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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

コリン・ファレル

連載

第54回

── 今回はコリン・ファレルです。前回は『ジェントルメン』でマシュー・マコノヒーを取り上げましたが、同作では彼の方がお気に入りだとか?

渡辺 そうなんですよ。私にとってこの映画の主役はコリンだったと言っても過言ではないって感じです。中盤から登場するんですが、それと同時に映画もメチャクチャ面白くなる。いわば映画のムードメーカー的な役割を果たしているんだと思います。派手なジャージの上下に眼鏡&無精ひげというファッションも似合うしかっこいい。

『ジェントルメン』ではマリファナ王の引退に色めき立つ“ジェントルメン=一流のワルたち”のうちのひとり、ボクシングジムの経営者を演じるコリン

── そもそも彼のファンなんですか?

渡辺 ファンとは言えないかもしれませんが、好きな役者です。とりわけ『スリー・ビルボード』(17)でブレイクしたマーティン・マクドナーのクライムドラマ『ヒットマンズ・レクイエム』(08)が大好きでしたね。

コリンは23歳のときに『タイガーランド』(00)というベトナム戦争映画に出演し、「スゴい新人が出てきた」と騒がれたアイルランドの役者です。確かにこの映画の彼はびっくりするほど上手かった。

ジョエル・シューマカー監督に見出されてハリウッドデビューを果たした『タイガーランド』

私が初めて取材したのはその次くらいに出演した『ジャスティス』(02)でした。当時、大スターだったブルース・ウィリスとの共演だったし“次のスター”風な特集のときは、まっさきに名前が出てくるような立ち位置だった頃です。ブラッド・ピットにインタビューしたときも、「今、気になる役者はコリン・ファレル。彼以外の名前は思いつかない」と言ってましたからね。

そういう大きな期待にプレッシャーを感じることはあるのかと聞くと、とてもリアルな答えを返してきたんです。「いや、まったく。オレにとっての本当のプレッシャーは、4人の子供を抱えて週200ポンド(およそ4万円くらい)で暮らすことだ」って。

『ジャスティス』『マイノリティ・リポート』『フォーン・ブース』など話題作に立て続けに出演した2002年当時のコリン。ワイルドさはこの頃から。

── うーん、確かにリアルですね。

渡辺 さらにこんなことも言っていました。コリンは『タイガーランド』で注目された後、ジェシー・ジェイムズを描いた『アメリカン・アウトロー』(01)という西部劇に出演しているんですが、この映画が評論家に酷評されたし大コケしたんですよ。

「エージェントには“出演するな”と言われたんだけど、映画が楽しくなったので、映画ならなんでもいいから仕事したいという気持ちもあったと思う。でも、一番の理由は30万ドルの出演料をオファーされたからだよ。いや、金が欲しいというんじゃないんだ。そのとき頭に浮かんだのは、ロンドンで一緒に仕事をした60歳の役者のこと。彼は3人の子供を大学に行かせるため、1日にTV、舞台、ラジオを掛け持ちしていた。それを思い出して、この金額を断るなんて傲慢だと思ったんだよ」

── なるほど! やっぱりリアルですね。

渡辺 いまだに私、コリンというと、この言葉を思い出しちゃうくらい印象的だったんです。

反対を押しきってまで出演したのに酷評された『アメリカン・アウトロー』

一番最近のインタビューは『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(16)で、もちろん、すでに役者&スターとしてもベテランの領域なんですが、それでもキャリアをどう進めてきたのか、これからはどうしたいのかを尋ねると、こんなことを言っていました。

「もちろん、自分でこういう役をやりたい、こういう映画に出たいということは言えるけど、やはり役者は仕事が来るのを待っていることの方が多い。少なくともオレの場合はだけど。誰かがオレやオレのエージェントに連絡してきて、それから始まるんだ」

── いろんな役をやっているから、もっと積極的なのかと思っていました。

渡辺 そう、意外と受身なんだなって思いますよね。調べてみたら、自分で製作を兼任するとか、プロダクションを設立しているというわけでもないみたいですからね。

もうひとつ、面白かったのは映画のジャンルについてです。「よくどんなジャンルの映画に出たいかと聞かれるんだが、オレは演技をしていてジャンルを意識することはあまりないんだよ。“ジャンル”というのはもっと客観的なもので、少なくともオレはそのキャラクターの人生を演じ、彼の人生は感じるけれど、ジャンルというのは感じないね」と言っていました。

