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“歌の力”が試された2020年ーー論客4名が語る、コロナ下のアイドルシーンで生まれた大きな変化

リアルサウンド

21/1/4(月) 16:00

 アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。今年のメジャーアイドル楽曲部門は私立恵比寿中学が「ジャンプ」で1位を獲得。エビ中がトップを飾るのは昨年に続き2年連続となる。ほかにも、『アイドル楽曲大賞』常連組であるフィロソフィーのダンスや昨年惜しまれつつも解散したsora tob sakana、昨年からランキング急上昇を見せたCYNHN、2020年社会現象を巻き起こしたNiziUなどがランクインしている。

 リアルサウンドでは今回も『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開催し、ライターとして企画・編集・選盤した書籍『アイドル楽曲ディスクガイド』を著書に持つイベント主宰のピロスエ氏、コメンテーター登壇者からはアイドル専門ライターであり、『VIDEOTHINK』制作・運営に携わる岡島紳士氏、著書に『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』を持つ音楽評論家の宗像明将、(コロナ禍以前は)日本各地を飛び回るDD(誰でも大好き)ヲタの中でも突出した活動が目立っていたガリバー氏が参加。前編では、コロナ禍によって大きく様変わりした2020年のアイドルシーンにおいて、上位にランキングした楽曲の共通項を見つけていった。

 なお、今年から『アイドル楽曲大賞』の投票システムが変更に。昨年までは、1人が持っている5曲の権利を全て同じグループに投票することができたが、今年からは1グループ1曲の縛りとなった。これは、自分の知らなかった楽曲が上位に入ることによって、その楽曲が多くの人に知られるランキングとして機能してほしいという主宰サイドの思いから。結果的に、sora tob sakanaが同じアルバムから7位と9位、フィロソフィーのダンスがバージョン違いの楽曲を4位と19位にランクインさせるなど、よりグループや楽曲そのものの人気度が反映される健全な結果となっている。(渡辺彰浩)※本取材は2020年12月に実施

私立恵比寿中学「ジャンプ」が首位を獲得

私立恵比寿中学 『ジャンプ』MV 

ーー今年のメジャー部門は昨年に引き続き、私立恵比寿中学(略称:エビ中)が1位でした。楽曲の「ジャンプ」は、アルバム『playlist』に収録されている1曲ですが、昨年の取材時点でピロスエさんが「このアルバムの楽曲は来年入ってくる」と話題に挙げていたのを覚えています。

ピロスエ:それが「ジャンプ」じゃなかったっけ? これがアルバムの中で一番いいよね。

岡島紳士(以下、岡島):これは安本(彩花)さんがフィーチャーされている曲で、エビ中のファンが今年の1曲に入れるとしたら絶対にこの曲なんですよ。安本さんが〈今だ〉と叫ぶフレーズがあるんですけど、2019年10月に休業に入ることが発表されて、その歌詞を安本さんが言えないまま、コロナ禍に入っていくんです。2020年の3月に活動を再開し、6月に初めて披露した時のライブがエモーショナルで。さらに10月には生誕ライブが開催されて「ジャンプ」をアカペラで歌ったんです。安本さんの歌唱力は『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の企画(「令和のアイドル界で厳選!スゴいボーカリスト10人」)で取り上げられるくらいに、ボーカル力が上がってると言われています。まさにそれを証明するようなライブだった。けれど、同月の29日には、悪性リンパ腫と診断されて休養することになってしまったんです。エビ中のこの1年は、安本さんのストーリーが大きくて、だからこそファンが投票するとしたらこの曲だったんだろうなと思いますね。

ーー石崎ひゅーいプロデュースということで、楽曲についてはいかかですか?

