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みうらじゅんの映画チラシ放談

『博士と狂人』 『とんかつDJアゲ太郎』

月2回連載

第47回

── 今回の1本目は、『博士と狂人』です。

みうら どんな話かは全然分かってないんですけど、チラシの表の写真のショーン・ペンはヒゲが黒いんですけどね、裏の写真ではかなり白くなってます。これ、すなわちヒゲの変化で時代の流れを感じさせるストーリーになってるってことじゃないですかね?

── 確かにムチャクチャ伸びてますし、色も相当白くなってますね。

みうら 昔の映画は、時間の経過を表すためによくタバコの吸い殻を使ってましたけど、この映画ではさらに進んで、ヒゲの長さと色で時の長さを感じさせるんでしょうね。おそらく裏面のショーン・ペンができ上がった状態だと思います。

ということは、チラシの表の状態はまだ出会った頃、まだ初々しかった時期ですよね。このチラシの並びを見る限り、狂人はショーン・ペンの方ですからね。ということは、メル・ギブソンが博士役ということです。どっちもすごいヒゲですけど(笑)。このヒゲ、もしかすると狂人度を測っている可能性もあるんじゃないかなと思いますね。表のショーン・ペンはまだ節度があったんじゃないですかね。

メル・ギブソンの背景も注目ですね。黒板の上に「卵と大根買ってこい」にみたいなメモ用紙がやたらと貼ってあるじゃないですか。ひょっとすると、博士と狂人は同一人物で、“ジキルとハイド”的なことなんじゃないですか? で、狂人になるときは博士のヒゲが白く変わる。違いますかね?

── つまりメル・ギブソンがショーン・ペンに変身するってことですか?

みうら ですね。それにチラシの裏の写真を見ると、ショーン・ペンがメル・ギブソンに似てきてるというか、寄せてきてますよね。ヒゲも寄せてるし髪型もオールバックになってます。服もなんとなく寄せてる。分裂してしまったふたりが、最後には合体して何かすごいモノになるんじゃないですかね?

── メル・ギブソンとショーン・ペンが合体したらハリウッドは大騒ぎになりそうですね。

みうら 最新のCGを使って、ふたりの顔が合体したような、モーフィングしたみたいな状態で人間を襲うんじゃないですか?

── それはもうモンスター映画ですね(笑)。

みうら 可能性はありますね。あと博士と狂人がベンチに仲良く座ってたりしてるじゃないですか。でも、チラシを見る限り第三者と一緒にふたりが写ってるショットがないんですよ。なぜかって、やっぱり同一人物からですよ! 正気と狂気、光と闇、って書いてあるのも、古今東西、ひとつの存在だって話に決まってます。“メル・ギブソン✕ショーン・ペン”っていう表記も、普通に共演してるだけなら“+”って書けばいいのに、“✕”になっているのはふたりが合体することを示唆してるとしか思えませんね。

── “隠された真実の物語”っていう文句も、同一人物であることを示してるとしか思えなくなってきました(笑)。

みうら チラシには小さい文字でいろいろと書いてありますけど、おそらく合体するというオチがバレないためのミスリードですね。ちなみに“ジキルとハイド”って時代設定も近いんじゃないですか?

── 確かにどっちも19世紀のようですね。

みうら でしょ。実話と書いてありますけど、この映画で描かれているお話が後に“ジキルとハイド”として出版されると、おそらくエンドクレジットの前に説明が出ると思いますね。

── 『ジキル博士とハイド氏』のエピソード0ってことですね?

みうら ですね。そこをあえて“ジキルとハイド”のリメイクと謳っていないところが新鮮なんでしょうね。これだけヒントが散りばめられているってことは、気づく人は気づいてくれっていうメッセージかもしれませんね。

ただ、“オックスフォード大辞典はどのようにして誕生したか”って書いてあるのだけが、どう絡んでくるのかさっぱり分かりません(笑)。まあそれもきっと些細なことですよ。まず間違いないと思います。僕はおしりたんていじゃなく、チラシ探偵ですからね(笑)。

── 続いては、『とんかつDJアゲ太郎』ですね。

みうら 僕は昔からマンガ原作が実写となったとき、どうなってるのかに興味あるんですよ。古くは『巨人の星』を舞台でやったことがあるらしくてね。僕、まだ小学生だったから観られなかったんですが、星飛雄馬役を志垣太郎さんがやられてたみたいで、もう観たくてしょうがなかったですよ。あんなマンガを一体どう実写でやるのか。しかも舞台でね(笑)。

『忍者ハットリくん』なんかも白黒の時代に実写ドラマになっていたんですがね、ケムマキくんの顔が怖すぎてトラウマになったくらい(笑)。そんなイメージのズレが実写にはあって、楽しみにしてるんです。

── これはやっぱりDJ同士がバトルするお話なんですか?

みうら 僕に聞かれてもねぇ(笑)。ま、少年ジャンプ系ですし戦うんでしょうね。僕も1冊読んだだけで、あんまり分かってないんですが……。このコロナ禍でね、最近、『約束のネバーランド』っていうジャンプのマンガを読んだんですけど、これは12月に実写版が公開になるんですね。楽しみにしてます。ママっていう怖い役を誰がやるのかなと思ってたら、北川景子さんみたいで。実写には自分が思っていたイメージと違えば違うほど面白いみたいなところがありますからね。

僕のマンガ『アイデン&ティティ』も映画化されましたけど、どんな人が演じるんだろうとワクワクしたもんです。

── そうなんですか。

みうら 僕は最近は、映画秘宝のちょろっとしたコーナーにしかマンガは描いてませんけど、一応デビューはマンガ家としてですからね。マンガ家って、そもそもがコマを割ったり監督みたいなものだしね。映画1本を撮るみたいな感じで描いてるわけです。それが映画化されて、他人の俯瞰した目が入ったときに、自分が思っていたのとは違う作品になることもある。でも、違えば違うほど発見があるんです。

── みうらさんの場合は、田口トモロヲさんとか、安齋肇さんとか、プライベートでもよくご存知の方が監督でしたよね?

みうら やはり親友がやることにはなぁーんの心配もありませんしね。最近の日本映画はマンガ原作ばかりだと言われていますが、マンガを描いている側としては、実写化は誰よりもワクワクします。『とんかつDJアゲ太郎』も、原作者が一番楽しみにしてるんじゃないですかね! きっとアゲアゲな作品になってるに違いありませんから。

取材・文:村山章
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(c)イーピャオ・小山ゆうじろう/集英社・映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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