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オーディションプロジェクト「Promimi」が広げる“才能見つける楽しさ” nana music黒川恭氏、日本コロムビア石田浩太氏に聞く

リアルサウンド

20/4/16(木) 15:00

 音楽や歌を気軽に投稿し、世界と繋がれることで人気のアプリ「nana」を運営するnana musicが新たに立ち上げたタレントスカウトサービス「cue」に、アーティストとレコード会社をより効率的に繋ぐエージェント機能が追加された。そのエージェント機能を使い、才能を見つけて企業におすすめするキュレーターを発掘するオーディションプロジェクト「Promimi」が始動。この「Promimi」とはどんなプロジェクトなのか、株式会社nana music 「cue」事業責任者の黒川恭氏と、日本コロムビア株式会社 コロムビアジャパン/チーフディレクターの石田浩太氏に、概要と求められる人材について聞いた。(榑林史章)

・“プレイリスター”の存在感が高まっている

ーー「Promimi」というプロジェクトは、どんなものなのか教えてください。

黒川:まず弊社が提供する「cue」というサービスがあって、それは自由に歌や音楽を登録したタレントユーザーと、音楽レーベルを始めとした歌声を探す人(スカウトユーザー)を繋ぐサービスです。そこに新たに追加される「エージェント」という機能を使って、日本コロムビアさんと共同で開催するものです。

 「cue」にはタレントユーザー側とスカウトユーザー側それぞれの入り口があって、タレントユーザーは自分の音楽や歌などの音源を登録することができ、スカウト側はそれを聴いて希望に合うタレントユーザーが見つかればその方に直接連絡を取ることができます。ですがタレントユーザーの登録はすでに4000人を超えており、スカウト側の企業さんがそれをすべてチェックするには限界があると感じています。そんなときにスカウト側の「こういうタレントを希望している」という情報を元に、代わりに探してトスアップしてくれる存在がいればサービスがより円滑になるんじゃないかと考え、その役割を持たせたのがエージェントという機能です。このエージェントに登録するユーザーが増えていけば、いずれそのなかから面白い人物も出てくると思ったので、じゃあそんなキュレーターのような人を発掘しようと。

ーー応募の条件はあるんでしょうか?

黒川:基本的には「cue」のスカウトユーザーに登録している方であれば、誰でもエントリーが可能です。履歴書の提出や面接もありませんので、一般的なオーディションよりも格段にハードルが低いです。

石田:ただ弊社からは、「こういうタレントを見つけてほしい」というテーマを出すので、それに沿った方を見つけてもらうのが条件です。最初のお題は「13歳~19歳男性ボーカリスト」で、そのお題に合った人を見つけて我々にトスアップしていただいて。トスアップが上手だったり“プロの耳(=Promimi)”を持っていると思ったら、認定マークを差し上げるという形になります。

黒川:コロムビアさんからの認定マークが、発掘したキュレーターへの特典ということになります。それに自分がトスアップしたタレントに「いいね」が付くとそれが自分にも通知される仕組みなので、そういった部分も楽しんでいただきたいと思っています。

ーー具体的には、キュレーターにはどういう人を求めていますか?

黒川:あくまでもタレントとスカウトを繋ぐサービスの一環なので、スカウトが求めるタレントをトスアップしてくれれば、どんな人でも良いと思っていて(笑)。例えば趣味として新しいものを探すことを日常的にやっている方、普段からYouTubeでアマチュアの方の歌を聴いている方などの一般の方が、趣味の延長としてやっていただけたら嬉しいです。でも自分が見つけたタレントがメジャーデビューする可能性もあるわけですから、そういった部分を、キュレーターの方には楽しんでいただこうと思っています。

石田:良い意味で無責任でも活躍できる土壌が、Webにはあると思うんです。自分の好きな曲でプレイリストを組んで公開しても、誰から何を言われる筋合いはないわけで(笑)。でも僕らはどうしてもビジネス視点で見ますよね。ビジネスはわからないけどその界隈だけでめちゃめちゃ盛り上がっていることや、僕らが「こんな子がいるんだ!」と驚くような人を見つけてきてくれたら、すごく嬉しいです。その上で、そのキュレーター自身が発信力を持っていくようになったら面白いかなって思って。

ーーキュレーターは、その後ある種のインフルエンサー的な感じに育てていくと。

石田:いずれそういう感じになっていったら面白いと思っています。例えば昔のカリスマラジオDJのような存在が、Web上で生まれるんじゃないかと。もしもそのキュレーター自身にタレント性があれば、YouTuberになっても面白い。

