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『女の園の星』和山やまが語る、独自の作風が生まれるまで 「ギャグ漫画はローテンションでもいいと気づいた」

リアルサウンド

20/9/10(木) 16:00

 デビュー作『夢中さ、きみに。』(KADOKAWA)が「このマンガがすごい!2020」オンナ編で第2位に輝いた気鋭の漫画家・和山やま。端正な絵柄と静かなテンション、キャラクターのミクロな動作や心の機微にフォーカスすることで生まれる独自のギャグが、多くの漫画ファンを文字通り夢中にさせている。

 2020年2月からはFEEL YOUNGで、初連載作品となる『女の園の星』がスタート。女子校に勤める男性教師・星先生の日常を描いた今作も、すでに多くの注目を集めている。『女の園の星』の世界観がいかに生まれたかを中心に、その創作について話を伺った。(満島エリオ)

恋愛ものを描くのに照れがあった

――和山さんが漫画を描き始めたきっかけをお聞かせください。

和山:高校三年生の頃にBL漫画を読んでから、遊びでBL漫画もどきを描くようになりました。そこから進路に迷った時に、ほかにやりたい仕事もなかったので、どうせなら漫画家を目指してみようかなと思い、大学もそういう方向に進みました。

――では、最初に描かれていたのはBL作品だったのでしょうか?

和山:最初はBLのつもりで描いていたんですが、なぜかギャグ漫画になっていったので、早い段階でギャグに転換しました。BLに限らず恋愛ものを描くのに照れがあったので、照れ隠しでギャグ寄りに見せたというのがあります。

――前作の『夢中さ、きみに。』では男子高校生たちを、『女の園の星』では女子校を舞台にしていますが、これらを描くにあたってテーマはあったのでしょうか?

和山:テーマというのをそもそも持ったことがなくて。今描きたいものを自由に描かせてもらっているのですが、常に人間のユーモアを描きたいとは思っています。舞台がいつも学校なのは、それが描きやすいからですね。子供と大人の成長過程で、一番、個々の差が出る時期という感じがして。子供もいれば大人になっている子もいるのが描きやすいです。

柔らかいタッチで描ける女の子の方が描きやすい

――『女の園の星』の「女子校の男の先生」という設定はどのように決まったのでしょう?

和山:以前から教師ものを書いてみたいと神成さん(担当編集)に伝えていて、神成さんが女子校出身と知り、「それいいな」と。『夢中さ~』では男の子が多かったんですが、男の子を描くのは大変だったので、次は女子にフォーカスしたいなと思い、女子校を舞台にしました。

――男の子を描くのが大変だったというのは少し意外です。

和山:性格とか考えは別として、脚や手の柔らかい曲線が好きなので、ビジュアル的に髪や目などを柔らかいタッチで描ける女の子の方が描きやすいです。女の子を描くとワクワクします。でも結果的に職員室でのシーンが多くなったので、星先生と小林先生でいっぱいの画面になってますね。

――描いていくうちに先生のネタの方が増えていったということでしょうか?

和山:最初は、毎話ごとに女の子1人ずつにスポットが当たるようなものをイメージしてたんですが、描いてみたら意外と先生たちとのやりとりで終わってしまって。ただ、結果的に、今の女子側と男性教師側の密度がちょうどいいバランスになっているなと思います。女子校漫画を期待して読むと期待はずれだという方もいると思うんですけど、自分的には楽しく描かせてもらってます。

星先生も小林先生もあまり生徒に干渉しない

――女子校に関するアイデアは神成さんの話を元にしているのでしょうか?

和山:最初は女子校あるあるにしようと思って話を聞いていたのですが、意外と女子高ってテンプレ的なものでもないなと感じました。よく女子校は「女捨ててる」とか「男勝りの子が多い」などと言われていると思うのですが、話を聞いてみると共学とそんなに変わりなく、人によるのかなと。なのでタイトルには「女の園」と入っていますが、あまり女子校をアピールするつもりはなくて、大げさにしないようにしています。

――「女子校の男の先生」についてはいかがですか?

和山:肩身が狭そうだなと思います。扱いが難しそうですよね。もし私が男で、女子ばっかりのところに放り込まれたらすごく敏感になると思うので、星先生も小林先生もあまり生徒に干渉しないキャラクターにするように気をつけています。

――先生のキャラクターが、熱血というわけではなく、ちょっとドライにも見えるけど生徒と仲が悪いわけでもない、という絶妙な距離感で描かれているように感じました。

和山:生徒たちが先生で遊んだり、おもちゃにしたりすることはあっても、先生として尊敬している部分は忘れないようにしていますね。女生徒たちも、誰かが特別光っていたり、派手な子や地味な子がいたりなど差があまりないようにしています。たまに変な行動をする子は出てきますが、それが良いものとも悪いものとも描かないように気をつけています。

 先生側も生徒に対しての差がないように意識しています。先生の立場から見て、生徒たちが一人一人同じ濃さで見えていたらいいなと。先生側が特別気にかけてる子がいる、ということがないようにしてますね。

中村先生には結構、隠れファンがいる

――キャラクター作りの際は、一人一人に感情移入していくのか、それとも自分とは切り離された存在として描いているのでしょうか?

