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すずしい木陰

20/4/7(火)

展覧会で絵や写真を見ていると、はたして1枚あたりにかける適度な鑑賞時間などというものは存在するのだろうかと思うことがある。その点、映画は〈編集〉という操作によって1つのカットをどれくらいの時間をかけて観るべきかが決定されている。 『すずしい木陰』は、映画というより絵や写真を見ている感覚に近い。1つのカットを何秒見ていようが構わない。好きなだけ眺めていてもいいし、他のことを考えていてもいい。ひょっとすると劇中で心地よく木陰のハンモックに寝転がる柳英里紗につられて客席でウトウトしても、この映画の作り手たちは許してくれるかもしれない。 配布されたプレスシートにはあらすじが記されているが、次の頁をめくると、「……というようなストーリーはこの映画にはありません。物語らしいことは何も起きない。ただただ女の子が寝ているだけの映画です」とある。実際、まさにその通りの映画である。しかし、〈何も起きない〉と言いつつ、画面の中の木漏れ日の光は、周囲から聞こえてくる幾つもの音と共に常に変化し、主人公もハンモックから時には半身を起こしたりする。その小さな変化に目を凝らし、耳をすませていると、画面で多彩な変化が刻々と起き続けていることに気づく。劇中と現実が同じ進行時間で描かれる本作に身を浸していると、この時間こそが忘れがたい映画体験であることを実感する。 映画館の椅子にもたれかかったまま過ごす時間と、映画の中でヒロインがハンモックに横たわる時間が重なり合う。それはスクリーンと客席の境界が取り払われ、VR映画以上の一体感を味わう瞬間でもある。なお、映画を観終わった後には、公式サイトに掲載されている守屋文雄監督による「撮影日誌」を読んでもらいたい。もう一度この96分間に同化していたいと思わずにいられなくなる。

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