ーーそもそもどういうところから、このオーディションプロジェクトの発想は生まれたんでしょうか。

石田:どんどんCDが売れなくなって、すでにサブスクで音楽を聴くことが一般的になっていますよね。そういうなかで、Spotifyなどでオリジナリティのあるプレイリストを公開する“プレイリスター”と呼ばれる人の存在感が高まっていることをひしひしと感じていて。ネットでディグってまだ世に知られていない人を引っ張ってこられる能力を持つ人の活躍できる場がまだまだ増えていくと思っているんです。そういう人が仲間になってくれたら心強い。そんなときにnana musicさんから「cue」というサービスをご紹介していただくなかで、「自分から音楽や歌をアップしていないけど紹介することを楽しむようなユーザーが出てくるんです」という話をうかがって。じゃあそういう人のなかから面白い人を発掘したらワクワクするんじゃないかと(笑)。

ーープレイリスターと呼ばれる人は、今どのくらい出てきているんでしょうか。

石田:プレイリスターの存在自体は、数年前から出てきてはいますが、海外ではすでに有名になっている方が出てきているので、日本でもそれほど遠くないうちに人気プレイリスターが出てくると思っています。ティックトッカーとかインスタグラマーと呼ばれる人も、もともとは趣味でやっていたわけですから、キュレーターにもいろいろな可能性があると思っていますね。

黒川:「nana」のサービスには自分や他の人の投稿をリポストする機能があって、登録ユーザーのなかには自分では歌をアップしていないけどおすすめすることを楽しんでいるユーザーが大勢います。「nana」では他のユーザーにおすすめするだけで止まっていますけど、「cue」では企業の方におすすめすることができる。「nana」でおすすめを専門にやっていたユーザーにも、ぜひ参加してほしいですね。

・披露する機会のないスキルを発信できる

ーー単に新しい音楽や才能ある人を見つけて、それを一般の人におすすめするということであれば、音楽媒体の編集者や音楽ライターがやっていることでもあるわけですけど。

黒川:そういうプロの方はそれをビジネスにしていますよね。僕らが求めるキュレーターは、ビジネスでやっている人ではないというところが大きいです。だからキュレーターには、自分が本当に良いと思ったタレントを気楽にトスアップすることを、一つのエンタメとして楽しんでほしい。“人の才能を見つけるという新しい遊び”を、弊社としては提供したいと思っています。もちろんプロでやっていらっしゃる方に参加していただくことは全然かまいません。

ーー素人の目線が求められていると。

石田:10代系のイベントに行くと、すごく面白い方がたくさんいるので、入り口として大事です。ただそれを人に見せるものとして作ることに関してはやはり音を作るプロや演出をするプロなどが入ったら、もっとエンターテインメントとして成立するものになるんじゃないかと思って。「Promimi」はそこを上手く融合したプロジェクトなんじゃないかと思います。

黒川:これはタレントユーザー視点の話になりますが……YouTubeやライブ配信サービスでは、プロの手を借りることなく人気が出たりそれが仕事になっている人も多いですけど、それができるのはやっぱり限られた人なんです。そもそもYouTubeやライブ配信で歌をやること自体が、普通の人にとってはとてもハードルが高くて勇気がいることで。YouTubeだと映像を撮って編集する必要があって。もちろん撮ったものをそのままアップすることも可能ですけど、YouTuberさんのクオリティが非常に高いので、そのなかに入っていくには画質が良くするためとかレコーディングするための機材を揃える必要があって。でも「cue」は動画を撮る必要はないし、「nana」と連携することでスマホひとつあればレコーディングした歌を張り付けることができます。機材を揃えたりレコーディングしたりしなくても、スマホひとつでデビューに向けたスタートラインに立てます。そうやって間口が広がることによって、YouTubeやライブ配信にハードルを感じている人がどんどん入ってきて、そこで新しいマッチングが創出できたらと思っていますね。

ーーキュレーターが間に入って、実際にタレントユーザーと企業のマッチングに成功した後は、そこに「cue」はどのように関わっていくんですか?

黒川:「cue」はあくまでもタレントユーザーとスカウトユーザーをマッチングするためのプラットフォーム提供なので、それ以上はタッチしません。スカウトユーザーとタレントユーザーに直接やりとりをしていただき、その内容にはまったく関わらないんです。もしそのマッチングでデビューが決まっても、弊社が版権を持つとかそういうこともありません。でも「cue」のサービスで企業さんとマッチしてデビューする人が出れば、サービスとしては大きな意義があると思うので、ぜひ出てきてほしいです。宣伝にもなりますし(笑)

ーーYouTube発やニコニコ動画発のように、「cue発のメジャーデビュー」が当たり前になるようにと。

黒川:クラスメートというユニットなど、「nana」発でメジャーデビューされた方はすでにいますから、可能性は大いにあると思います。

ーー認定マークを与えるかどうかの審査はお二人だけで?

