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広瀬和生 この落語高座がよかった! myマンスリー・ベスト

9月のベストは三遊亭丈二、渋谷らくご「「しゃべっちゃいなよ」で聴いた『大発生』。歴史的な名作だ!

毎月連載

第23回

20/9/30(水)

「しゃべっちゃいなよ」 渋谷らくご のチラシ

9月に観た落語・高座myベスト5

①三遊亭丈二『大発生』
 「しゃべっちゃいなよ」 渋谷らくご
 ユーロライブ生配信を視聴(9/15)
②立川吉笑『カレンダー』
 「立川吉笑ひとり会」
 表参道 ラ・パン・エ・アロ 有料配信を視聴(9/5)
③三遊亭白鳥『鬼コロ沢』
 「代官山落語オンライン夜咄 三遊亭白鳥『鬼コロ沢〜女芸人バージョン〜』produced by 広瀬和生」
 代官山 晴れたら空に豆まいて(9/19)
④春風亭一之輔『心眼』
 「千住落語会 春風亭一之輔独演会」
 THEATER 1010(センジュ) (9/9)
⑤古今亭文菊『庖丁』
 上野・鈴本演芸場九月下席(夜の部)(9/24)

*日付は観劇日
 8/26~9/25の間に観た落語会30公演(配信含む)、120演目から選出

『大発生』は、ある島で大量に繁殖した“中村さん”が野生化して島の産業に壊滅的なダメージを与え、島民の生活に多大な被害を与えるので、天敵を連れてきて駆除する噺。そのバカバカしい発想も凄いが、それが圧倒的に面白いのは、丈二があくまでドラマティックな語り口でシリアスに表現するからこそ。パニック映画のような緊迫した台詞の中に混じる「中村さんにそんな繁殖力があったのか……鈴木や佐藤じゃあるまいし」とか「小鳥遊と書くタカナシさん以外のタカナシさんは、あまり中村さんを獲らないようで」といった言葉遣いのセンス、知事と部下の会話だけで劇的に盛り上げる抜群の演技力、真面目な語り口なのにトボケた可笑しさが混じるフラ。“圓丈一門の鬼才”丈二が生んだ歴史的な名作だ。

「立川吉笑ひとり会」のチラシ

『カレンダー』は、商店街が作るカレンダーと丘の上のデジタル時計を見て全島民が暮らす、都会から隔絶した島での騒動。“志の輔らくご”的な始まり方からのアクロバティックな展開は、設定を不自然に思わせる隙を与えない圧倒的な面白さ! 論理を弄ぶ吉笑ならではの逸品だ。次々に新事実が明らかになっていく中で会長が気づく“衝撃の真実”は演劇や映画では表現できない。

代官山落語オンライン夜咄 三遊亭白鳥『鬼コロ沢 女芸人バージョン』のチラシ

『鬼コロ沢』は元々20年前に作った噺だが、今回の『鬼コロ沢(女芸人バージョン)』は設定も登場人物もまるで異なる。令和2年以来数十年コロナ禍が続く近未来の日本を舞台にする、鬼気迫る展開のサスペンス編だ。吹雪の新潟三国山中を徒歩で落語会へ向かう三遊亭Q蔵と弟子のQ太郎が遭難して山小屋に助けを求めると女主人が出迎える『鰍沢』なシチュエーション。女の正体は師匠との確執で失踪したQ蔵の姉弟子、小鳥だった……。コロナ禍の時代だからこそ胸に迫る台詞、そして感動の結末! 1時間の長講に、再びあの大名人が降臨した!

「千住落語会 春風亭一之輔独演会」のチラシ

一之輔の『心眼』は、目が明いた梅喜の「見るものすべてが新鮮」で無邪気に喜ぶ様子が魅力的。だからこそラストの台詞が胸に響く。心の底から女房おたけに詫びる梅喜、多くを訊かず「許してあげるから泣かないで」と梅喜を優しく包み込むおたけ。この描写によって、驚くほど後味が爽やかになった。こういう『心眼』もあるのか!と感銘を受けた名演だ。

古今亭文菊

この芝居(鈴本演芸場九月下席夜の部)は本来は蜃気楼龍玉がトリだがこの日だけ文菊が代バネで『庖丁』をネタ出ししていた。文菊の『庖丁』は“間男”狂言を演じる寅の表情の変化が素晴らしくて引き込まれる。久次が持ちかける酷い話に対する寅の素っ頓狂な相槌の楽しさは文菊ならでは。亭主の悪巧みを聞かされて気丈に振る舞う中に滲む女心の切なさの表現も見事。小唄“八重一重”で良い喉を聴かせてくれたのも嬉しい。芸達者な文菊の真骨頂だ。

最新著書

『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)1,000円+税

プロフィール

広瀬和生(ひろせ・かずお)

広瀬和生(ひろせ・かずお) 1960年、埼玉県生まれ。東京大学工学部卒業。ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」の編集長、落語評論家。1970年代からの落語ファン。落語会のプロデュースも行う。落語に関する連載、著作も多数。近著に『「落語家」という生き方』(講談社)、『噺は生きている 名作落語進化論』(毎日新聞出版)、最新著は『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)など。

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