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Ken Yokoyamaは、“続けていく、繋げていく”を伝えていく Matchanラストのツアー新木場公演

リアルサウンド

18/12/13(木) 18:00

 オープニングゲストで登場したDizzy Sunfistが、竹を割ったようなメロディックパンクをブッ放していた。痛快の一言だ。彼女たちにとっては初となる新木場STUDIO COASTのメインステージ。ピンクの髪を振り回して暴れるあやぺた(Vo&Gt)の一挙手一投足から喜びが爆発している。Hi-STANDARDやKen Bandからの影響を公言して憚らない彼女たちだが、バンド名の“Dizzy”は、以前Matchanが在籍していたMr.ORANGEの曲名から取ったものだというエピソードが良かった。ビッグネームではなかったが、90年代末期〜00年代初頭のメロディックパンクシーンを彩ったバンドのひとつ。そんな先人たちの音楽と背中にかじりついてきた20代が、ここからの未来を担っていく。怖いもの、遮るものが何もない、ひたむきな笑顔とメロディに圧倒されるばかりだった。

 対照的にKen Bandはなかなか複雑。セルフコンピレーション『Songs Of The Living Dead』を携えたツアーとはいえ、いま名前の出たMatchanは本日を最後にバンドを去っていく。来年からは別のドラマーを迎える予定だから、さっさと次の未来を考えるべきだろうか。それでもこの4人で重ねてきた時間が一番長かった。感慨を語りだせばキリがない。ただし、かといって、感謝と感動の卒業式みたいになるのはまっぴら御免! なのである。

 結果、普段以上に感情が乱れていた。「辞めていくヤツと最後のツアーなんて惨めなもんだ」「難しいツアーだった」と横山はステージで正直に吐露。行き場のない苛立ちはフロアにも向かう。シンガロングが弱すぎるとか、アンコールの声がおざなりだとか、直截的すぎるMCに空気が固まる瞬間がいくつか。またおふざけにも歯止めがかからず、シモネタは子連れ客への拷問レベルだ(客から「Minamiちゃん止めてあげてー!」と絶叫が響いた)。そもそも『Songs Of The Living Dead』の楽曲群には明確なコンセプトがないから、どういう感情、どういう主張をメインにすべきなのか判断が難しいのかもしれない。完璧なショウとは言い難い。でも、だからこそ人間臭かった。

 以前の武道館レポートで書いたことだ。身近な人間関係が歌になっていた初期と、社会的なメッセージを掲げだした中期で分かれるように、Ken Yokoyamaというバンドの表現はこれまでも大胆に変わってきた。歌詞に限らず、楽曲の幅もメロディックからロカビリーへと拡張。さらにいえばメンバー交代もあり、ステージにいるMinami、Jun Gray、Matchanはそれぞれ二代目のメンバーにあたる。すべてが初志貫徹ではまったくないのだ。なのにKen Yokoyamaのイメージにブレはなく、ファンもまたあっさり離れていったりしない。なぜか。自分はどんな道をたどって今ここにいるのか、なぜ今こうするのか。その伝え方が非常に上手いからだ。そして今の彼は、また新しい変化の過程にいるように見えた。

 12月6日、ツアーファイナルとなった新木場STUDIO COAST公演は、新曲「I Fell For You, Fuck You」からのスタート。オリジナルもカバーも混在したパンクロックが続く中、意外なくらい良いアクセントになっていたのがメロウな「Sayonara Hotel」だった。また、フロアを最初の大団円に導いたのは中盤の折返し地点で披露された「Pressure Drop」。なんとも不思議な光景。Ken Bandのライブでスカの曲がハイライトになり、笑顔のポゴダンスが自然発生するなんて5年前に誰が想像できただろう。 ギターのMinamiが元KEMURIという肩書は、最初、偶然の引っ掛かりにすぎなかった。

