Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『夏、至るころ』で今年の夏を取り戻せ 池田エライザの感性に触れる、瑞々しいひと夏の物語

リアルサウンド

20/12/4(金) 20:00

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、新型コロナウイルスが落ち着いたら福岡を旅行したい大和田が『夏、至るころ』をプッシュします。

『夏、至るころ』

 女優の池田エライザが初めてメガホンを取った本作は、福岡県田川市で育った幼なじみの男子高校生ふたりを軸に、青春時代の後悔や挫折、人生の希望や家族の愛を描くひと夏の物語。

 この映画を観て思い出したのは「高校最後の夏」と「今年の夏」でした。幼い頃から地元の夏祭りの和太鼓を一緒に叩いてきた翔(倉悠貴)と泰我(石内呂依)。高校最後の夏、泰我は受験勉強に専念するために太鼓をやめてしまいます。高3の夏といえば、部活を引退して落ち着く間もなく、「ここで受験勉強の差がつく」と言われた“あの夏”。これから先の人生をどう生きたいかという大きな課題を前に、卒業後の来年の歩みをどう選択するか。それぞれが自分だけの人生を意識し始め、同じ町、同じ学校で、同じ時間を過ごしてきた友との最初の別れ道。泰我の選択に愕然とする翔は、自分は何がしたいのか分からない。

 泰我にとっての最後の練習の帰り、翔と泰我の会話がとても印象に残りました。「なんで、大学行くん?」という翔の率直な質問に、「普通に、幸せなりたいやん」と素直に答える泰我。その返事に翔は「なぁ。幸せっち、なん?」と尋ねるのです。高校2年の夏、私の周りでは部活を辞める人が大量に発生して、ちょっと心の中でざわついたのを思い出しました。

 夜のプールではしゃぎ、夏祭りに力強く響き渡る和太鼓。同じように意味もなくどこかではしゃぎ、それだけに没頭して熱中できた夏は、今年はどこにもなかった。そして、彼らと同じように、高3以外にも様々な分岐点で悩んだり、考えた人が多かった夏だった気がします。翔と泰我を見ていると、悩んで葛藤して勢いで走って、全てをひっくるめて夏だなと思うし、何かを考えたり、友人と電話したり、自粛期間が明けてちょっとだけ外に出て遊んだりした時間を思い出して、蝉が同じように鳴いた夏が今年もあったなと改めて感じました。一度公開が延期になって、公開に至った12月に観れたからこそ、自分のこれまでの夏に過ごした日々やこれからの夏への希望で、今年の夏を埋められる作品でもありました。

 大人になる準備期間の葛藤という、重くなりがちなテーマを描いていても、本作には全く暗いイメージを持ちません。初めから終わりまで、スクリーンにはみずみずしさが染み渡ります。主演の倉悠貴をはじめ、全国2,000人の中からオーディションで選ばれた石内呂依、ヒロイン役のさいとうなりら新人俳優の何色にも染まっていない、そのまんまの素朴さが映し出されていた。そして、オールロケで撮影された田川市の緑の景色と、蝉たちが彩る夏の音が、本物の夏の空間を映画館に再現します。

 監督を務めた池田エライザ自身の「ふるさと」への思いや、自らの経験を織り交ぜた完全オリジナル作品を観終わって、今まで女優や歌う姿しか見てこなかった池田さんの感性の部分に初めて触れられたのかなと感じました。私が池田さんを知ったのは、2015年、大学生の頃にある雑誌の街頭調査の集計をしていたとき。原宿の高校生たちにとったアンケートの「憧れの人」の項目には「池田エライザ」の文字が並んでいました(それだけがきっかけということは全くないだろうけど、その後、その某雑誌に登場)。モデル、SNSで「自撮りの神」「エライザポーズ」で注目を浴び、『映画 みんな!エスパーだよ!』のヒロイン役、数々の学園モノ映画に出演、テレビでも『ホクサイと飯さえあれば』(MBS/TBS)、『伊藤くん A to E』(MBS/TBS)、『ぼくは麻理のなか』(FOD)、『青と僕』(FDO)、そして映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』での存在感には圧倒され、見るたびに魅力が増していく存在。監督した『夏、至るころ』を通して、また新鮮な池田エライザの魅力に触れられる、そんな一本でもあります。

■公開情報
『夏、至るころ』
全国公開中
出演:倉悠貴、石内呂依、さいとうなり、安部賢一、杉野希妃、大塚まさじ、高良健吾、リリー・フランキー、原日出子
原案・監督:池田エライザ
プロデューサー:三谷一夫
脚本:下田悠子
音楽:西山宏幸
撮影:今井孝博
企画:田川市シティプロモーション映画製作実行委員会、映画24区
企画協力:ABCライツビジネス
協力:田川市 たがわフィルムコミッション
製作:映画24区
配給:キネマ旬報DD、映画24区
(c)2020「夏、至るころ」製作委員会
公式サイト natsu-itarukoro.jp

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む