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樋口尚文 銀幕の個性派たち

利重剛、知性と優しさと諧謔と

隔週連載

第15回

19/1/17(木)

提供:クォーター・トーン

 私と同い齢の個性派俳優・利重剛は、善人を演るにせよ悪人を演るにせよ、とにかくいい味を出す逸材で、映画監督としても立派な仕事を重ねてきた。もし利重剛という名前を知らない人でも、あのヌーッとした面長長身に見るからに特異な雰囲気のあるビジュアルを見れば、いろいろな作品で出会っていることを思い出すだろう。

 私が利重剛の存在を知ったのは1981年のことだが、その時の記憶は鮮烈だ。まずぴあフィルムフェスティバルで「笹平剛」という高校生の監督が『教訓Ⅰ』という学校の体制を批判する8mm作品を観て唸ったのだが、そのきっかけは故・大島渚監督に「成蹊高校に面白い子がいて、その作品がなかなかいいんだな」と教えて頂いたのがきっかけだった。実はその2年前に私も高校生で自主映画を監督して、やはり成蹊高校の手塚眞さんともども大島監督に応援されていたので、大島さんが誉める未知なる同級生「笹平剛」にはちょっとライバル意識を感じてすぐ観たのだと思う。しかし素直にその作品を面白いと思った私は、「笹平剛」君と池袋の文芸坐にあったカフェでお互いの作品を持ち寄って上映会をやったりしていた。

 しかしその「笹平剛」君たるや目覚ましい行動力で、TBS金曜ドラマ『父母の誤算』のクセ者の不良高校生役で主演に抜擢され「利重剛」の芸名でデビュー(「利重」は好きだった祖父の名に由来)、それにとどまらず憧れの岡本喜八監督に企画を持ち込んで採用され、それはATG映画『近頃なぜかチャールストン』として実現、そこでも主演、監督との共同脚本、はたまた助監督までこなすという活躍ぶりだった。

 この展開には当時本当にびっくりし通しだったのだが、ご母堂が当時『3年B組金八先生』で話題を呼んでいたベテラン脚本家の小山内美江子さんだと知って、高校生時分からそういうオトナの業界にものおじしない素地があったのだなと勝手に納得していた(笑い話でいえば、小山内さんが脚本を書いた『帰ってきたウルトラマン』にササヒラーというとぼけた怪獣が出て来るのだが、あれは本名の「笹平」から来ていたのか!とその時気づいて驚いた)。『父母の誤算』も小山内さんの脚本だったが、しかし「利重剛」の人をくったニヒルな不良高校生の演技を見れば、決して彼が売れっ子脚本家の母の威光で起用されたのではないことは疑いなかった。

  『レディ in ホワイト』(C)テレビ大阪サービス

 露口茂の校長が営む、普通の学校ではサジを投げられた困った生徒たちを集めた地方の高校で、一見にこにこと大人たちに応対する高井洋二こと利重剛は、しかしわかりやすい反抗少年よりよほどタチの悪い屈折を秘めている。このやっかいな役をまるで新人の利重剛が実に自然に、図太い感じで演じていた。私はすっかり惹きつけられて、毎回食い入るように『父母の誤算』を見たが、この作品や続篇的な『親と子の誤算』、伝説的な青春ドラマ『青が散る』あたりまでの利重剛のちょっとユニークな存在感はフレッシュに際立っていた。そして映画『近頃なぜかチャールストン』での脱力型の、しかしピュアな少年の演技は、これまたナイーヴで忘れがたいものがあった。

 こうした新鮮なデビュー期を経てさまざまなドラマや映画のバイプレーヤーとして重宝されながら、映画監督としても『ZAZIE』『エレファント・ソング』『BeRLiN』『クロエ』といった独特の風味を持つ作品を打ち出して評価を集め、熱狂的なファンも生んだ。一時期より作品発表のペースは緩やかになったが、いわゆる作家的な作品にとどまらず『さよならドビュッシー』のようなミステリーの商業作品においても映画的な滋味を感じさせる仕上がりになっていた。

 そんな多彩な利重剛は、時代劇から現代劇まで飄々とこなしまくるバイプレーヤーとして珍重されているが(近作のWOWOW『孤高のメス』の役もかなり面白いと聞く)、『近頃なぜかチャールストン』で共演した岸田森は利重のとても敬愛する俳優で、悲しいことにこの映画が公開されて間もなく病いで逝った。その訃報に接して利重はおいおい泣いたと当時語っていたが、今もこなす役柄こそクセ者なれど、よわいを重ねてそういう人柄のよさが愈々にじみ出ていているという気がする。まさに岸田森のような知性と優しさと諧謔のセンスを継ぐ人であろう。

 『連続ドラマW 孤高のメス』毎週日曜夜10時 WOWOWにて放送中

作品紹介

『アイスと雨音』

2018年3月3日公開 配給:SPOTTED PRODUCTIONS
監督・脚本:松居大悟
出演:森田想/田中怜子/田中偉登/青木柚/利重剛

『人魚の眠る家』

2018年11月16日公開 配給:松竹
監督:堤幸彦 脚本:篠崎絵里子
出演:篠原涼子/西島秀俊/坂口健太郎/川栄李奈/利重剛

『レディ in ホワイト』

2018年11月23日公開 配給:太秦
監督:大塚祐吉 脚本:能登秀美
出演:吉本実憂/波岡一喜/矢本悠馬/笛木優子/利重剛

『ウィーアーリトルゾンビーズ』

2019年6月公開 配給:日活
監督・脚本:長久允
出演:二宮慶多/水野哲志/奥村門土/佐々木蔵之介/利重剛

『恋恋豆花』

2019年公開予定 配給:アイエス・フィールド
監督:今関あきよし 脚本:いしかわ彰
出演:モトーラ世理奈/大島葉子/椎名鯛造/真宮葉月/利重剛

『連続ドラマW 孤高のメス』(ドラマ)

毎週日曜夜10時 WOWOWにて放送中
原作:大鐘稔彦
監督:内片輝 脚本:前川洋一
出演:滝沢秀明/仲村トオル/長塚京三/利重剛

プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が2019年に公開。

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