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J・J・エイブラムスの哀しき独り相撲 『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』への同情

リアルサウンド

19/12/24(火) 13:00

 J・J・エイブラムス監督53歳、哀しき独り相撲……観終わった後、私はそう思った。面白い/面白くないかで言えば面白かったし、好き/嫌いで言えば好きだ。しかし、それはこの映画『スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019年)を取り巻いていた様々なトラブルを顧みての想いだ。同情票と言ってもいい。

参考:『スター・ウォーズ』全作に出演した唯一のキャスト アンソニー・ダニエルズとC-3POの42年

 もともと新三部作は、3人の監督によるリレー形式の作品と想定されていた。J・Jの仕事は1作目『フォースの覚醒』(2015年)の監督として「スタートダッシュを切って、あとは任せる」。そしてJ・Jはその役割を果たしていた。無限の可能性を秘めた少女「レイ」、自由を求める善良な人間「フィン」、絵に描いたような伊達男の「ポー・ダメロン」、そして善と悪の狭間で揺れる「カイロ・レン」といった、いくらでもキャラクター性を膨らませることのできる上に、それぞれ異なった魅力のある登場人物たちや、次作で便利に使えそうな謎や伏線を多く用意した。スターターとしては見事な仕事をしたと思う。

 しかし……同作後のスピンオフ作品『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)や『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)での監督降板劇、『最後のジェダイ』(2017年)で吹き荒れた賛否両論など、シリーズを取り巻く環境は荒れに荒れ、遂に当初の幕引き役は降板し、再びJ・Jが監督として立ったわけだ。本来なら誰かが巧くオチをつけてくれているはずの話が、むしろ難易度を上げて自分の所に戻ってくる。こんな哀しい独り相撲がありますか?

 こうした混沌としたバックストーリーを踏まえると、どうしても優しい目で映画を観てしまう。冒頭1文字目から致命的なネタバレになるので多くは語れないが、J・Jは自分が最も得意とする話運び、いわゆるマクガフィンを使っての追跡劇として映画をスタートさせる。作りは堅実だ。制限時間があって、その間に手に入れなくてはいけないものがある。登場人物たちは走り、焦り、戦う。細かいサスペンスを入れつつ、J・Jは自分の持ち味で勝負をしていた。キャスト陣も奮闘しており、特にカイロ・レンを演じるアダム・ドライバーは見事だ。彼なしでは映画が成立しなかったんじゃないかとすら思う。そしてカイロ・レンとレイの物語として、物語は辛うじて着地した。J・Jは何とかした、とは思った。

 しかし、残念ながらこの映画は映画である以上に『スター・ウォーズ』なのだ。皮肉にもJ・Jが手がけた『フォースの覚醒』に出演したサイモン・ペッグも過酷な撮影を平気だと語った上で、「だって『スター・ウォーズ』だよ」と言っている。それくらい特別なシリーズの1作なのだ。完璧なものはこの世にないが、だからと言って「何とかした」程度では厳しい。世界中で愛され、グッズ展開をしまくって、現代の神話とまで謳った作品の最終作としては物足りないというのが本音だ。それにJ・Jもヤケになったのか、前半こそ堅実ながら、ところどころでいつになく無茶苦茶なことをしている。「あ、ここはもう諦めたのね」と諦めが伝わってくる展開もあり、やはり観るのが悲しい。映画製作にまつわるゴタゴタ、いわば場外乱闘で作品に意図せぬ悲しみが付加されているのが何より気の毒だ。

 ただ、こうも思うのだ。私は子どもの頃に『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)を観て、「メチャクチャ面白いじゃないか」と思った。今でもシリーズ通して最も好きなキャラはダース・モールとクワイ=ガン・ジンだ。ただし、公開当時の『エピソード1』の評判、というかプリクエルは全体的にボコボコだった。結局、歴史が繰り返されただけなのかもしれないが、歴史は紡いでいくことが大事だ。ユニバース化をブチ上げて、完成すらしないうちに打ち切りになった作品はたくさんある。そういった最悪の事態を避けるために奮闘したJ・Jにはジャパニーズ・サラリーマン・スタイルで心からこう伝えたい。J・Jさん、とりあえず本当にお疲れ様です。(加藤よしき)

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