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『約束のネバーランド』は理不尽な世界を変えようとしたーークライマックスに込められたテーマを読む

リアルサウンド

20/7/27(月) 19:13

 白井カイウ(原作)と出水ぽすか(作画)が手掛ける漫画『約束のネバーランド』(以下、『約ネバ』)はGF(グレイス=フィールド)ハウスで暮らすエマたち孤児が、ある日、世界の秘密を知ってしまったことから始まるダークファンタジー。

関連:【画像】『約束のネバーランド』1巻

 『週刊少年ジャンプ』(集英社)での連載は先月終了したが、アニメの第2期、浜辺美波主演の実写映画、Amazonプライム・ビデオでの海外ドラマといったメディア展開が今後も目白押しで、その勢いはまだまだ続きそうだ。単行本も今月、第19巻が発売され、物語はいよいよクライマックスを向かえる。

 ※以下ネタバレあり。

 前巻で、鬼達の頂点に立つ五摂家と女王レグラヴァリマを倒したノーマン率いるラムダ724の精鋭部隊とエマたち。しかしノーマンたちが王都で戦っている隙をついて、ピーター・ラートリー率いる鬼側の人間が、鬼たちの王兵2000を率いてノーマンたちのアジトを襲う。アジトにいた子どもたちは捕まり、かつてエマたちが暮らした食用児の農園・GFハウスへと移送される。

 子どもたちを救うため、エマたちはGFハウスに潜入。エマたちは巧みな作戦で敵を追い詰め、ついにラートリーを捕獲する。そこにかつて、エマたちを鬼に出荷していたママ(飼育監)のイザベラがシスター(補佐役)たちを引き連れて現れる。エマたちが脱走したことで失脚したイザベラだったが、ピーターに引き立てられ、農園を束ねるグランマ(飼育監長)に昇格していた。

 銃を持ったイザベラとシスターに取り囲まれ絶体絶命のエマたち。しかしイザベラたちは、ピーターへと銃口を向ける……。

 世界が鬼に支配されており、自分たちが鬼の食料になるために育てられた食用児だと知ったエマたちがGFハウスから脱出する物語としてはじまった『約ネバ』は、第5巻で脱出に成功。それ以降は、未知の世界を旅しながら、鬼たちと戦う長編ファンタジーへと、物語のスケールを拡大していった。

 やがてエマは、ラムダ724の仲間たちと共に鬼たちと戦うノーマンと再会。ノーマンたちは、王都に儀祭のために集結した五摂家と鬼たちの女王に、五摂家から追放されたギーラン卿を襲わせることで、鬼たちを皆殺しにしようとする。

 ノーマンのやり方は間違っていると思ったエマは、人間と鬼の間で取り交わされた「約束」を結び直し、鬼が人を食べなくてもよくなる「邪血」の力を持つ鬼・ムジカとソンジュに共闘を求めることで、鬼と人間の全面戦争を回避しようとする。

 『約ネバ』は、人間の側も鬼の側も一枚岩ではないことが次第に明らかになっていき、スケールの大きなファンタジー漫画に変わっていく。

 話が進むごとに洗練化されていく出水ぽすかの作画と共に、この拡大路線を個人的には楽しんでいたのだが、1~5巻で展開した脱獄編の圧倒的な完成度に魅了された読者ほど、「面白いけど、求めているのはこういう方向じゃない」と、歯がゆく思っていたのではないかと思う。おそらく物語のテーマは脱獄編で出尽くしており、その後の展開は、スケールを拡大した変奏だったのだろう。

 その意味で、細胞が暴走して肥大化した鬼の女王という、これ以上にない大ボスを倒した後で、最後に舞台がGFハウスに戻り「子どもを搾取する大人との戦い」という人間同士の物語に回帰したのは「これしかない」という落とし所で、うまく着地させたなぁと、感心した。そして、ここで再登場し、最重要人物となるのが、エマたちのママであるイザベラだというのが、心憎い演出である。

 優しいママとして振る舞いながら、エマたち孤児を鬼の食料として出荷するために育てていたイザベラは、子どもにとって悪夢のような存在だった。優しく振る舞いながら、エマたちを冷たく監視するイザベラは、ある意味では鬼以上に恐ろしい敵だが、そんなイザベラも、幼い頃はエマと同じ出荷児だった。

 出荷児たちは成長すると鬼の食料になるが、成績優秀な一部の女性は、出荷を免れ、子どもを産んだ後で、出荷児を管理する飼育監になることができる。逆に言うと、飼育監になることでしか生き延びることはできないのが、この世界の残酷さで、当初イザベラは、エマを飼育監候補として推薦しようとしていた。その意味でイザベラは、大人になったエマが辿っていたかもしれない未来の可能性とでも言う存在だ。そんなイザベラが理不尽な世界を変えようとするエマに影響されて、反旗を翻すのだから、盛り上がらないわけがない。

 グランマとなったイザベラは、シスターたちの前で「私は農園を裏切るわ」と宣言し、自分と同じように罪悪感を抱えながら生きてきたシスターたちに「私はもう誰にも囚われない」「あなた達は?」「どうする?」と問いかける。そしてシスターたちはイザベラと共に反旗を翻す。おそらく作者はここにたどり着きたかったのだろう。

 「ありがとうお母さん(ママ)」とエマが言って、イザベラと共戦するシーンは、作品のテーマが集約された名場面である。

(文=成馬零一)

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