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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

「山下裕二の隠し球」展

月2回連載

第28回

19/10/18(金)

鈴木 今回は、美術史家の山下裕二先生をゲストにお迎えして、山下先生が監修をつとめられる展覧会『新人からカリスマ作家まで。渾身の16球 山下裕二の隠し球』(日本橋三越本店 本館6階 美術 特選画廊・アートスクエア、10月23日〜10月28日)について、いろいろとお話しをお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

遠山 この展覧会は、どんな展覧会なんですか?

山下 僕は月刊誌『美術の窓』(生活の友社刊)で、2005年から「山下裕二の今月の隠し球」という連載をしています。その連載で採り上げた作家から16人を紹介するのが、この展覧会です。連載開始からもう14年になるんですが、連載は170回を超え、これまでに80人以上の作家を採り上げてきました。

鈴木 連載は基本、一人を二カ月(2号にわたって)取り上げる形ですよね。

山下 そうですね。

遠山 「隠し球」っていうぐらいですから、あまり日の目を見ていない方を選んでこられたんですよね?

山下 日の目を見ていないどころか、誰も知らない作家ばかり。

遠山 山下先生ですら?

山下 そう。

鈴木 では展覧会の詳細をお聞きする前に、山下先生に、連載の経緯や、どういうふうに作家さんを選んでこられたかなどをお聞きしたいんですが。

山下 最初は、正直あんまり連載をするのは気が乗らなかったんですよね(笑)。でも何か連載をお願いしたいと、編集者の通称タヌキこと㓛刀知子さんが、粘り強く打診し続けてくれて。それでもやっぱり気が乗らずにいて、うやむやにしてたら、㓛刀さんが一緒に銀座の画廊廻りしましょうって誘ってくれたんです。それから、銀座の画廊廻りが始まった。それはもう老舗から小さな貸画廊まで。そうしたらけっこう面白いなって。策にハマった。でもすぐに連載が始まったわけではなくて、さらにのらりくらりと逃げていました(笑)。

遠山 連載が始まるまで、紆余曲折があったんですね(笑)。でも連載は始まることになったわけで。ただ、膨大な数の画廊と、作家さんがいますよね。どういう点で作家さんを選んできたんですか? 基本は画廊で見て、ですか?

山下 もちろん画廊で偶然出会うっていうこともあるんだけど、基本的には画廊からの案内ハガキだったり、メールだったりを見て、そこから取捨選択して見に行って確かめる、ということが多いですね。

鈴木 でも、なかなかメディアの人間でも、ハガキなんかが届いても、貸画廊とかまで見ていられないって飛ばしちゃうじゃないですか。でも先生は届くものにはすべて目を通しているんですよね?

山下 そう。いまは地方からもハガキが来るようになったね。ちょっと遠くても、気になったら見に行くようにしています。

鈴木 でもその中で「当たり」に会うのって、めちゃくちゃ確率も低いし、効率悪いですよね? 何百というハガキやメールを選別して、14年間で選ばれし80人ちょっと。

山下 200人、300人に1人ぐらいの確率だね。しかも二ヶ月に一回ぐらい。

遠山 ええ!! 狭き門! でもちょうど連載と合っているペースですね。

山下 そう。ちょうどいいペースなんです。でも時には、思いがけずすごい作家に出会ってしまって、スケジュールを無理矢理変えて、すぐにでもとり上げたい! って思うような作家にも出会います。

遠山 このとっても作品もご本人もインパクトの強い、第一回目の浅羽保治(1931-2008)さんもハガキやメールで見つけたんですか?

参考作品 浅羽保治《<エンターテイメントシリーズより> 京舞子'01》 ※この作品は展示されません

山下 浅羽さんはちょっと違うんです。実は銀座廻りがけっこう面倒くさくなって、ストレスが溜まりかけていた時があって(笑)。その時に、編集部で『現代日本の美術』っていう画集だったと思うんだけど、そこに載っていた浅羽さんの絵を見て、度肝を抜かれたわけ。

鈴木 確かにこれは度肝を抜かれるというか、なんなのか一瞬わからなくなりそう(笑)。

遠山 今回展示する作品は、もしかして、たくさんの森高千里さんを描いてる?(笑)

