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中村壱太郎「ART歌舞伎」を歌舞伎の新たな枠組みに、衣装・ビジュアルが物語生む意欲作

ナタリー

20/7/9(木) 5:00

「中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎」より。

中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎」のオンライン記者会が、昨日7月8日に行われた。

中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎」は、新型コロナウイルスの影響で劇場公演が厳しくなった今、新たな公演実施の形はないかと模索する中で生まれたプロダクション。企画の中心となる中村壱太郎と共に、尾上右近、花柳源九郎、藤間涼太朗が出演する。

オンライン記者会に登場した壱太郎は、企画について「何かしなくてはいけない、個人でできることはできる限りやっていこうという思いからYouTubeチャンネルなどをやってきましたが、その中でも一番大きな動きになる」と明かす。古くからの知り合いである湘南乃風の若旦那こと新羅慎二から声がかかり、「歌舞伎を配信で見せるには?」と制作が進んだ。新羅とはお互いの公演を観に行き合う仲で、壱太郎は「いろんな感想を言ってくださる。歌舞伎を観てくれていて、そのうえで誘ってくれたのが、足を踏み出す大きなきっかけになった」と語る。なお新羅は本作でプロデューサーを務める。

このプロダクションでは、「化粧や衣装、かつらなど、歌舞伎の扮装をすると密(な接触)になるため、歌舞伎の扮装ではないものを考えた」と言う壱太郎。「普段だったら脚本があっていろいろなことが立ち上がってから衣装をオーダーするのですが、逆に衣装やビジュアルから物語や踊りを考えていくのが、創作の糸口になるのではと閃きました」と告白する。

「ART歌舞伎」のタイトルを付けるまでは試行錯誤があった。「『歌舞伎乱舞』だと『刀剣乱舞』と被っているな、とか(笑)。そんな中、ふと朝起きて思い立ったのが“ART”という言葉でした。検索すると新宿のホストクラブが出てくるくらいで、歌舞伎公演にはなかったので……」とはにかむ。「ビジュアル面から作るということもあり、アート、芸術が全面に出るように」という思いも込められた。

配信公演は都内の神社にある屋内の能舞台で収録され、上演時間は約1時間20分。前半と後半の間にはブレイク動画が挟まれる。前半には、4つの方角に宿る四神(青龍、朱雀、白虎、玄武)に扮して舞う「四神降臨(ししんこうりん)」、浅野祥の津軽三味線の演奏に乗せて、神への感謝を送る「五穀豊穣(ごこくほうじょう)」、後半には「三番叟」を基盤にした「祈望祭事(きぼうさいじ)」がラインナップされた。休憩の意味合いを持つブレイク動画の後、目玉となる創作舞踊物語「花のこゝろ(はなのこころ)」を送る。壱太郎は「ビジュアルから物語を考えた『花のこゝろ』は、“乾いた女と濡れた男”をコンセプトに男女の輪廻転生、子を亡くした女と戦いに明け暮れた男の出会い、心のつながりを描いた舞踊劇」だと言う。

今回出演するキャスト、演奏家はすべて壱太郎の希望で、そのほかヘアメイク、写真などのクリエイターは新羅の紹介だ。「自分で脚本を書いたり演出をしたりする中で、他ジャンルの方と共演したいと思っていて。長唄や清元、鳴物ではない方たちに声をかけたのも、いつか一緒にやりたいと思っていたから。頭の中で思い描いたり、パソコンの中に乱雑にメモしていたりした人たちの名前や企画を、今回当て込めました。動かず本公演を待ち、研鑽を積んで稽古を重ねるのも一つの役者の姿。でも、私の性格上、動かずにはいられないので(笑)」と語った。

歌舞伎俳優の尾上右近を引き連れた理由については、「舞踊家として一人でどこまでできるかを突き詰めたYouTubeチャンネルに対し、公演として、大きなプロジェクトを始動したいという思いが強かった」と言う。「今後、第2弾に自分が出演するかしないかも含め、歌舞伎公演の新たな枠組みを成り立たせるために、歌舞伎俳優同士でがっつり組むということを意識したくて。尾上右近くんは親友であり戦友。真っ先に顔が浮かびました。彼は芝居のうえでの熱量が一緒で、踊りに関する着眼点や追求の仕方も深い」と述べる。この配信公演で右近は、初めて自ら振付に挑戦。「四神降臨」では4人の役者と4人の演奏家がコラボレートしており、それぞれの個性を楽しめる作品となっている。また、全編を通して視聴者が集中して観られるように、カット割りや照明にこだわり、過剰なほどの演出効果を加え、映像としての醍醐味が味わえるような作品に仕立てられた。

また、今回の創作過程で「能舞台上で観るライティングが映像で同じようには映らないことにショックを受けた」と言う壱太郎。映像で闘える部分もあると知った一方で、「舞台での美しさは忘れてはいけない」と心に刻んだという。そんな壱太郎は8月1日に開幕する東京・歌舞伎座の再開公演「八月花形歌舞伎」で、トップバッターとして「連獅子」に出演。「再開の最初の舞台に立てるのは、歌舞伎俳優としてありがたい。選んでもらえたことへの責任感を感じています。ただ、上方歌舞伎の人間としては、なんとか関西でも舞台を再開できないかと。関西でも歌舞伎の幕が開いたときこそ、本当の“再開”だと感じています。今年中には関西で幕が開くように、その意味でも『連獅子』への出演は大きな励みになります」と言葉に力を込めた。

「中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎」の配信公演は、7月12日19:30にライブ配信サービス・Streaming+、チケット販売プラットフォーム・ZAIKOで公開され、同日21:00からは壱太郎のYouTubeチャンネルでアフタートークが配信される。見逃し配信は13日まで視聴可能。また、13日から19日までは通常版と壱太郎、右近による副音声版のアーカイブ配信を見ることができる。アーカイブ配信のチケットは別途必要で、ブレイク動画はアーカイブ配信には含まれない。

「中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎」配信

2020年7月12日(日)19:30~

出演:中村壱太郎、尾上右近、花柳源九郎、藤間涼太朗
演奏:中井智弥(箏・二十五絃箏)、浅野祥(津軽三味線)、藤舎推峰(笛)、山部泰嗣(太鼓)/ 友吉鶴心(琵琶)

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