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秋山黄色、泣き虫、Maica_n……ロックの系譜に連なる歌の力 気鋭ソロアーティスト3組に注目

リアルサウンド

20/5/16(土) 10:00

 新しいプラットフォームが生まれると、それをきっかけに新しい才能が頭角を現すようになる。最近では、宅録技術が進歩し、楽曲を発表できる環境が多様化したことにより、ソロアーティストの勢いが増してきた印象だ。年始に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(1月19日放送回)で音楽プロデューサー・蔦谷好位置が、長谷川白紙や君島大空、諭吉佳作/men、崎山蒼志の名前を挙げながら「若い才能がどんどん出てきている!」「何十年に一度出るレベルの人がゴロゴロいる!」と興奮気味に語っていたことも記憶に新しい。

(関連:秋山黄色、『CDTVスペシャル!』出演でSNSトレンド入り 「モノローグ」生パフォーマンスが同世代に与えた衝撃

 ソロと言えば、R&B/ヒップホップがバックグラウンドにあるアーティストが多いイメージがあるが、一方で、ロック/オルタナ要素の強いアーティストも次々と出てきている。

 例えば、今年3月にメジャーデビューした秋山黄色がそうだ。メジャーデビュー作にあたる1stフルアルバム『From DROPOUT』はバラエティ豊かな内容となっており、表現者としての引き出しの多さが窺える。一方、収録曲を聴くと、そのベースにあるのが、エレキギター・エレキベース・ドラムによるロックサウンドであることがよく分かる。地声を張り上げるタイプのボーカルは、そのようなサウンドと非常に相性が良い。

 また、『CDTVスペシャル!卒業ソング音楽祭2020』(TBS系)におけるギターを激しく掻き鳴らしながらのパフォーマンスも話題を呼んだ。内なる衝動を溢れさせるような彼の姿は、直前の紹介VTRに登場した「専門学校中退」「引きこもり」というワードが喚起するインドアっぽいイメージを覆すものだった(参照:秋山黄色、『CDTVスペシャル!』出演でSNSトレンド入り 「モノローグ」生パフォーマンスが同世代に与えた衝撃)。

 秋山黄色といえば、歌詞も独特だ。以下に引用したのは「やさぐれカイドー」の1番Bメロ。

 〈This is beams/慢性退屈/蛆のソープランド/Black line on eye/ミス 財布 何もない分/うちのモンスター/育っていくんだよ…/He 神父 完全トラップ/後ろ向けたらほんと良かったよ/いつからこここんなん建ってんの?〉

 文章としての意味性は薄いように思えるが、音に乗ったときのリズムが気持ちよい。長音(ー)、促音(っ)、撥音(ん)、半濁音(「゜」のついた音)が効果的に使用されているためだ。字面を見ただけではそのすごさが分かりづらいと思うので、ぜひ実際に曲を聴いて体感してみてほしい。

 秋山黄色のように、ヒップホップにおけるフロウとはまた別の言語感覚を持って、聴き心地の良い歌詞を書く人物は他にもいる。この観点から紹介したいのが、泣き虫☔︎の「大迷惑星。」という曲だ。低音域のしゃがれ声も彼ならではの個性だが、ここでは歌詞の話がしたい。この「大迷惑星。」では音の反復・押韻が多用されている。例えば、Aメロでは〈好き嫌い〉や〈また会お〉といった特定のワードが繰り返されている。〈見ない未来。期待しない。〉と、母音が同じ単語を羅列している箇所がある。〈夜な夜ナーナーにしたんだ。〉と、2つのワード(夜な夜な、ナーナーにする)を共通音で結合させている箇所がある。

 さらに、好意に似た感情を「嫌い(大嫌い)」や「迷惑」といった言葉で表す意外性もリスナーを惹きつけているようだ。否定的な意味を持つ言葉を使用し、口から出た言葉と本心のチグハグさ、一人称の不器用さを表現しているところは、あいみょん「君はロックを聴かない」、槇原敬之「もう恋なんてしない」など歴代のヒット曲にも通じる。また、編曲を浅野尚志(でんぱ組.inc、カノエラナ、TEAM SHACHI、NICO Touches the Wallsらの制作に携わる人物)に依頼し、オーソドックスなアレンジに仕上げていることから、広く聴かれることを志向しているアーティストなのでは、と推測することができる。SNSで検索してみると、カバー動画も見受けられ、実際に楽曲が広まりつつあることがうかがえる。ここからの展開が気になるところだ。

 最後に紹介したいのが、Maica_n。5月20日にEP『Unchained』でメジャーデビューする、19歳のシンガーソングライターだ。公式サイトに掲載されているプロフィールによると、1960~70年代のロックが彼女のルーツなのだそう(参照:公式サイト)。山崎まさよしや奥田民生、Charなど、大物ミュージシャンとのセッション経験もある。『Unchained』のリード曲「Unchain」からは確かに往年のロックソングからの影響を読み取ることができる。また、歌詞に描かれた“何にも縛られず自由でいたい”という願いは、尾崎豊からBUMP OF CHICKENまで、様々なミュージシャンが時代を跨ぎながら歌い続けてきた、ロックにおける普遍的なテーマだ。

 興味深いのは、その普遍的なテーマが、今の時代ならではのメッセージ性を帯びているところだ。年齢不詳で性別不詳なアーティスト名について、以前本人に聞いたところ、“男性像/女性像”的な固定観念の存在に違和感を抱いた経験があること、また、末尾の“_n”にはいくつかの意味が込められているが、そのうちのひとつは“neutral”(中立的な)であることを明かしてくれた。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』に登場する「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」という台詞が話題になってからもう3年半近く経つが、思考の枠組みを縛る呪いの言葉は今もあちこちに存在している。一方、ジェンダーフリーやその他様々な観点から、個人の自由が叫ばれる時代に突入しつつもある。そんな社会と共鳴する形で、彼女の音楽は今後広まっていくことになるかもしれない。

 このように、骨のある歌を歌う新星アーティストが続々と出てきている。今後も3組の活動に注目しつつ、後に続くアーティストの登場を楽しみにしていたい。(蜂須賀ちなみ)

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