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和田彩花の「アートに夢中!」

2021年の振り返りと2022年注目の展覧会

毎月連載

第66回

新型コロナウイルス感染予防対策のため、美術館の多くが日時予約制を導入するなど、アートを取り巻く環境も大きく変化した2021年。そんななかでも、美術館へ通い続けた和田さんに、今年のアート鑑賞を振り返って頂きました。和田さんの心に残っているのはどんな展覧会なのでしょうか?

「出会えてよかった!」と思うことが多かった2021年

2021年は2020年よりは多めに展覧会に行くことができました。まだ試行錯誤なことも多いですが、このような状況でも開いてくれる美術館が増えたのはとてもうれしいです。特に今年はこの作品に出会えてよかった!と感じたことがとても多かったように感じます。東京都現代美術館の『マーク・マンダース−マーク・マンダースの不在』(3/20~6/20)、三菱一号館美術館の『コンスタブル展』(2/20~5/30)などは、展覧会の構成もよかったですけれど、何より作品の力強さに夢中になりました。

そんななかでも、心に残っているのが東京都庭園美術館の『20世紀のポスター[図像と文字の風景]―ビジュアルコミュニケーションは可能か?』(1/30~4/11、連載第56回参照)でした。1910年代にロシアで生まれた「構成主義」に影響を受けたものを中心に構成されていて、絵や文字が幾何学的に配置された作品が多かったです。

東京都庭園美術館の『20世紀のポスター[図像と文字の風景]―ビジュアルコミュニケーションは可能か?』チラシビジュアル

それまでポスターを作品として見たことがなかったので、そこがまず新鮮に感じました。もちろんポスターのデザインも素敵です。ポスターの表現って、伝えることが同じものでも、そのときの時代や状況によって、変化していくということを知ることができました。特にスイスで作られたポスターがよかったです。永世中立国であるというバックボーンがあるからか、プロパガンダを抑えて見る人の判断に委ねた、抑制の効いたシンプルなデザイン。けれども、心に突き刺さってくるんですよ。

ポスターって、当然ながら現在も制作されていて、展示室にあったポスターのように、時代や状況によって表現の仕方も変えていっているわけですよね。この展覧会を見たことで、道にあるポスターもじっくり見て、その表現について考えるようになりました。今年の初めに鑑賞した展覧会だったのですが、いまもはっきり思い出せる展覧会です。視野が広くなった気がしました。

あと、夏に開催された芸術祭、Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13「パビリオン・トウキョウ2021」(7/1~9/5)もよかったです。この頃は、まだまだ気が抜けない状況でしたが、だからこそ野外で作品を見ることができたのとてもよかった。その野外というのも、表参道や青山というおしゃれな街。そんな街にパビリオン(作品)が置かれることで、それまでの景色がガラッと変わったり、逆に昔からあったかのように環境に溶け込んでいたり、それぞれ異なる効果が表れていたのがとてもおもしろかったです。また、作品のなかに入り込めたり、中から外を眺めたりできるのも楽しかったです。

「パビリオン・トウキョウ2021」展示風景 平田晃久《Global Bowl》

国際連合大学の前にあった平田晃久さんの《Global Bowl》は、木製のボウル状になったパビリオンなのですが、内部に入ってジャングルジムみたいによじ登ったり、座ってみたり自由に過ごすことができるんです。表参道のこの道は、いつも歩いていた場所なのですが、この作品のなかに座って、ゆっくり周囲の風景を見渡すことができました。表参道ってとてもキラキラした街で、「ちゃんとしなければ!」という意識で背筋を伸ばして歩いていたりするんですけど(笑)、そんな場所にこんなステキな作品があって、座ったりもできるのがとってもいいなって思いました。

「パビリオン・トウキョウ2021」展示風景 会田誠《東京城》

外苑前の銀杏並木前に設置された会田誠さんの《東京城》もとてもよかったです。会田さんの作品は、少女をモチーフにした作品などもあって、全作品を100%肯定的な気持ちで見ることはできないのですが、それでも心を「おっ」と掴んでくる作品が多いと思っています。《東京城》は、そんな会田さんの中でもとてもかっこいいものでした。今年の夏は、オリンピックにまつわる問題が噴出していて、それでも開催され、華やかな雰囲気でいろいろな問題が流されそうになっていって……。そんな状況のなかで、会田さんのダンボールのお城が、青山のあの場所にどーんとある。それが最高に素敵でした。あの時期にあの作品をあの場所で見ることができて本当によかった。アートの力ってすごいって思いました。