宗像明将(以下、宗像):この曲の持ってる切迫感とかサビにおける壮大さが、エビ中のボーカリストグループとしての魅力を最大限に引き出しているんですよね。エビ中は様々なオンラインライブに出てましたけど、やっぱりエビ中ってものすごく強いんですね。彼女たちの置かれた状況と重ねてしまうのかもしれないけど、歌の魅力を最大に引き出しているのがこの曲なんだろうなと思います。2位のCYNHNと被ってくるんですけど、ボーカルものとしては異様に高いクオリティなので、曲を聴いてどれだけ胸を動かされるかということで、この楽曲が選ばれるのは妥当な印象を持ちますね。

CYNHN「水生」Music Video

ーー2位は話題にも挙がったCYNHNの「水生」となりました。

宗像:桜坂真愛さんが抜けて、5人になって1発目の曲が「水生」だったんですね。その後に、崎乃奏音さんの一時休養が発表されて4人になるんですけど。メインソングライターの渡辺翔さんが作った訴求力のある楽曲なんですが、ぶっちゃけ2位という順位にはびっくりしました。CYNHNって分かりづらいんですよ。根本的にグループ名が読めない、かつラブソングというものが極端に少ない。内面を描くような曲が多いグループなんですね。そういうグループが2位に来たのには驚いています。クリエイティブの積み重ねとしか言いようがないですよね。ボーカルグループとしての成長の積み重ねがここまで評価を上げてきた。エビ中の「ジャンプ」にもいろんなストーリーがあると思うんですけど、「水生」もまたCYNHNの逆境における1曲であったと。そこに対して、このご時世重なるものがあったのかなとは思いますよね。

ガリバー:この1年を大阪で過ごした身としては、正直CYNHNの勢いはそんなに届いてこなかったという感じでした。CYNHNに限らず、例年以上に遠征が運営側もファン側もしづらい状況があったからだと思いますが。

宗像:CYNHNは、ほぼオンラインライブしかやってないんですよ。最近、有観客ライブもやるようになったんですけど、所属のディアステージが基本的に無観客中心なので。オンラインライブ、パッケージ、サブスクで聴いてもインパクトがあるのが1位、2位にきたという印象があります。

ガリバー:CYNHNは『ギュウ農フェス』のオクタゴンスピーカーを使ってのパフォーマンスが相性抜群で感激したのが記憶としてこびりついてます。

宗像:このコロナ禍で現場で盛り上がるっていうカルチャーが封じられているから、みんな歌が試されるっていうのは否応なしで、オンラインで観た時のパフォーマンスですよね。そこで勝ち上がってきたのがCYNHNであるというのは感じますね。今年一番の成り上がりはCYNHNだと思いました。

ーー乃木坂46の4期生曲「I see…」が3位になりました。

宗像:先に3位、4位に軽く触れておくと、ここがファンク&ソウルゾーンですね。この間も乃木坂46がテレビで歌ってましたけど、カップリングなのに大ヒットするという異様なことが起こるわけですよね。SMAPっぽいって言われた曲ですけど、日本人のファンクソウル系、ディスコ系の曲を聴くとSMAPを思い浮かべるという、そこにがっつりハマった。めちゃくちゃいい曲ですよね。『アイドル楽曲大賞』は、ブラックミュージックの要素があると上位に来ると言ってましたけど、1位、2位にはブラックミュージックの要素がないんですよ。それが3位に来たという。

ガリバー:この楽曲は「SMAP感」で話題になったため、作曲のyouth caseは、SMAPに楽曲提供していた人と誤解されがちなんですけど、実際は嵐を中心に提供している人なんですよ。4期生の賀喜遥香がセンターを務めていて、若さと勢いに乗っけて弾ける曲を出した。乃木坂46の1年間の話で言うと、白石麻衣の卒業がどう考えても一番のビックトピックなのに、卒業シングルの期別カップリングである「I see…」が上がってくるというのは楽曲の評価が象徴的なんだろうなと思います。

宗像:「しあわせの保護色」じゃないっていうね。「I see…」はMVの再生回数が1600万回に到達しました。去年の『TOKYO IDOL FESTIVAL』(以下『TIF』)の段階でも4期生は大人気だった。勢いのある子たちがいい曲を歌うっていう、ある種の無双状態に突入していますよね。

