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心地よい暮らしの達人・後藤由紀子の“愛しい日々の読書” 第1回:八千草薫『まあまあふうふう。』

リアルサウンド

19/9/27(金) 16:30

 静岡沼津市の雑貨店halを経営しながら執筆活動を続け、先日16冊目となる著作を発表した後藤由紀子さん。この連載では、そんな後藤さんが日々の読書のなかで「愛しく感じた本」を、みなさんに紹介していきたいと思います。(編集部)

八千草薫の人生論

  八千草薫さんが、平成から令和に変わり夏の気配がする頃、「米寿を迎え、偉そうなことは言えませんが少しでもお伝えすることがあるかもしれない。自分を見つめ返す良い機会」だと、この本『まあまあふうふう。』を出版されました。 

 大胆・潔い・不器用とご自身を分析し、慣れない現場で、ガチガチに緊張していたことに気が付いたご主人から、その緊張をほぐすために「いい加減に生きなさい」と何度も助言されたそうです。それからは、良い加減に肩の力を入れすぎず、楽にほどよく生きることができるようになったとあります。中国の言葉で、いい加減を意味する「馬馬虎虎(まあまあふうふう)」という言葉が、本の題名になっています。

   この本を読み進めていくうちに、八千草さんの朗読を聞いているような気分になりました。普段は著者の声を知らないため、そんなことはないのですが、映画の台詞やテレビで話されている声をよく聞いていたので、不思議とそんな感覚になったのかもしれません。

   印象的だったのは、最初から最後までご主人の話をたくさん書かれていることです。ご主人とは、とてもウマが合ったとのこと。好きなもの、面白いと思うことの価値観が合い、ご主人と一緒のときはとてもリラックスできたとのこと。映画監督で19歳も年上、天真爛漫な話好き、そしておおらかでありながらユーモアがある人柄のご主人。そのご主人のお仕事のこと、お酒を飲んで帰ってきたときの話、山登りの話、散歩の話など、身近でユーモアにあふれる、幸せなエピソードを紹介されています。

   結婚50周年の年にご主人は亡くなられて、落ち込みつつも「しょうがないな」と、ふとやってくる寂しさを否定することなく、うまく寄り添ってきたそうです。ご自宅は華美ではなく、ゆったりとしていて風通しの良い印象のお宅。「足るを知る」ともいうべき、自分なりに気に入って居心地の良い暮らしぶり。ご自宅のページで好きな話がありました。

「役に立たないから毎日豊かに」「ものは捨てない」というお話がとても興味深かったです。お洋服を長年愛用し、アクセサリーもほんの少しなのに「何だかわからないけれど面白いもの」がたくさんあり、それが「生活を豊かにする」。「自分の心がウキウキするものに出会いたい」とのくだりに、「八千草さん同感です」と、うなずきながら読みました。

「終活」と「ご飯」

   断捨離についても、大変おこがましいですが、同じ考えで嬉しくなりました。思い入れのあるものが暮らしを彩るのに、それがないなんて味気ないじゃないと思います。そんな思い出とともに暮らしているのに、それを捨てるということは自分の身を切られる感覚。

   八千草さんは終活を試みたときも、愛用品をこれはあの方にと書き続けていたら、だんだん苦しくなり、途中で断念されたそうです。それでも周りの人に迷惑をかけることは避けたいと、最近遺言状を作成されたという後日談を何かのインタビューで読みました。

   そして食事について。好き嫌いなく、何でもおいしく残さず食べるというのは、育ちの良さがうかがえ、そういうところをおざなりにするのではなく、豊かで大切な時間として長年楽しんでこられた方は説得力が違います。穏やかな表情に人生がにじみでています。

   早速、紹介されていたミルク紅茶を真似して作り、飲んでみるとやさしくておいしくて、心まで温まりました。この本を読んで、八千草さんはじめ向田邦子さん、高峰三枝子さん、沢村貞子さんなど、そして身近な友達も含めて、ちゃんと食べている人が私は好きなんだなぁと再確認。そういう方は、心身ともに健やかで穏やかな印象がします。

余生の過ごし方

   現在、たくさんの動物の置物、そして猫と犬、庭にやってくる猫2匹と小鳥たちと暮らしているそう。愛し愛されて癒し癒され、かけがえのない存在なのでしょう。目じりを下げて笑っている写真が物語っていました。それを見ている私もつられて目じりが下がります。

「気遣い・無欲・控えめ・楽しむ・執着しない」。出てくるキーワードが、うんうんとうなずきながら、読んでしまうほどにしっくりきました。
「何かひとつだけに、のめりこんでしまうことが少ない」 という言葉にも深く納得しました。病気についてもしょうがないと受け止めて、それについてのインタビューも「皆さん心配してくださるんですが、わりあい元気なんです。今のところ、ね」と穏やかな笑顔でお答えしたといいます。年齢を重ねていろんな思いがあって患って、それでも周りの人のことを思いやって謙虚でかわいい方、大味で派手ではなく、佇まい、所作、表情で語らずとも存在感のある魅力のあるかた。

   そして、いちばん最後の言葉にジーンときてしまいした。八千草さんのように素直にそう言える人間でありたいなと思いました。読み終えた後には清々しさと潔さと穏やな気持ちがごちゃまぜの気分になった、そんな本でした。

■後藤由紀子(ごとう・ゆきこ)
1968年静岡県生まれ。静岡県沼津市の雑貨店「hal(ハル)」店主。庭師の夫、長男と長女、猫のたまの4人と1匹の家族。センスの良い暮らしぶりが雑誌などで人気。著書に『50歳からのおしゃれを探して』『おとな時間を重ねる 毎日が楽しくなる50のヒント』『毎日続くお母さん仕事』など、暮らしまわりにまつわる著書多数。

■書籍情報
『まあまあふうふう。』
八千草薫 著
発売中
価格:1,400円+税
判型:A5
発行/発売:主婦と生活社
公式ホームページ:http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-15250-0

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