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AC/DC、Bring Me The Horizon、System Of A Down、Iron Maiden……バラエティ豊かなHR/HM~EMの注目作8選

リアルサウンド

20/12/6(日) 10:00

 今回の新譜キュレーションでは今年10月下旬から11月末にかけてリリースされた、ハードロック/ヘヴィメタルおよびエクストリームメタル周辺の注目作品8タイトルを紹介していきます。活動休止が噂された大物バンドの6年ぶりカムバック作から、BABYMETALらをゲストに迎えたモダンメタルの象徴的バンドによる新作、長きにわたり新作が待たれていた伝説的バンドの15年ぶりとなる新曲、シューゲイザーやポストメタルを通過したUSバンドの意欲作など、バラエティに富んだタイトルが目白押しです。

AC/DC『Power Up』

 オーストラリアが誇る至高のハードロックバンド・AC/DCによる、6年ぶりのニューアルバム。前作『Rock Or Bust』(2014年)以降、オリジナルメンバーのマルコム・ヤング(Gt)の急逝やブライアン・ジョンソン(Vo)の聴力障害によるツアー離脱、フィル・ラッド(Dr)の殺人計画に関与したことによる逮捕、クリフ・ウィリアムズ(Ba)の引退騒ぎなどネガティブな話題に事欠きませんでしたが、前作と同じメンツによる秘密裏のレコーディングを経て、問答無用の傑作を完成させました。アンガス・ヤング(Gt)とマルコムにより進められていた楽曲の断片をもとに完成させた、どこからどう聴いてもAC/DC以外の何者でもないロックンロールは、悪く言えばいつも通りなのですが、逆にこのクオリティを今も保ち続けている事実に驚かされるはず。ロック低迷と騒がれるアメリカでも堂々のチャート1位を獲得したのも納得の、2020年を代表するハードロックアルバムです。

AC/DC – Shot In The Dark (Official Video)

Bring Me The Horizon『Post Human: Survival Horror』

 そんなオールドスクールのAC/DCがチャートを席巻する一方で、2020年代のモダンメタルシーンのトップランナーといえるBring Me The Horizonは、全9曲からなる最新EP『Post Human: Survival Horror』を届けてくれました。昨年1月発売の『amo』を最後にフルアルバムを制作することをやめ、EPを定期的に作ることを発してきた彼らですが、その『Post Human』シリーズ第1弾となる今作では、EDMやトラップなどを通過したメタルコアをベースに“現在進行形のモダンメタル”を提示。曲ごとにBABYMETALやYUNGBLUD、Nova Twins、エイミー・リー(Evanescence)をフィーチャーすることで、多彩さに満ちた世界観を楽しむことができます。中でもBABYMETALとのコラボ曲「Kingslayer」は2組の魅力がベストな形で凝縮された、“今”ならではの1曲ではないでしょうか。

Bring Me The Horizon – Kingslayer (Lyric Video) ft. BABYMETAL

System Of A Down『Protect The Land / Genocidal Humanoidz』

 5thアルバム『Hypnotize』(2005年)を最後に活動休止〜再開を繰り返し、以降新曲発表がパタリと止まっていたSystem Of A Down。新作制作に関して否定的な発言をすることも多かった彼らが2020年11月6日、新曲2曲を無告知で配信リリースしました。エモーショナルに響くミディアムナンバー「Protect The Land」と2分半の攻撃的なアップチューン「Genocidal Humanoidz」は、今年アルツァフ共和国とアルメニアで勃発した戦争をテーマにしており、これらの楽曲から発生した収益はアメリカを拠点とする慈善団体のアルメニア基金に寄付されるとのこと。彼らのルーツを考えればこのアクションは納得いくものですが、逆にこういった大きな問題が発生しなければ新曲を聴くこともできなかったわけなので、なんとも複雑な心境です。なんにせよ、今も彼らの闘争心はまったく衰えていないことが存分に伝わる、最高の2曲と言えるでしょう。

System Of A Down – Protect The Land (Official Video)

Mr. Bungle『The Raging Wrath of The Easter Bunny Demo』

 Faith No MoreやDead Crossなど複数のプロジェクトで活動するマイク・パットン(Vo)が、Mr. Bungleを約19年ぶりに再始動。サポートメンバーに元Slayer、現Suicidal Tendenciesのデイヴ・ロンバード(Dr)とAnthraxのスコット・イアン(Gt)を迎え、実に21年ぶりのニューアルバムを完成させました。が、このアルバムは純粋な新作というわけでもなく、中身は1986年に制作したデモテープをプロフェッショナルなアルバムとして再レコーディングしたもの。クロスオーバースラッシュメタル的なテイストが強い原曲を元祖“スラッシュ四天王”の重鎮たちに演奏させ、かつマイク・パットンらしい複雑怪奇な展開を交えることで、オリジナリティが確立されている。そんな一筋縄ではいかない本作は、結果として非常に現代的な作風と言えるのではないでしょうか。ジャンルの枠を超えた、文字通り“クロスオーバー”と呼ぶにふさわしい怪作です。