乃木坂46 『I see…』

ーーyouth caseは、次のシングルに収録される4期生曲「Out of the blue」も作曲していますよね。

ガリバー:曲調が近しい事を考えると「I see…」の評判を受けて続投されたんだろうなと思います。ただそういう経緯だと思われるので「I see…」に比べると楽曲としては少しインパクトが弱いんじゃないかなという……。坂道シリーズのオンラインミート&グリートも全グループ軌道に乗ってきたので、櫻坂46と日向坂46でシングルが各グループ2〜3枚出せる体制が復活する可能性を考えると、カップリング曲である「Out of the blue」がそのまま「I see…」の様に残るかは微妙ですね。「I see…」はコロナ禍のタイミングが結果的に功を奏したという稀有な曲なんです。結成10周年を迎える乃木坂に成熟した大人の女性像を重ねるのも良いのですが、同時にみんな明るくハッピーになれる曲が好きなんだなというのがよく分かりました。

フィロソフィーのダンス “ドント・ストップ・ザ・ダンス with DEZOLVE” Recording Behind The Scene

ーーフィロソフィーのダンス(略称:フィロのス)は4位に「ドント・ストップ・ザ・ダンス」、19位にバージョン違いの「ドント・ストップ・ザ・ダンス with DEZOLVE」が入りました。

宗像:去年12月の発表から、コロナ禍の中メジャーデビューしました。一番大きな変化が今まで作詞を行ってきたヤマモトショウ、全編曲を担当してきた宮野弦士の離脱。『アイドル楽曲大賞』の文脈で言うと、セカンドインパクト的な事象が起きました。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」はヒャダインが作詞、作曲に関してはコンペ曲です。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」のMVのコメント欄は大荒れで、かなりのアレルギーみたいなものが出てはいたんですね。ただ、19位の方のDEZOLVEが、フュージョンバンドなんですよ。そっちはコメント欄が大絶賛なんです。そこに関してはフィロのスの既存ファンが高く評価したと。「ドント・ストップ・ザ・ダンス」って賛否両論分かれたんですけど、今までのどのMVよりも再生回数のスピード感が早かったんです。ファンクラブが非常に女性が多いという話も含めて、支持が集まった曲だなという感じがしました。新しいファン層を獲得しにいってそれが成功している曲。作家陣が変わるんだから変化はするし、でも、そのままソウル要素が濃いことに対しての違和感はあった。でも、ここまで評価を得ることができたのはよかったのではないかと。

岡島:ライブもいいグループなので、コロナ禍でまた順位が伸びなかった気もしますよね。

宗像:オンラインライブで歌が強いグループが上位にきているという意味では、万全の構えだったと思います。歌は全く落ちていないので。

NiziUが巻き起こした新しい現象

超ときめき♡宣伝部 / トゥモロー最強説!! -MUSIC VIDEO-

ーー5位は超ときめき♡宣伝部の「トゥモロー最強説!!」ですが、とき宣がこんな上位に来るのは記憶にないです。

ガリバー:初めてですよね。これも、こんな状況だから明るく騒ぎたいというのでこの曲が象徴されていたんだろうなと感じます。ライブ活動が制限されている中で、スタダ(STARDUST planet)のファンが横のつながりで各グループの楽曲にオンラインで触れる機会が増えたことも影響しているのではないでしょうか。昔のももクロ(ももいろクローバーZ)じゃないですけど、そういう弾けたエッセンスが凝縮された曲なのかなと思いますね。これを待ってたぐらいの感じ。

岡島:作詞、作曲、編曲はMUTEKI DEAD SNAKE。アンジュルムの「ドンデンガエシ」(宇宙慧名義)の作曲の人です。

ピロスエ:なるほどね。「ドンデンガエシ」はストレートなロック曲で、“ハロプロらしさ”という点から言えば少し異質なんだけど、特に若いファン層にウケている印象があるので、そういう意味で合点がいきますね。

