イタリア映画界の巨匠、フェデリコ・フェリーニ監督の自伝的作品「8 1/2（はっかにぶんのいち）を原作に、アーサー・コピット（脚本／『ファントム』）＆モーリー・イェストン（作詞・作曲／『ファントム』『タイタニック』）らがミュージカル化した『NINE』 。1982年にブロードウェイで誕生して以来、日本を含めた世界各地でたびたび上演されている作品に、藤田俊太郎（演出）と城田優（主演）が新たに挑んでいる。11月11日（水）、初日に先駆けてTBS赤坂ACTシアターで行われた公開舞台稽古を取材した。

ところどころ英語詞のまま歌われたり、その日本語字幕や舞台上に設置されたカメラがとらえた映像がスクリーンに映し出されたり、話題のダンスカンパニーDAZZLEがアンサンブルとしてというよりそのままDAZZLEとして登場して踊ったり……。藤田演出はひとことで言えば「斬新」、あるいは配信（11月22日17時公演・23日13時公演で実施）での見え方を予め考慮に入れた「コロナ時代仕様」といった印象。演劇に“映画にはできない舞台ならではの表現”を、ミュージカルに“歌とダンスが渾然一体となって表現する物語”を、翻訳ミュージカルに“感情が声から伝わる母国語での歌唱”を求める従来のミュージカルファンからは、正直に言って賛否両論あるだろう。

だが藤田の挑戦そのものは称賛に値するし、また何より、斬新な演出には抵抗がある保守派でも確実に心震えるミュージカルな瞬間が、この舞台にはある。その瞬間を生み出しているものの筆頭はやはり、音楽。昨今のミュージカルに多い“キャッチー”や“ドラマティック”とは一線を画す、分厚いオーケストラと重層的な女声コーラスが豊穣に交わる荘厳でクラシカルな音色は、聴く者を主人公グイドの心象世界へといざなわずにはおかない。

そのグイドを演じる城田と、スランプに陥った彼にそれぞれ全く別の方向からインスピレーションを与える8人の女性に扮する女優陣の名演こそ、“ミュージカルな瞬間”のもうひとつの生みの親。ヒゲをたくわえ、英語のみならずイタリア語をも操る城田はもはやイタリアの悩める伊達男にしか見えず、その繊細な演技と表現力をいや増した艶やかな歌声とで観客を完全に魅了する。女優陣に関しては、これだけタイプの異なる実力者が日本ミュージカル界に8人もいたことにまず感服。その上で、抜きんでた実力と空間支配力を見せつけた前田美波里と、モアナやエポニーヌやメアリー・ロバートとは真逆とも言える“性の象徴”のような役を完璧に演じ切った屋比久知奈にやはり、特に大きな拍手を送りたい。

取材・文：町田麻子



ミュージカル『ナイン』
劇作・脚本：アーサー・コピット
作詞・作曲：モーリー・イェストン
演出：藤田俊太郎
出演：城田優 / 咲妃みゆ / すみれ / 土井ケイト / 屋比久知奈 / Eliana / 原田薫 / 春野寿美礼 / 前田美波里 / 他

【東京公演】
2020年11月29日（日）まで
会場：TBS赤坂ACTシアター

【大阪公演】
2020年12月5日（土）～12月13日（日）
会場： 梅田芸術劇場 メインホール
梅田芸術劇場 メインホール

【ライブ配信】
対象公演：
2020年11月22日（日）17:00
2020年11月23日（ 月・祝）13:00
※アーカイブ配信なし

DVD発売決定！
発売日：2021年4月16日（金）予定
詳細→ https://www.umegei.com/nine2020/special.html#tab_special4"

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