石田:黒川さんと僕と、あとコロムビアのスタッフ数名でしたいです。昨年弊社で開催したオーディション「Project110」での経験なんですが、審査員が多すぎるとバランスを取ってしまう傾向が出てしまうんです。

黒川:丸くなっちゃうんですよね。

石田:オーディション方式の善し悪しをすごく問われる結果になりました。そういう反省点もあって、審査員は少数精鋭が良いんじゃないかと。だから、本当に変わった子に参加してほしい。一つのジャンルだけめちゃめちゃ詳しくて、それ以外は一切ダメみたいな(笑)。

黒川:R&Bだけなら1万曲聴いて誰よりも耳が肥えているという子とか。もしそんな子がいたらそれはすごいスキルなんだけど、そのスキルを披露する機会って世の中にはないわけです。あってもプレイリストを作って公開するくらいしかない。そういう子が素人のなかから探し出してきたR&Bシンガーがいたら、絶対に聴いてみたいじゃないですか。しかも本人はそれをレコード会社に推薦できるわけだからすごく画期的なこと。面白くてチャレンジングな新しい取り組みだと思っています。

石田:実際のところ、どうなるのかやってみないと分からないのですが、温度感を感じたいですね。商業音楽という観点からは、いろんなところに目を向けるべきだと思っているので、とても意義があると思っています。

・クリエイティビティが欲しい

ーーネットの口コミからヒットが生まれるというものとも、ちょっと違うんですよね。

黒川:ネットの口コミはみんなの力でヒットを生むものですけど、それよりも選ぶことにセンスを持った人から、ヒットが生まれるというイメージが近いんじゃないかと。100万人が良いと言ってるから良いのではなく、たったひとりのセンスのある人が良いと言ってるから良いみたいな。

ーーセンスがいかに尖ってるか。

石田:最初は「え?」って思われても、それがだんだん良いよねってなっていくかもしれないし。ただこういうタイプのオーディションだとボカロ曲が多くなりがちなので、ひとつのジャンルに限らず、いろんなジャンルからスペシャリストが出てきてほしいですね。

ーーキュレーターが企業にトスアップする際に、推薦コメントも付けられるんでしょうか。

黒川:コメントを付ける機能はありません。サービスを始めるにあたって、参加企業さんからアンケートを取ったのですが、「いらない」という声が多かったんです。企業さんから「つけて欲しい」と需要が高まれば、仕様を変更することもあるとは思います。

ーー企業側は、まっさらな状態で音楽を聴きたい?

黒川:変にバイアスをかけたくないのもあるでしょうし、「推薦コメントを書く時間を使ってもっと探してほしい」という声もあって。とは言え数を打ちゃ当たるでは困るので、打席数よりも打率に重きが置ける仕組みを模索中です。今のところはトスアップする本数に制限を設けてはいませんが、それもオーディションがスタートしてから状況によって変わる可能性もあります。

ーー「cue」は新たな才能発掘の場であり、キュレーターは自分の個性を発揮する新しい場になる。こういったSNSから生まれる音楽シーンの今後については、どう思いますか?

黒川:自分がやる気になれば動画をあげてそれが仕事になるという今の時代は、インターネットがもたらしてくれた世界ですごくすてきなことだと感じています。その一方で本気にならなければ打席に立つことが難しいのも事実で、それが「cue」というサービスを立ち上げた原点です。きっとその両輪が回ることで、本当に幅広い人たちに機会を与えることができて、きっとそれは音楽シーンにとっても有益なことじゃないかって思っています。

 「cue」には企業でも登録できて、エリア検索もできるので、例えば地元のカラオケ大会の主催者が出場者を探すこともできるわけです。タレントユーザーのなかには、プロになりたいというよりは自分の歌の価値を知りたいという人もいるだろうし、上はメジャーデビューから例えばカラオケ大会まで、色んなゴールがあれば良いと思います。

ーー「cue」がモデルケースとなって、似たようなサービスが増えるかもしれない。

黒川:そもそも弊社には「nana」があり、それと連携することで可能になっているサービスなので、こういうサービスを作りやすい土壌があったと思います。でも、同種のサービスが集まって界隈を盛り上げることができたらそれは面白いと思いますね。

石田:ネットにはチャンスがあって夢がある。でも便利な一方、検索すればすぐ答えが出てしまうので、想像したり考えたりすることが少なくなっている。オーディションを開催する側の経験から、最近はクリエイティビティに課題のある方が増えていることを感じていて。例えばギターはめちゃめちゃ上手いけどアドリブが下手とか。バンドもテクニックがあるしコード進行も凝っているけど、その先のクリエイティビティが欲しいと感じています。音楽業界に限らずクリエイティブの業種には想像力が必要で、育成アーティストにも、そのことはいつも話しています。ただみんな演奏はめちゃめちゃ上手いですけどね、わざわざ楽器店に教則本を買いに行かなくても、YouTubeで見てすぐ練習できるわけですから。「cue」にタレントユーザーとして登録する方は、その部分を追求して欲しいですね。

黒川:きっと今回募集するキュレーターのなかでも、そういう目に見えないクリエイティビティを見抜けるかどうかは差がつくポイントかもしれないですね。

石田:今回のオーディションでトスアップしてもらった曲は、僕は全部聴きますので、タレントユーザーさんにもキュレーターさんにも頑張ってほしいです。(文・取材=榑林史章)

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