あとは、ワタリウム美術館の『梅津庸一展 ポリネーター』(9/16~2022/1/16まで開催中)も素晴らしかったです。私は、どうしても現代美術の作家さんって、社会的な側面を提示したりするところが面白いと感じることが多くて、絵画をどのように描いているか、といった造形面にそこまで関心が持てなかったんです。でも、この展覧会はそのようには感じなかった。

『梅津庸一展 ポリネーター』展示風景 (写真中央)《フロレアル -汚い光に混じった大きな花粉-》2012-2014年 愛知県美術館所蔵

梅津さんの作品は、これまでの美術史、本人が言われたこと、経験したこと、これまでの技法など、さまざまなものを踏まえて、一瞬ではとらえがたいんです。でも、そのわかりにくさがとても良くって、世界には必要なんだと思いました。《フロレアル -汚い光に混じった大きな花粉-》という作品があるんですが、これが一番のお気に入りです。

このごろ、特に「わかりやすさ」が求められているように思います。私の職業は特にそう感じることが多いです。雑誌の見出しやテレビのサブタイトルで、わかりやすくインパクトのある言葉がきっかけとして出てきて、そこから話が展開していく。自分自身をちょっと蔑ろにして、わかりやすさへ突き進まないといけなくて、大切なものが少しずつこぼれ落ちていってしまう。美術の世界でも、わかりやすさが求められていると感じることもあります。

そんな時代であっても、わかりにくいものを、わかりにくいまま作品として作る梅津さんって、この世界にとても必要なんじゃないかなと。ずっと応援していきたいと思いました。

あとは、この連載でもお話した東京都美術館の『ゴッホ展』(9/18~12/12、連載第64回参照)もすごくよかったです。ゴッホの作品をまとめて見る機会を持てたことが素晴らしい。いろいろな美術展でゴッホの作品を1〜2点見る機会があっても、1〜2点では画風やモチーフの変遷などに気づけません。だから、さまざまな時期のゴッホの作品を見て比べられるこの展覧会はとても貴重だと思いました。すごいパワーでした。短い人生であそこまで描けてしまうなんて!

2022年、注目の展覧会

『ゲルハルト・リヒター展』メインビジュアル

2022年も楽しみな展覧会が多いです。なんといっても、東京国立近代美術館で開催される『ゲルハルト・リヒター展』(6/7~10/2)。リヒターは、生まれた国や場所、歴史で語られることが大いし、切り離せないとは思うのですが、ただ絵を見ていて素敵だなって感じるんです。彼を意識して見るようになったのは、『ある画家の数奇な運命』というゲルハルト・リヒターをモデルにした映画を見てから。そのあと、金沢21世紀美術館で《8枚のグレイ》という作品を見て、絵画のなかでいろいろなことを試しているのだなと感じたんです。以前は19世紀の絵画ばっかり見ていたんですけれど、20世紀の作家の作品も面白いと思うようになったのは、リヒターの作品と映画の影響ですね。だから、展覧会がとても楽しみです。

『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』李禹煥、フランス、アングレームでの《Relatum - The Shadow of the Stars》設置作業、2021年 Photo©︎Lee Ufan

そして、気になっているのが国立新美術館の『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』(8/10~11/7)。それまで、私は絵というものは美術館などで見るものだと思っていて、買って家に飾るという意識がありませんでした。でしたが、先日、オークションの取材の仕事があったので、オークションに参加する人の気持ちに近づくべく、自分の家に作品を置くとしたらどんな作品を置くか?と、妄想することにしたんです。そこで頭に浮かんだのが、李禹煥(リ・ウファン)の作品。妄想の家の妄想の庭に置きたいとひらめいたんです。そのときに、自分は李禹煥の作品に惹かれてることに気づき、作品を意識して見るようになりました。でも、自分が彼の作品のどこに心を惹かれているか、実はまだよくわからないんです。その理由を知りたくて見に行きたいと思っています。

あと、来年は美術館に加えて、ギャラリー巡りをしてみたいと考えています。ギャラリーって、なんだか敷居が高く感じてしまうんですよね。いまは、おすすめのギャラリーをいろいろな人に聞いて情報を集めている最中。来年も楽しくアートを見ていきたいなと思います。

構成・文:浦島茂世 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー! プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー! プロジェクトを卒業。アートへの関心が高く、さまざまなメディアでアートに関する情報を発信している。

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