Mr. Bungle “Sudden Death” (Official Video)

Killer Be Killed『Reluctant Hero』

 マックス・カヴァレラ(Vo, Gt/Soulfly、Cavalera Conspiracy)、グレッグ・プチアート(Vo, Gt/ex. The Dillinger Escape Plan)、トロイ・サンダース(Vo, Ba/Mastodon)らにより結成されたエクストリームメタル界のスーパーバンドによる、6年ぶりの2ndアルバム。今作からベン・コラー(Dr/Converge、Mutoid Man)が加わり、その豪華さはさらに増すことになりました。楽曲/サウンド的にも4者のカラーが随所に感じられ、要所要所からにじみ出るサイケデリック色も心地よく、それらの楽曲を3人のシンガーで表現することにより全体的に多彩さが増している。特にボーカルワークに関しては、デビュー作『Killer Be Killed』(2014年)以上に役割分担がしっかりしてきたような印象を受けます。先のMr. Bungleとは違った意味での“クロスオーバー”感も強く、2010〜20年代のエクストリームメタル界の縮図と呼ぶにふさわしい内容だと断言できます。

KILLER BE KILLED – Inner Calm From Outer Storms (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

Nothing『The Great Dismal』

 アメリカ・ペンシルバニア州出身のシューゲイザー/ドリームポップバンドによる4thアルバム。メタル/ラウドロックの枠で括るにはちょっと的外れに感じられるかもしれませんが、彼らが所属するレーベルはUSハードコア/メタルコア専門のRelapse Records。また、ブラックメタル経由のシューゲイザー=ブラックゲイズ界隈のDeafheavenやAlcestなどとともに語られることも多いため、ぜひ取り上げたいと思ったバンドのひとつなのです。前作『Dance On The Blacktop』(2018年)ではUKロック的なメランコリックさが際立つ1枚でしたが、今回はMy Bloody Valentineや初期Ride的なUKシューゲイザー的側面を感じさせつつも、甘さと尖った感がバランスよく配分されたトリッキーな1枚にまとめられています。そういった意味では、エクストリームメタル界隈のみならず、ブリットポップ前後のUKロックを愛聴するリスナーにもヒットする、広意義での“ラウドロック”ではないでしょうか。

NOTHING – Say Less (Official Music Video)

Carcass『Despicable』

 “リバプールの残虐王”の愛称で知られるエクストリームメタルバンドの、2021年に予定されているニューアルバムに先駆けた新作EP。2007年の再結成以降、ジェフ・ウォーカー(Vo, Ba)&ビル・スティアー(Gt, Vo)を中心に活動していますが、本作では再始動後初のアルバム『Surgical Steel』(2013年)の延長線上にある、メロディックデスメタルに初期のグラインドコア的要素を散りばめた王道のCarcass節を堪能することができます。ジェフのボーカルはもちろんのこと、ビルを中心としたギターワークなど至るところから“らしさ”が伝わってくる会心の仕上がりで、たった4曲では物足りない、早くアルバムを聴かせてくれ! と思わずにはいられません。なお、本作収録曲中3曲は次のフルアルバムには未収録とのこと。一体どんな凶暴な内容に仕上がっているのか、次作への期待を煽るに十分なEPです。

CARCASS – The Living Dead At The Manchester Morgue (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

Iron Maiden『Nights Of The Dead, Legacy Of The Beast: Live In Mexico City』

 最後に紹介するのは純粋なオリジナル新作ではなく、既発曲のみで構成されたライブアルバムです。Iron Maidenはこれまでに多数のライブ作品を発表しており、この10年間だけを振り返ってもすでに4作目のライブアルバムとなる本作。「またか……」とおっしゃる気持ちもよくわかります。しかし、本作はコロナ禍で中止となった今年5月に予定されていた来日公演を追体験できる、貴重な内容なのです。昨年9月のメキシコ公演を完全収録したこの2枚組作品は、時代を超えて愛される名曲「Aces High」から始まり、ブルース・ディッキンソン(Vo)不在の90年代後半の楽曲や2000年代前半の難解なプログレッシブナンバーなど、代表曲とマニアックなレア曲を交えた構成で、60歳オーバーとは思えないブルースのパワフルな歌唱と円熟味を増した楽器隊のプレイ、そして南米のメタルヘッズたちによる熱気に満ちた声援と相まって、まるでその場にいるかのような錯覚に陥ることができます。改めて、このセトリのライブを日本でも体験したかったな……と悔しさも湧き上がりますが、今はこのアルバムで疑似体験しながら近い将来の再来日実現を待ちたいと思います。

The Clansman (Live in Mexico City, Palacio de los Deportes, Mexico, September 2019)
RealSound_ReleaseCuration@Tomokazu_Nishibiro1206

■西廣智一(にしびろともかず)Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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