── それも面白いですね。

渡辺 確かに“ジャンル”は、映画を語るとき、説明するときには分かりやすいけれど、役者はキャラクターを演じるわけで、ジャンルを演じるわけじゃないってことだと思います。

また、このときのインタビューで「今までの作品の中で、最も辛い経験は?」という質問には即答で『アレキサンダー』(04)を挙げて、「オレはあれで大きく脱線し、軌道修正するのが大変だった。オレに限らず、多くの関係者が同じ経験をしたと思うね」と苦笑いしていました。

この映画であのアレキサンダー大王を演じたコリンは金髪に染めていて、それが笑えるくらい似合わなかった。しかも、なぜか彼のお母さんがアンジェリーナ・ジョリーという謎のキャスティング。このときアンジーは29歳、コリンは28歳と1歳違いですからね。ちなみに監督はオリバー・ストーンですが、確かに誰も幸せにならなかった映画なのかもしれない。

父ヴァル・キルマー、母アンジェリーナ・ジョリー、息子コリン・ファレルというキョーレツな『アレキサンダー』の3ショット

── 他にはどんな作品で取材したんですか?

渡辺 『リクルート』と『マイアミ・バイス』だったと思います。『リクルート』のときは共演のアル・パチーノについて、「初めてアルがスタジオに入ってきたとき、撮影のクルーが“オー”って感じになったんだ。みんな彼のオーラに圧倒されるというか、眩しいというか、不思議な感覚に陥っちゃうんだよ。オレも“これはヤバい”と身構えたけれど、アルはとてもいい人だったんでひと安心だった」と言っていましたね。

私も一度だけ、アル・パチーノの記者会見に参加したことがあるんですが、これまでにない雰囲気で驚いたんですよ。そもそもパチーノって取材を滅多に受けないらしいのでジャーナリストの熱気が違うし、彼が壇上に向かう姿、そして壇上で質問に答える姿は、まるでお芝居を観ているようでうっとりしてしまうんです。こんな感じの人は彼だけ。だからコリンやスタッフが圧倒される気持ちも分かりますね。

── すごいですね。

渡辺 でも、そのアル・パチーノに「同世代の役者の中でコリンは最高だ」と絶賛されてますからね。

『リクルート』ではアル・パチーノをも魅了したコリン

で、『マイアミ・バイス』のときは丁度、ガールフレンドとの間に息子が生まれ、パパになった後だったので、それについて尋ねると「父親になったことで自分がどう変わったのかは分からないけれど、一生変わることのない愛情を捧げられる存在がいるのは、信じられないくらい素晴らしいよ」と言っていました。

ただ、後で知ったんですが、その息子さんが先天的な難病を抱えていたようなんです。もしかしたら、そいうこともあってこういうありきたりじゃない表現をしたのかなと思いました。

── 本当にいいパパなのかもしれませんね。

米アナハイムのディズニーランドで、息子のくんと『カーズ』のアトラクションを楽しむパパコリン

渡辺 あと、言っておきたいのは、母国のアイルランドを愛しているということです。「ハリウッドではリムジンが迎えに来てくれるけど、アイルランドじゃ誰も特別扱いしてくれないから驕ることもない。これはオレにとってとても重要なことだ。今でもみんなとパブでビールを飲んでるのが最高のとき。だからアイルランドが大好きなんだ」って。

私はコリンの次回作が楽しみなんですよ。マット・リーブスの『ザ・バットマン』(22年公開予定)でペンギンを演じている。コリンは『デアデビル』(03)のとき敵役のブルズアイを演じていて、主演のベン・アフレックよりかっこよかったですからね。彼のような濃いルックスはキャラもので映えるんですよ、きっと。

『デアデビル』でブルズアイを演じた衝撃の姿!

※次回は5/25(火)に掲載予定です。

文:渡辺麻紀
Photo:AFLO

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