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松下洸平は“水”のような俳優だ 大ブレイクの前にあった舞台での積み重ね

リアルサウンド

21/1/28(木) 6:00

 “バタフライエフェクト”という現象をご存知だろうか。

 ある気象学者の講演タイトル「ブラジルでの蝶のはばたきがテキサスに竜巻を引き起こすか」から生まれた造語で、些細なことが発端となり、別の場所に多大な影響を及ぼす現象をいう。

 ドラマ『知ってるワイフ』(フジテレビ系)で、妻との生活に限界を感じた元春(大倉忠義)は、謎の男(生瀬勝久)からもらったコインを使い10年前にタイムスリップ。妻・澪(広瀬アリス)との出会いをスルーして、大学時代に自分に想いを寄せていた大企業グループ会長の娘・沙也佳(瀧本美織)と結婚する。

 この元春の行動で未来が変わった人物がいる。銀行の同僚・津山千晴(松下洸平)だ。変わる前の世界では双子の父親だった津山だが、10年前にタイムスリップした元春が、先にタクシーを停めた津山を押しのけ、自分が車に乗ってしまったため、津山は空港に向かえず恋人と破局。現在の彼は双子の父親どころか独身のまま。元春の小さな行動が引き起こした“バタフライエフェクト”で、人生が変わってしまった1人である。

 元春と沙也佳の結婚で独身になった澪は、元春や津山のいる銀行に配属され、3人は同僚となる。明るく前向きに仕事をこなす澪に惹かれる津山。ツーショットの激辛タイ料理ランチではなかなか良い雰囲気にも見えた津山と澪だが、今後、進展はあるのだろうか。

 さて、ここからは津山を演じる松下洸平にフォーカスしたい。

 2019年下半期の朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)八郎役で大ブレイクを果たした松下だが、俳優としてのキャリアは約12年。絵を描きながら歌うペインティング・シンガーソングライターとしてライブ活動をしていた彼が、本格的に芝居の世界に足を踏み入れたのは2009年。AAAの西島隆弘らと出演したミュージカル『グローリー・デイズ』がきっかけだった。

 2012年ごろからは映像の現場にも進出。が、ドラマ畑ですぐに花開いたというよりは、さまざまな作品に出演し、地道に一歩ずつ歩んでいる俳優というのが当時の印象かもしれない。

 かわって舞台では、登場人物が2人のミュージカル『スリル・ミー』や、手塚治虫原作のストレートプレイ『アドルフに告ぐ』、キース・へリングの生涯を描いた『ラディアント・ベイビー』等の作品でメキメキと頭角を現していく。

 松下にとってひとつの転機となった舞台が、沖縄での実話を基に井上ひさしが原案を起こし、蓬莱竜太が劇作を担った『木の上の軍隊』新兵役。舞台上に建て込まれた巨大なガジュマルの木の上で、上官(山西惇)と新兵ふたりの対話のみで展開する濃密なせりふ劇だ。

 自分が育った島に本土から軍隊がやってきて、まったく違う価値観を持つ上官と木の上に隠れてともに戦うという新兵役を、松下は泥臭く、そして純朴に演じ、高い評価を得た。

 この時、彼に単独インタビューをさせてもらったのだが、まず感じたのが非常に自然体であること。初演で藤原竜也が演じた新兵役に対し、気負うことなく淡々ともいえる口調で、誠実に想いを語る姿に打たれた。稽古前には作品の舞台となった沖縄・伊江島を訪れ、島の人の話を聞き、ガジュマルの木を見上げたそうである。また、とにかく家に無駄なものを置くのが嫌で趣味は断捨離。膨大なせりふを覚える際は、ひたすら歩くと聞いたことも印象に残る。

 松下洸平は“水”のような俳優だと思う。

 強い味やクセはないが、どんな場所にも絶対に必要な存在。さまざまな作品に自然に溶け込み、必ず丁寧な芝居を見せる。水がすべての食事に合い、どんな料理にも必要なように。

 また、相手役との関係が深く緻密に描かれている時ほどその魅力を倍増させるプレイヤーだとも感じる。たとえば彼の代表作となった『スカーレット』八郎役や、コロナ禍の恋愛を軽妙に描いた『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)の檸檬こと青林風一。『スカーレット』では、妻の喜美子(戸田恵梨香)が陶芸家としての才能を開花させたことに対し、夫としての喜びと、同業者としての嫉妬という相反する感情を痛いほど丁寧に紡ぎ、『#リモラブ』では、オンラインで始まった恋愛を不器用に進める30代ビジネスマンをコミカルかつ繊細に演じていた。

 現在放送中の『知ってるワイフ』で松下が担う津山は主人公の同僚という役どころ。元春が気兼ねなく家庭の愚痴をこぼせる存在だ。オリジナルの韓国版が1話72分程度なのに対し、日本版は1話46分ということもあり、津山のシーンが少ないのは寂しいところだが、八郎や青林、『MIU404』(TBS系)の“逃げる男”加々見崇とは一味違ったニュートラルな人物像を、松下がどう膨らませていくのかも今後の注目ポイント。

 そして、先日は『ぐるナイ』(日本テレビ系)「ゴチになります」に新メンバーとしてサプライズ登場。これまで、ドラマ等のプロモーション以外でバラエティ番組に出演する機会がほぼなかった彼が、手練れの中でどんな存在感を放つのか。

 “水”の松下洸平がドラマとバラエティの両面でどう跳ねるか。2021年も新たな“波”を生み出しそうだ。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
木曜劇場『知ってるワイフ』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送 
出演:大倉忠義、広瀬アリス、松下洸平、川栄李奈、森田甘路、末澤誠也(Aぇ!group/ジャニーズJr.)、佐野ひなこ、安藤ニコ、マギー、猫背椿、おかやまはじめ、瀧本美織、生瀬勝久、片平なぎさ
脚本:橋部敦子
編成企画:狩野雄太
プロデュース:貸川聡子
演出:土方政人、山内大典、木村真人
音楽:河野伸
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ
(c)フジテレビ

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