ガリバー:「ドンデンガエシ」の人って言われると驚きますね。

MELLOW MELLOW「最高傑作」Music Video

ーー6位は『アイドル楽曲大賞』の常連でもある、MELLOW MELLOW「最高傑作」。小西康陽の提供曲です。

ピロスエ:僕とか宗像さんはピチカート・ファイヴをリアルタイムで聴いていた世代だから小西康陽に対してハードルがはてしなく上がってるというか、小西さんならもっとすごい曲ができるだろうっていう過度な期待があるんですよ。「最高傑作」というタイトルで、楽曲が本当に“最高傑作”だったらそれは最高のユーモアですけど、そこまでは行ってないかなと……(笑)。でも、6位だったのでちゃんと評価されてるんだなと思いました。

 21位の「メインストリートは朝7時」も同じシングルに収録なんですよね。こっちのほうが先行配信で、宮野弦士が作曲してるんですけど、間奏でコーネリアスの「THE SUN IS MY ENEMY/太陽は僕の敵」で使われていたホーンのフレーズをそのまま再利用してるんですよ。つまり、Aztecaの「Someday We’ll Get By」を孫引きしてるんですね。イントロのハイハットはフリッパーズギター「恋とマシンガン」っぽくもあるし、渋谷系おじさんにちょっかいかけてる。それと小西曲が同じシングルに収録されているのが、意味わかんなくて面白いですよね。

ガリバー:それ、何人に伝わってるんですか(笑)。

宗像:小西のクセが強すぎて、何が“最高傑作”だって言ってたんですけど、今年の『TIFオンライン』でMELLOW MELLOWのLoft Stageを生で観たんですね。最高だなと思って。現地に行ってたんですよ。大して良くないと思っていた曲を生で観て最高と思える機会って、今年極端になかったじゃないですか。自分の中で生で観て評価変わるって、今年唯一ですよ。小西さんの良さが私の不勉強により当初は分かりませんでしたっていうね。俺たちに足りないのは現場だという話です。

岡島:主催のイベントにMELLOW MELLOWに出てもらったんです。コロナ禍でライブ数を減らしている中で久しぶりに出てもらって。宗像さんがおっしゃるように、生で聴いてもよかったですね。

sora tob sakana/untie(Full)

ーー惜しまれつつも解散したsora tob sakanaが、7位と9位に入っています。

岡島:7位「untie」と9位「信号」は両方ラストアルバム『deep blue』に入ってる楽曲です。風間玲マライカさんが抜けてしまって、音源として残していなかった3人バージョンを歌い直している。10曲目の「ribbon」からラストの「untie」に続いていて、結ばれていたメンバーたちが解けていくという解散の意味が重ねられているんです。最後のアルバムということで今年1票入れるとしたらここに集まりやすかった。とは言え、新曲として入っていた「信号」も捨てがたいので9位に入っているという結果になったのかなと思います。ラストライブでは、持ち曲の50曲を全曲やっていたんですよね。基本的にバンドセットで、4時間を掛けて。楽曲への執念というか、強く熱い思いを感じます。「untie」は3分5秒の曲なんですけど、メンバーの歌声が1分44秒までで、それ以降はずっとインストだけが流れているんですよ。ライブでやること、終わっていくことをイメージして書かれたんだろうなと。輪唱のように歌われていて、ゆっくり解けていくような綺麗な感じで終わっていく楽曲です。

宗像:『deep blue』の中で、複雑さという意味では「信号」がおサカナっぽい感じではあるんだけど、「untie」みたいな曲が入ってきたのは象徴的で、解放されていく3人みたいな歌声ですね。

岡島:『アイドル楽曲大賞』常連だったんですけど、来年からはいないんですよね……。プロデューサーだった照井(順政)さんはアニメ『呪術廻戦』の劇伴をやっていたりして、またアイドルのプロデュースをやってほしいなとは思うんですけどね。

わーすた(WASUTA)「清濁あわせていただくにゃー」(Seidaku awasete itadaku nya)Music Video

ーー8位はわーすたの「清濁あわせていただくにゃー」でした。

岡島:UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんが作っている楽曲。みんなアイドルが猫の格好をするのが好きだなという印象です(笑)。インディーズのランキングも含めて。

ガリバー:わーすたは、この曲に始まったことではないですし、今も当初のコンセプトを継続できている。iDOL Street所属のアイドルが減っているという事だけでなく、 avexとしては会社の行く末も不透明な中で、元気にやってるなと思います。今年、神宿が大きく路線を変えた楽曲を出していたのには衝撃を受けたんですけど、わーすたはあくまで基本路線は踏襲しつつ、それをメンバーの成長に合わせて少し大人っぽくするという、堅実な継続の姿勢がいいなと思いますね。

宗像:わーすたの長所は変わらないところ?