山下 そう、森高千里さん(笑)。残念ながら作品画像を掲載することができないんだけど、歌ったりドラム叩いたり、ギターを弾いたりする、何人もの森高千里さんを描いた作品。その名も《〈エンターテイメントシリーズより〉森高千里 FOREVER》(笑)。この作品描いた時64歳だよ? 64歳の人が何人もの森高さんを配した絵を描くなんて。めちゃくちゃファンキーじゃない? で、70歳を過ぎてもそんな感じの作品を描いてた。しかも公募展にそういったぶっ飛んだ作品を出してたっていうのもすごいよね。ちなみに最初に見たのは、仏像の前で舞妓さんがスイカを食べている絵で、次に見たのは、参考作品として載せてるけど、舞妓さんがビキニ姿でキティちゃん抱えてたりする絵(笑)。そのほかにも、マドンナやマイケル・ジャクソンだったり、パチンコのキャラクターのマリンちゃんが描かれていたり。とにかくぶっ飛んでる。浅羽さんの作品は、少しならネット上でも見られるので、検索してみてください。

遠山 私、浅羽さんの作品、ちょっとほしいなって思った(笑)。検索して、マリンちゃんの作品とかすごい面白い。

鈴木 遠山さんが興味示すって、意外だけど納得(笑)。

山下 遠山さん、ぜひ買って(笑)。

遠山 ちょっと実物見て考えます(笑)。

鈴木 で、この浅羽さんとの出会いが、この連載を始めようという、大きな決断になったんですよね?

山下 そう。浅羽さんは何をも気にせず、自分がどう言われようが、どうでもいい、ただ自分が描きたい絵を描く。ここまでの境地になっている人って、いないと思う。

遠山 ミーハーさをものともしない。ブレない人ですね。

山下 その通り。しかも「浅羽保治伝」がこれまた面白かったの。それは連載でも少し触れてるんだけどね。

鈴木 そのあたりのことも、森高さんの作品も図録に載っているのでぜひ。ちなみに、連載が始まるまでの紆余曲折もこの第一回連載で読めます(笑)。でもやっぱり作品はぜひ三越で実物を(笑)。

山下 今回の図録は、取材した時の連載がすべて読めるようになっていて、ものすごくお得です(笑)。

でも僕は正直、この人が連載の中で一番すごい人かもしれないって思ってる。

鈴木 初回を超えられてない?

山下 ある意味ね。いろんな意味で。

遠山 でもそれから80人以上が取り上げられ、いろんなタイプの作家さんがいて、それぞれがキャリアを積んでこられた。

『石田徹也ノート』書影 求龍堂、2013年9月刊行 ※本展でも作品集『石田徹也ノート』が販売されるとのこと。

山下 世界的に有名になったといえば、石田徹也さんだね。

篠原愛《ゆりかごから墓場まで(From the Cradle to the Grave)》 162.0×324.0cm、2010-11年、油彩・キャンバス
山口英紀《still life series #06 -tiny prayers- 》27.3×27.3cm、2019年、紙本水墨
中里勇太《夜の獣》120.0×50.0×280.0cm、2011年、樟に彩色

山下 それ以外にも、現在全国巡回中の「THE ドラえもん展」に出品している、篠原愛さんや、近藤智美さん、山口英紀さん、中里勇太さんも、いろんな場所で活躍しているし、木彫の前原冬樹さんも人気作家になった。

彼は僕が監修して、全国巡回した「驚異の超絶技巧!―明治工芸から現代アートヘ―」にも出品してもらったけど、まさしく超絶技巧で神業。これ、一木で彫り出されているんですよ。

前原冬樹《一刻》
28.0×36.0×3.5cm、2019年、桜(一木造)に墨、油彩

遠山 一木ということは、一つの木からということですよね。当たり前ですけど。

鈴木 これ全部くっついてるんですよ。パーツごとに彫られて、それを組み合わせているんじゃないんです。

遠山 ええ!? 全部つながってるんですか? こんなに細かいというか、いったいどこでくっついてるのかがわからない。これも本物を見て確かめないと。

近藤智美《歌舞伎羅漢図》
193.0×97.0cm、2016年、油彩・キャンバス
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