、昨年の『カメラを止めるな!』でもたくさんのお客さんに来ていただくことができました」(長岡さん)。

装飾が見事な格天井

一方、課題もある。築100年以上の建物の老朽化が進んでいるのだ。特に、関東大震災以前の帝国劇場と同じ造りの貴重な「格天井」を傷つける雨漏りは深刻だという。「台風19号の時は屋根瓦がずれてしまい、雨漏りがひどかったんです。全面改修ができれば、いいのですが、少しずつ直しているのが実情ですね。それに、冷暖房費のランニングコストが悩みのタネです」。劇場の入り口に募金箱を設置するほか、2つの特別会員を募っている。年間3万円で1年間映画が見放題になる「ゴールド会員」と、年間1万円でその都度映画が1000円で鑑賞できる「シルバー会員」で、どちらも座席にネームプレートがつく。

劇場2階にある楽屋。『青天の霹靂』の撮影で使われた

目下、2020年春ごろオープンを目標に1階にあるカフェスペースを改装中。「映画館には縛られない映画館を目指しています。強みはステージなので、音楽のライブや寄席など町の劇場として活用してもらったら、と思います。映画を観ない人も立ち寄ってもらって、人々が集まるコミュニティーになれば」と長岡さん。上田映劇は、映画の町の中核を担う存在を目指している。

映画館データ

上田映劇

住所:長野県上田市中央2-12-30
電話番号:0268-22-0269
公式サイト: 上田映劇

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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