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いま、最高の一本に出会える

山下達郎の冒険作『BIG WAVE』を改めて聴く 趣味性に満ちながら大ヒットした理由とは

リアルサウンド

14/8/3(日) 8:00

 ビッグ・アーティストになると、ある程度、何をやっても許されるってこと、ありますよね。「今、売れているんだから、あんなことやこんなことやってしまっても構わないだろ?」なんていいつつ、本道から大きく逸れたトライをしてしまったりして。時に、大失敗して再起できなくなることもあれば、その冒険を糧にその後のキャリアをさらに輝かせるのかは、そのアーティスト次第。いろんなケースがあると思うのですが、長く人気を保っているミュージシャンは、ちょっとトンデモなことも、その人のカラーにしてしまっているような気がします。日本一の音楽職人こと、山下達郎も例外ではありません。

 今回紹介する『BIG WAVE』。リリースされたのは、ちょうど30年前の1984年です。当時はまさに人気急上昇中、前年には自身も役員となったレーベル(ムーン・レコーズ)に移籍して初めてのアルバム『MELODIES』を発表して大ヒットを記録しました。CMソングとなった「高気圧ガール」や、毎年のようにチャートに上ってくる季節モノの定番「クリスマス・イブ」を収録した本作は、それまでのキャリアの総決算とでもいうべき内容でした。しかし、続いて発表したこの『BIG WAVE』は、なんとも位置付けが難しい“妙ちきりん”な作品なのです。

 まず、この『BIG WAVE』は、同名タイトル映画のサントラなんですよね。サーフィンを題材にしたドキュメンタリー映画の。でも、残念ながら観たことがありません。熱心なタツロー・ファンでも未見の方、多いんじゃないでしょうか。とりたててこの映画についての詳しい話はあまり聞いたことがないし、10年ほど前にDVDも発売されていたようなのですが、現在は廃盤。なので、サントラ盤だけ一人歩きしているような印象があります。

 さらに奇妙なのは、アルバム全体が英語詞だということ。もちろん、海外で撮影されたサーフィン映画のサントラなので、洋楽風に作ることが必要だったのでしょうけれど、大ヒット・アルバムの次に英語詞だけのアルバムを出すとはかなり冒険なわけです。普通に考えれば、レコード会社としてはそんなリスクを負いたがらないはずですが、当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだっただけに許されたのでしょう。

 そして、レコードでいうB面の大半が、彼の敬愛するビーチ・ボーイズのカヴァーソングで占められているというのも、今考えるとあり得ませんでした。84年当時は、ビーチ・ボーイズにとってはいわゆる“落ち目”の時代ですから、マーケティング的に考えるとあまり得策ではないわけです。

 しかし、そんな一見マイナスに感じられるポイントを見事にクリアして、『BIG WAVE』は彼のディスコグラフィのなかで燦然と輝いているのです。なんといっても、ここまで夏のイメージを全開にしたアルバムは他にありません。アルバムを通して聴いた後の爽快感は、1975年にシュガー・ベイブの一員としてデビューして以来、生み出したどんな名盤と比べても突出しています。シングル・カットされた冒頭の「THE THEME FROM BIG WAVE」を筆頭に、ミディアム・バラードの「ONLY WITH YOU」、ファンキーかつ流麗なメロディの「MAGIC WAYS」などに込められたサマー・フィーリングは、まさに「夏だ、海だ、タツローだ!」(当時のキャッチフレーズ)そのまんま。

 そして、全編英語詞でまとめることによって、あえて“洋楽的”な印象を作り上げ、お茶の間ポップス歌手とは違う山下達郎ブランドの構築に役立っているのです。ビーチ・ボーイズのカヴァーにしても、オリジナルに敬意を払い忠実でありながらも彼独自の解釈が加えられているので、ルーツを感じさせると同時に、オールディーズに新しい感覚を与えられる稀有なセンスをアピール。結果的に、一見道を外しているように思わせながら、「山下達郎は、何やっても山下達郎なのだ」という意思表示をしているのです。そのことは、サントリーのCMソングとして依頼された「I LOVE YOU」のエピソードに象徴されます。“I LOVE YOU”というフレーズのみで作るようにとの注文に悩んだようですが、とても制約があったとは思えないオリジナリティとクオリティを感じさせてくれるのです。

 本作は彼の趣味性に満ちたアルバムであることには違いありません。しかし、裏を返せば、個性を押し出しながらも、しっかりと結果を出した自信作でもあるわけです。実際、本作は当時オリコンチャートで2位を記録していますし、なにより今なおまったく色褪せない作品であることが本作の成功を物語っています。折しも、30周年のアニバーサリー・エディションも発売され、再評価されている『BIG WAVE』。気軽に夏のBGMとして楽しみながらも、山下達郎の底力をひしひしと感じていただきたいものです。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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