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立川直樹のエンタテインメント探偵

パニックSF映画のような現状ともシンクロした『囚われた国家』、テレビで観た『現代やくざ 与太者の掟』、ニーナ・シモンのレコードなど

毎月連載

第46回

『囚われた国家』 (C) 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

新型コロナウイルスの感染拡大で世界が凄いことになっている。コンサートの中止・対応に追われる音楽業界に休演を余儀なくされている演劇やミュージカル、ダンスの世界、美術館なども休館し、映画館でも休館にしたり公開時期を遅らせる映画まで出てきているが、ホテルで行われるイベントなども続々中止に追い込まれている。ファッションの世界でもショーが中止になったり、ジョルジオ・アルマーニのように無観客でショーを開催したりするケースも相次いでるが、今後どうなるのか全く予測がつかない。どこか近未来のパニックSF映画のような様相すら呈し始めている。

4月3日にロードショー公開される、『猿の惑星/創世記』の監督ルパート・ワイアットの新作『囚われた国家』の敵は正体不明の地球外生命体=エイリアンだが、地球に襲来して、世界各国の主要都市を制圧する設定に付随する映像がテレビのニュース映像とどこかでシンクロしてとても奇妙な気分になった。試写だけは何とか続けられている。それと少し時間が出来た分は読書とテレビのチェック、CDやアナログ・レコードを聴くのに回せる。

ふと不思議な感覚がフラッシュバックしてきたツァイ・ミンリャン監督、坂本龍一が音楽を担当したドキュメンタリー『あなたの顔』。ユーミンのライヴを観に行った苗場から戻った午後に観に行ったのだが、前回書いた『大阪万博50周年記念展覧会』やクラシックのコンサートなどと違って妙に現実離れした時間が流れていたのである。

『あなたの顔』(C)2018 HOMEGREEN FILMS TAIWAN PUBLIC TELEVISION SERVICE FOUNDATION ALL RIGHTS RESERVED

それは翌日テレビで観た原田芳雄主演の『卍』や市川雷蔵と若尾文子共演の『安珍と清姫』にも共通していた。WOWOWもそうだが、“日本映画専門チャンネル”や“時代劇専門チャンネル”は、もう今の時代だったら絶対作れないような安藤昇主演、伊丹十三と若山富三郎共演の『懲役十八年 仮出獄』(1967年・東映)、菅原文太を筆頭に待田京介、若山富三郎、山城新伍、安部徹、渡辺文雄、藤純子……という癖のある“役者”がそろった『現代やくざ 与太者の掟』(1969年・東映)のような映画を観ることができるが、『現代やくざ 与太者の掟』の中で若山富三郎がつぶやいた「やくざに義理と仁義がなくなったらただの暴力団」という言葉は実に言い得て妙で、飲食業界も含めて現在エンタテインメントと言われ、物を作って商売にやっきになっている世界を予見していたようにも思えたのである。

ひとつはっきりと言えるのはやはりリアルなものの魅力。今は亡きレナード・コーエンやジョー・ストラマーも好きなシンガーとして名前をあげていた、ニーナ・シモンやジョン・コルトレーンのレコードがもたらしてくれる充足感はかけがえのないものだし、2月23日に生中継されたWBC世界ヘビー級デオンテイ・ワイルダーとタイソン・フューリーの再戦(フューリーの7RTKO勝ち。ワイルダーは11度目の防衛失敗)の衝撃的な結末は忘れ難いものだった。

ニーナ・シモン(写真:AP/アフロ)

本は80年の歴史に幕をおろす東急東横店の催物会場で東西18軒の古本屋が出店して開催されていた“渋谷大古本市”で購入したポール・オースターの『最後の物たちの国で』(白水社刊)とミシェル・レリスの『幻のアフリカ』(平凡社刊)が抜群のおもしろさ。新聞にはコロナウイルスの感染拡大と重ね合わせて、カミュが1947年に発表した小説『ペスト』が売れていて、文庫を発行する新潮社が1万部の増刷を決めたという記事も載っていたが、魅力ある本は永遠の生命力を持っていると思う。

カミュ著 、宮崎嶺雄訳『ペスト』(新潮文庫刊)

『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』や『フレディ・マーキュリー:キング・オブ・クイーン』というドキュメンタリーも含めて映画以外で観られてよかったと思うテレビは、高田純次が笑わせてくれた(最後に書いた色紙の「意味なく生きる」という言葉がらしくて最高)3月7日の『ザ・インタビュー ~トップランナーの肖像~』と翌8日にBS1でやっていた『よみがえるオードリー・ヘプバーン顔に魅せられた男カズ・ヒロ』がとても見応えがあった。アカデミー賞受賞者の才能あるアーティストの子供時代の話はかなり衝撃的だった。育つ環境がクリエイティブな才能をのばすという持論に自身が持てた。

作品紹介

『囚われた国家』(2018年・米)

2020年4月3日公開
配給:キノフィルムズ/木下グループ
監督:ルパート・ワイアット
出演:ジョン・グッドマン/ジョナサン・メジャース/アッシュトン・サンダース/ヴェラ・ファーミガ

『あなたの顔』(2018年・台湾)

2020年4月公開
配給:ザジフィルムズ/トランスフォーマー
監督:ツァイ・ミンリャン
音楽:坂本龍一
出演:リー・カンション

『現代やくざ 与太者の掟』(1969年・日本)

1969年2月1日公開
配給:東映
監督:降旗康男
出演:菅原文太/待田京介/志村喬/若山富三郎/藤純子

『ペスト』

発売日:1969年11月3日
著者:カミュ
訳者:宮崎嶺雄
新潮文庫刊

『ザ・インタビュー ~トップランナーの肖像~』(第465回)

放送日:2020年3月7日
出演:高田純次/小島慶子
BS朝日

BS1スペシャル『よみがえるオードリー・ヘプバーン顔に魅せられた男カズ・ヒロ』

初回放送:2020年3月8日
NHK BS1

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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