ガリバー:楽曲は、少し大人っぽくはなっているけどこれまでの路線から特別何か奇をてらった事をしているかというとそういうイメージもないですけど、iDOL Streetの中では長くやっているというところに、結局みんなわーすたに戻っていくじゃないですけど、こうやってランクインし続けているんだろうなという気がしますね。

岡島:わーすたは「The World Standard」の略称ですが、今年は海外にあまり行けなかったのかな?

ガリバー:2020年の頭にタイには行っていましたね。

岡島:コンセプト的にも海外どころかライブが難しいなら、もうネットでできることをやるしかないというところで、厳しかったんだろうなという気はしますね。

NiziU 『Make you happy』 M/V

ーー10位には社会現象を巻き起こしたNiziUの「Make you happy」がランクインです。

ピロスエ:MVが1.9億回再生で、K-POP文脈は現代の音楽を語る上で欠かせないところですし、大ヒットしているとか関係なくすごくいい曲だと思うので、10位に入ってきたのは健全だと思います。

ガリバー:IZ*ONEは、K-POPの文脈を活かしながら、NiziU的なポジションを本来狙っていたと思うんですよね。それが、票の操作問題もあったりして、なかなか思うように活動できなかったところで、J.Y. Parkというスタープロデューサーが日本にやってくるという形になった。日本の大御所プロデューサーは、秋元康、つんく♂、小室哲哉のように固定されすぎちゃっていて、もちろん新世代のプロデューサーもたくさんいるんですけど、メディアに大々的に出てくるニュープレイヤーがいない中で、日本の女の子たちを優しく、現役のアーティストとして説得力をもって導いている様が鮮烈に映った。その背景なしにこの曲は語れないですし、あの番組を観ていたらこの曲に思い入れを抱くのは当然の流れです。K-POPのプロデューサーが違和感なく、熱狂を持って歓迎されたというのは新しい現象だったなと思います。

岡島:Perfume、AKB48以降のアイドルシーンの活況は「ライブ」「現場」が根幹となり、発展して行きました。しかし今年はその根幹が封じられてしまった。在宅で楽しめるアイドルが強いとなると、いかに地上波などのメディア展開にお金をかけられるかということになっていくと思うんですよね。そうしたライブアイドルブーム以前の平成的な大資本によるメディア型アイドルの展開に、グローバルに活躍するクリエーターの座組、TikTokなどSNSを駆使したネット戦略、などを更に新しくプラスした形。状況を逆手に取ったわけでもなく、コロナ禍でなくとも成功していたでしょう。それに女の子も可愛く、パフォーマンスもすごいとなると、従来の日本のアイドルファンもみんなハマっても仕方ない(笑)ですし、CDをリリースしていない段階で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の出場を決めた、今年を象徴するグループの一組だなと思います。新人の中ではひとり勝ちとも呼べる状況でした。

ガリバー:誤解されがちなんですけど、NiziUも、オーディション番組のNizi Projectも新しいことをやっていないんですよね。やってることは『ASAYAN』(テレビ東京)とかAKB48グループのオーディションの延長線上でしかなくて、画期的なことがシステムとして発明されたわけではない。女の子たちが憧れる先、評価されたい人が、日本人ではなくK-POPで活躍する人だったというのは面白い、アイドル界に限らず若い人たちにとっての音楽業界全体の本質じゃないかなと思います。

宗像:「Make you happy」って、ポップなものを作ることに対して迷いがないんですよね。日韓のカルチャー的ストーリーに、ポップなものを乗せるのはシンプル故に強度が高い。