 だがその後、横山の興味が古いロックンロールに向かったことから、The ClashやThe Specialsが鳴らしたスカパンクの古典が取り上げられた。次に東京スカパラダイスオーケストラと絡むことで本格的なスカビートも手に入れた。ついでにいえばThe Clashのカバー第二弾「Brand New Cadillac」はチバユウスケと絡むことで音源化されたが、この日のライブでは横山歌唱バージョンがやたらハードボイルドに決まっていた。増えつつある新基軸の数々。ここに、変化や偶然を必然にしていこうとする意思のようなものを感じてしまう。安定の展開、お馴染みのパターンは、むしろ足枷だという心意気を。

 次の展開が面白かった。「Pressure Drop」の一体感を味わったあと、横山はおもむろに日本国旗を手にする。なるほど次は「We Are Fuckin’ One」と「This Is Your Land」、ユナイトのメッセージだなと予測するが、始まったのは新曲「Support Your Local」、そしてSham69のカバー「If The Kids Are United」だった。地元愛や郷土愛。連帯と共闘。テーマは繋がっているし矛盾はない。ブレたとは思わないが、あえて変えにきたな、と感じる。これは大切な想いをルーティンにしないための新提案。震災直後のメッセージは、最新曲に移ることで鮮度を保ち、今のKen自身のリアリティを更新していく。ちょっと冷静に見れば、日の丸を持ちながら英国のOiパンクをカバーし、英語の覚えが悪いと怒っている光景はかなりシュールだ。ただし本人に気にする様子はない。全部は俺の中で繋がっていると自信をみなぎらせ、目の前のファンを納得させながら、彼は状況に合わせて自分の「今」をチューニングしていく。伝え方が上手いとは、まさにこのあたりのことだ。

 一般論として書くが、誰だって変化は怖い。日々の生活は安定していたほうがいいのだし、信頼できる関係性はできれば長く続けたい。でも同時に誰もが変わっていく。考え方や感覚は年齢と共に変化し、興味や気分なら呆れるほどに移ろうものだ。昔は気が合ったけど最近は関係にストレスを感じるようになったとか、さっきまでコレが食べたかったけど今はアレが食べたい気分だとか、そこに逐一説明を求められても困る。それがごく普通の人間なのだと思う。

 横山健は、そういった心の動きに毎回向き合い、必ずなんらかの落とし前をつけようとする人、なのだと思う。偶発的変化に戸惑いはしても、結果的にそれを必ず血肉にする。また個人的な変化には何としてでも周囲を巻き込むエネルギーを使う(たとえばMinami加入後に「Going South」が生まれたのは前者、突然ロックンロール路線に走ったのは後者のパターン)。そんな彼の思考を受け止めて、その都度足並みを揃え、たとえ曲調が変わろうがメンバーが変わろうが「続けていく、繋げていく」を伝えていく。それがKen Bandの役割であり面白さなのだと改めて理解した。これはMatchanというピースを失う直前だから見えてきたこと。いつになく荒ぶったまま、感動なんてワードを意地でも避けてやろうとする佇まい。それがとても貴重で面白かった。

 「Ricky Punks III」、「Walk」、「Let The Beat Carry On」と名曲の連打で締めた本編。すでに2時間以上が経過しており、一度目のアンコール後、ヘトヘトになったファンの半分以上はフロアを後にしていた。そのタイミングで起きたサプライズ。一曲歌うと宣言したMatchanが、最初で最後のボーカルを務めた「上を向いて歩こう」のカバー。ドラムを叩きながら歌う、坂本九の「Sucky Yacky」である。ジャイアンのごとき大声で歌いきり、スッキリした笑顔で頭を深く下げたMatchanに拍手を。これが、Ken Band流の落とし前のつけ方だ。

(写真=Ken Yokoyama:Wataru Umeda/Dizzy Sunfist:半田安政(Showcase))

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

Ken Yokoyama オフィシャルサイト
Dizzy Sunfist オフィシャルサイト

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