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『俺の家の話』はただの愛情物語ではない 宮藤官九郎が描く“お金”と“介護”の現実

リアルサウンド

21/2/5(金) 6:00

 1月22日から“いよいよ”スタートした『俺の家の話』(TBS系)。“いよいよ”と書いたのは、主演の長瀬智也が3月末に事務所を退所し、裏方の仕事につくため、現時点では最後の主演作になると思われると。そして、それが『池袋ウエストゲートパーク』『タイガー&ドラゴン』『うぬぼれ刑事』(いずれもTBS系)でタッグを組んできた宮藤官九郎の作品だということ。また、宮藤にとって、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』以来の連続ドラマだということ(間に単発のNHKスペシャルドラマ『JOKE~2022パニック配信!』を挟むが)があるからだ。

 今度の話は、家族、それも父親と長男の物語である。長瀬演じる主人公の観山寿一は、能楽の人間国宝の観山寿三郎(西田敏行)の長男で、子供の頃から稽古を重ねるも、一度も父から褒められたことがなかった。唯一、父親と楽しい時間を過ごせたのが、テレビでプロレスを観ていた時間であり、寿一は、父に認められたい一心で家を飛び出し、父の好きなプロレスの道に進み、それ以来22年も家に帰っていなかった。しかし、父親が危篤と聞きつけ、実家にかけつけるも、あっけなく父は目を覚ます。

 父親と長男の確執だけの物語であれば、それを乗り越えて、「家族の愛情を取り戻しました」で終わるのが多くの物語かもしれないが、宮藤官九郎だけに、そんなものでは終わらない。

 第1話から、寿一はプロレスラーをきっぱりと辞め、宗家を継ぐことを腹に決める。そして寿三郎が介護なしでは生活できないことが明らかになる。さらに、あろうことか、寿三郎がさくら(戸田恵梨香)という女性を婚約者であると門弟の前で紹介し、遺産を譲渡すると宣言する。

 寿一は父のたっての願いで、トイレやおむつ交換を毎日担当することになる。寿一は弱った父親の裸を見て複雑な感情を抱く。同じ時期、寿三郎は認知症のテストを受け、自分の気づかぬところで、体だけではなく認知の部分でも衰えていることを知り愕然とする。それを見て、寿一は父親が弱っているということを、はっきりと受けとめる。

 受け止めたあとに、寿一はもう一度父親を風呂に入れる。そのときにはもう、かつての戸惑いはなくなっている。逆に寿三郎は照れやバツの悪さから寿一に悪態をつく。めまぐるしく様々な出来事が起こる中で、その出来事を追うだけでなく、父と息子の微妙な感情の変化が描かれているこのシーンを観ると泣けてくる。泣けてきたのは、第1話の時点で登場人物たちのキャラクターや背景が視聴者に入ってきていたからだ。

 第2話では、能楽の宗家は、裕福に見えてワキ方、狂言方、囃子方、裏方を支えており「真ん中で優雅に舞っている人間が、実は一番貧乏なのだ」というナレーションから始まる。また、寿一もプロレスを辞め、養育費を払うにも金がなく、寿三郎の芸養子である寿限無(桐谷健太)に借りようとしたところで、宗家には金がないという現実を知る。

 一方で、介護ヘルパーのさくらには、後妻業の女である疑惑が浮上。しかし、彼女は観山家の面々に問い詰められると、あるがん患者に介護ヘルパーとして、「仕事」で献身的に介護をした結果、財産の相続をしたことがあると、あっさり告白するのだった。そして、寿三郎に対しても愛情はなく、以前と同様に、介護の必要な寂しい老人として見ているということを告白する。

 今までのドラマであれば、「後妻業の女」であるかもしれないという謎を、もう少しひっぱる可能性もあっただろう。しかし、第2話であっさりと解決してしまうには、理由があるようにも思える。

 第1話では、親子の確執は、あっさりと解決し、父と子の愛情もすべてではないが取り戻され、本音も見え隠れしながら、お互いにコミュニケーションも取れるようになったと見えた。第2話では、さくらの「後妻業の女」疑惑も解決した。こうした問題が早く解決する展開は、介護は、「家族」の「愛」だけでやれるものではなく、さくらのようなその道のプロフェッショナルである他人の力や、お金も重要なものであり、単なる美談では描けないということだろう。

 第3話の予告を観るかぎり、介護するものたち、主に寿一の「日常」、つまり仕事や生きがい、そして残される家族の「関係性」も維持していくべきものに入るのではないかとも思える。

 逆に、単なる「家族」の「愛」を描く物語であれば、第2話で解決した「後妻業」の話も、第1話で見せた父と子との会話も、最終回近くまでひっぱれたはずだ。父親と息子の介護の話を描くには、単純な美談にはできない問題が山積みで、それを各回で、今後もたくさん描いていかないといけない。だからこその、このスピード感なのではないだろうか。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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