外側に波及する回路を持っているかどうか

ーー先ほどから話題に挙がっていますが、夏のアイドルフェスがオンラインで開催されました。2020年のアイドルシーンを語る上で外せないトピックです。

ガリバー:『TIFオンライン』は、オンラインだったからこそ、ももクロもグループとしては第1回ぶりの出演を果たし、乃木坂46も、エビ中も、でんぱ組.incも同時に出れたと思うんです。あれがリアルだったら全組は出れてはいなかったと思うんですよね。出れていたとしても、入場規制等のオペレーションの問題で全員が観れたとは限らない。だからこそ、オンラインの方がより広く楽曲に触れられる、観てもらえる可能性があったりするのかなと思います。一方で、『@JAM ONLINE FESTIVAL 2020』はチケットの売り方が良くなかったですよね。

宗像:ステージ毎にチケットを切っちゃったじゃないですか。そこの問題を乗り越えたのが『TIFオンライン』で、全ステージ共通のチケットを売っていた。あれが正解なんですよね。いろいろ言われていますが、僕は大成功だったと思います。現場に行っても感染症対策を徹底していて、これでクラスターが発生したらどうしようもないってレベルまでやっていたので。『TIFオンライン』は最後の希望みたいなところはありました。結局オフラインでできないのであればオンラインでやっていくしかないと。みんなが腹をくくって、ライブは出来るようになったらやりましょうと。この冬の時期はライブが自由にできることなった時への、下地作りをやっておかないと逆にまずい。カルチャー的に完全に衰退を起こします。持続可能なフレームを作れるところが一番強いという話になります。

ーーこのような厳しい情勢ですが、今年も2021年のメジャーアイドルに期待することを聞かせてください。

岡島:去年はニューカマーについていくつかグループを挙げられたんですけど、今年はどうなんでしょう。

宗像:メジャー勢がそれほど台頭してないんですよ。

岡島:去年は今年メジャーデビューするということで鶯籠、CY8ERを挙げたんですが。CY8ERは解散してしまうということで。

ガリバー:今年メジャーデビューした感じがないですよね。鶯籠はコロナ禍の状況でも果敢にアグレッシヴにライブ活動を、ライブハウス等の場所に囚われることなく展開していたのが印象的なので、その活動が2021年に繋がって欲しいです。

宗像:パラダイムシフトが起きづらい年でしたよね。いい楽曲を作って、パフォーマンスがいいところ、オンライン映えするところ、YouTubeが強いところが上位にくる。要は外側に波及する回路を持っているかどうかで変わってしまう。

ガリバー:BiSHを代表するWACKのファンには近年『アイドル楽曲大賞』に参加してもらえていないので、ランキングにはなかなか反映されていませんけど、確実に新興勢力としてはマスメディアの中でポジションを確立したんじゃないかなと思います。インディーズから這い上がって、今もメジャーで確固たる地位を築いているのが素晴らしいですし、前向きな光ですよね。

岡島:単純にコロナ禍で、アイドルになりたいと思う女の子が格段に減りますよね。来年は新しいグループもなかなか出てきづらいんだろうなと思います。人材が別のところに流れていくんだろうなと。ライブアイドルブームって、言ってしまえばなろうと思えばなれたのが大きかった。それがなくなっていくのはやばいなと。後々に影響が出てくる。

宗像:今、一番可愛い子を抱えているのはYouTuberの事務所っていう問題があるんですよね。アイドルになっている子がオーディションを受けていたわけじゃないという変化が起きているので。

岡島:明るい話題はないですかね……。

ピロスエ:明るい話題ありますよ。宮本佳林ちゃんがJuice=Juiceを卒業して、来年は『アイドル楽曲大賞』の方にノミネートされることになるんですよね。

宗像:ピロスエさん。来年の1位は決まってますよ。僕のインタビューにインスピレーションを受けて竹内まりやさんが書いた、広末涼子さんの「キミの笑顔」です。僕がHTML書き換えても1位に入れるんで。

ピロスエ:じゃあ僕が先に書き換えて佳林ちゃん1位にするんで! 負けないぞ!

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