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『偽装不倫』は鐘子が見ている夢物語? 「銀河鉄道の夜」とのつながりから考える最大の謎

リアルサウンド

19/8/7(水) 8:00

 水曜夜10時から放送されている『偽装不倫』(日本テレビ系)は32歳の婚活に疲れた派遣社員・濱鐘子(杏)が主人公のラブコメディだ。

 福岡に向かう飛行機で、鐘子はカメラマンの青年・伴野丈(宮沢氷魚)と知り合う。姉から借りた服のポケットに入っていた結婚指輪を拾ってくれた伴野に、うっかり人妻だと嘘をついてしまう鐘子。人妻と偽ったまま鐘子は伴野とつかの間の福岡観光を楽しみ、一夜をともにした後、別れる。しかし、ホテルに置き忘れた指輪を受け取るために、東京で再び伴野と会うことに……。

 原作は「LINEマンガ」で連載されている東村アキコの同名漫画。小さな嘘がきっかけで男女が知り合うというのはラブコメの定石だが、人妻のふりをしてわざわざ不倫を偽装するというややこしい展開が、楽しいドタバタとなっている。

 一方、鐘子の姉・吉沢葉子(仲間由紀恵)は、ボクサーの八神風太(瀬戸利樹)と不倫をしている。夫・吉沢賢治(谷原章介)は家庭を大事にするエリート商社マンの優しい男だが、葉子に男の影があることに勘付きつつあり、不穏な空気を漂わせている。今後、壮絶な修羅場があるのではないかと予感させる。

 東村アキコの両輪はスピード感のあるコメディと少女漫画的なロマンスだが、根底にあるのは現代の女性が抱える不安をえぐり出す容赦ない内面描写だ。前作『東京タラレバ娘』(講談社)が、毒が強すぎて現代ホラーとでも言うような不穏さが漂っていたのに比べると、『偽装不倫』はおとぎ話のように穏やかだが、根底には、派遣OLとして働きながら3年間婚活をやっていたが、結局うまくいかなかったという鐘子の苦い経験がある。

 はじめは婚活の失敗を笑い話にしておどけていた鐘子だが、伴野と出会ったことで自分がいかに婚活で疲弊していたのかに気づく。

 第1話では伴野から「あなたの名前は?」と聞かれた瞬間に胸がときめくと同時に、婚活パーティではプロフィールカードを交換するから、誰も名前を聞かなかった(個人としての自分を見てもらえなかった)と思い出す。

 第2話では、伴野と再会した鐘子が、改めて伴野のことを好きだと思った時に、三年間の婚活で感じた、好きでもなんでない相手にサラダを取り分ける時の「頭がグラグラする感じ」を思い出す。この回想を見ると、彼女が婚活によって、いかに傷ついたのかが、痛いほど伝わってくる。

 その後、自分は「恋がしたかった」のだと鐘子は気づくのだが、この恋に対する切実さが物語の推進力となっていく。

【写真】伴野丈を演じる宮沢氷魚

 伴野も八神も、あまりに理想化されたイケメンであるため、現実感が希薄だ。しかしこれは確信犯的な演出だろう。

 伴野と飛行機で出会う前に鐘子は伴野の荷物で頭を打ち、たんこぶができる。その後、鐘子の前に“こぶたん”というイマジナリー・フレンドが現れ、彼女と対話するようになる。『東京タラレバ娘』でも使われた漫画的演出だが、ドラマ版では鏡に映ったもうひとりの鐘子が話しかけてくる。

 つまり鐘子は、頭を打って幻覚を見るようになるのだが、伴野が登場して以降、韓流ドラマのような物語が進んでいくことを考えると、このドラマ自体が婚活に疲れた鐘子が見ている夢のように思えてくる。

 そう邪推したくなるのは、宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」が重要なモチーフとして登場するからだろう。

 本作はジョバンニという少年が親友のカンパネルラと共に銀河鉄道に乗って旅をするという幻想的な物語だが、伴野は自分の名前がスペインではジョー・バンノと呼ばれていたと言い、「銀河鉄道の夜」のカンパネルラ(イタリア語で鐘)が名前の由来である鐘子は伴野に対して親近感を抱く。

 偽装とはいえ不倫をしている男女を「銀河鉄道の夜」の少年二人に重ねているところが本作のロマンティックなところだが、「銀河鉄道の夜」では、カンパネルラが途中で死んでいたことが明らかになり、幽霊のような存在だったジョバンニが現実に帰還するという形で幕を閉じる。つまり、銀河鉄道に二人が乗っていた時間は、一種の「夢の世界」として描かれているのだ。

 この設定がそのまま『偽装不倫』の下敷きになっているのは、第4話で伴野が脳腫瘍だとわかることからも明らかだろう。だが、そうだとすると、ジョバン二(伴野丈)とカンパネルラ(鐘子)の役割は逆になるのだが、これはどういうことか?

 また、「銀河鉄道の夜」とのつながりで考えると最大の謎は作者の宮沢賢治と同じ名前の葉子の夫・吉沢賢治の存在だろう。どうにも不穏な空気が漂っている賢治だが、最終的にどのように絡んでくるのか? と謎が膨らむ。

 表向きは軽妙なラブコメとして進む『偽装不倫』だが、細かい仕掛けを見ていると、思った以上に複雑な物語となりそうである。原作漫画が現在連載中であるため、おそらく、ドラマ版オリジナルの終わり方が用意されているかと思うのだが、『偽装不倫』という名の銀河鉄道がどこにたどり着くのか、最後まで見守りたい。

(成馬零一)

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