和山:(感情移入するのではなく)私が理解できないものを描いていたほうが楽しいですね。自分がでしゃばって自分の趣味嗜好を入れる部分ではないかなと。

――読んでいると「こういう人いる!」という小ネタが多く、キャラクターの解像度が高いなと感じます。こういうネタは人間観察などを元に作るのでしょうか?

和山:そうですね。あまりじろじろ見るのは失礼ですが、手の癖や目線などを見るのは好きです。

――例えば、星先生にはモデルがいるのでしょうか?

和山:モデルはいないです。自分の好きなものをそのまま描きました。私はメガネが好きなので、まずメガネが絶対と、黒髪。ビジュアル面では、中村倫也さんとか吉沢亮さんをイメージしています。あんなに綺麗には描けていないですが……。

――作品を描いてみて、ご自身に似ていると感じるキャラクターはいますか?

和山:似ているキャラはいないんですけど、星先生の考え方は私寄りかなと思います。人のやることに心の中で1人で突っ込んで1人で終わらせる、みたいなところは似ているかもしれません。

――同僚の小林先生は星先生とはまったく違うタイプですが、小林先生はどのように作られたのでしょうか?

和山:最初は星先生にとって嫌な、対照的なキャラを描こうと思っていました。悪い人ではないけどパリピで、ビーチにいるような男。無駄に明るくて、人のプライベートにズカズカ入り込んでくるような。でも描いていくうちに、意外と二人仲良くやってるなと。

――二人で飲みに行っているシーンなどを見ると、わかりあっているというか、お互いの変なところを許容しあってるように感じました。

和山:星先生も気を使わない相手なのかなと思います。ほかの先生には気を使って笑顔だったりすると思うんですけど、小林先生には気を使わないからこそ、失礼な態度も取れるし、仏頂面で好き勝手言えるのかなと。

――大学生の頃だったら星先生は小林先生と仲良くなれなかった?

和山:一番遠いところにいたでしょうね(笑)。

――まだ出番は多くないですが、中村先生の存在も気になります。

和山:中村先生には結構、隠れファンがいるので、今後の出番を考えているところです。

野中英次先生の漫画の影響が大きい

――和山さんの作品は、独特のテンポや、キャラクターの細かい部分にフォーカスしていくところが特徴かと思います。この作風はどのように生まれたのでしょうか?

和山:最初にギャグ漫画を描いていた時は、今と違ってテンションの高いギャグを描いていたんです。テンションが高くてバカっぽいキャラがいないとギャグ漫画にならないと思っていたので。

 でもある日、当時の担当編集さんに渡された、野中英次先生の漫画『魁!!クロマティ高校』(集英社)を読んですごく元気をもらって。絵はシリアスでもいける絵柄なのに、それでギャグをやっているのが衝撃で。ギャグ漫画ってローテンションでもいいんだと気づきました。私のなかの理想のギャグがそこに全部詰まっていて、私もこれ描きたい!と思って自分の中で昇華していきました。ギャグの形としては野中英次先生の漫画の影響が大きいですね。

――絵柄の話が出ましたが、和山さんは最初から今のような絵柄だったのでしょうか?

和山:最初は全然違っていて、少女漫画風の絵を描いていました。線も細くてマーガレット寄りだったのですが、古屋兎丸先生の漫画を読んでから、過去の絵は全て捨てる勢いで真似して描きました。

――いわゆる「流行りの絵」とは違うタイプなので、少女漫画の絵柄から切り替えていくのは勇気ある決断のようにも感じるのですが、あくまでも自分の描きたいものを描かれていったのでしょうか。

和山:そうですね、それが一番楽しいです。

ブロマンスと呼ばれるものを描いていきたい

――今後どのような表現をしていきたいなどの展望はありますか?

和山:舞台が異世界であろうとどこであろうと、男2人の関係性というか、いわゆるブロマンスと呼ばれるものを描いていきたいと思っています。そこを好きと言ってくださる方もすごく多いですし。あとは、ホラー漫画にしろ恋愛ものを描くにしろ、ユーモアは忘れないようにしようと思っています。常に読んでいて肩の力が抜けるようなものを描きたいですね。

――連載を始めたことで、読者の方からのリアクションも増えていると思いますが、自分のやりたいことと、読者が求めるものとのバランスはどのように取っているのでしょうか?

和山:それが好き、と言われたら書いちゃいますね。「こうしたほうがいい」というのをそのまま受け入れるわけではなくて、私が描いているものに対して「この関係がいい」と言っていただけたら、それをもっと強化していこうと。まず自分のやりたいことが基本にあって、それを描いていくというのが大きいです。

■書籍情報
『女の園の星(1)』
和山やま 著
発売中
価格:本体価格680円+税
出版社:祥伝社
特設サイト:https://www.shodensha.co.jp/onnanosononohoshi/
(C)和山やま/祥伝社フィールコミックス

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