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『カムカムエヴリバディ』で“朝ドラ史上最高齢ヒロイン”に 深津絵里の“母親像”への期待

リアルサウンド

21/1/23(土) 8:00

 2021年度後期放送のNHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』は「NHKのラジオ英語講座」を題材に、祖母、母、娘の3世代のヒロインをそれぞれ上白石萌音、深津絵里、川栄李奈の3人が演じる。3人の登場人物を3人の女優が別のヒロインとして演じるのは朝ドラ史上初とのこと。

 ストーリーは、昭和、平成、令和という100年にわたる3つの時代を祖母、母、娘がバトンをつないでいくというもの。和菓子店で生まれ育ち、戦争の試練を味わう祖母の安子(上白石萌音)、生き別れた母親を憎みながらも、ジャズで道を切り開く母のるい(深津絵里)、時代劇の世界に憧れる娘のひなた(川栄李奈)の3人の人生に、「NHKのラジオ英語講座」の歴史が併走する。

  かつてはフレッシュな10代後半から20代前半の若手女優をオーディションでヒロインに選ぶ傾向が強かった朝ドラだが、近年は実績が重視されているようで、『カーネーション』は29歳だった尾野真千子、『まんぷく』には32歳の安藤サクラ、『スカーレット』には30歳の戸田恵梨香が選ばれている。『なつぞら』の広瀬すず、『おちょやん』の杉咲花、『おかえりモネ』の清原果耶らも年齢は若いが、それぞれ十分なキャリアを積んだ後の起用だった。

 その意味では、今回の上白石萌音、深津絵里、川栄李奈というキャスティングは、近年の朝ドラの実績重視というトレンドにぴったりあてはまっている。3人に共通するイメージは、透明感、安心感、芯の強さなどだろうか。もちろん、そのようなイメージは彼女たちのたしかな演技力に裏打ちされたものだ。“朝の顔”としてふさわしい3人と言えるだろう。

 上白石萌音と川栄李奈は3000人以上のオーディションから選ばれたが、唯一直接オファーされたのが、意外なことに今回が朝ドラ初出演で初主演となる深津絵里である。現在48歳の深津だが、上白石、川栄と並んでもまったく遜色のない透明感とデビューした頃から変わらぬフォルムをキープし続けているのにあらためて驚かされる。CMなどではよく見かけるのでまったくそんな気がしないが、連続ドラマへの出演は木村拓哉が史上最年首相を演じた『CHANGE』(フジテレビ系)以来13年ぶりというのだからこれもまた驚きだ。

 なお、深津は主人公の晩年を別の女優が演じるパターン(『おしん』の乙羽信子、『すずらん』の倍賞千恵子、『カーネーション』の夏木マリ)を除けば、47歳だった『芋たこなんきん』の藤山直美を抜いて朝ドラ史上最高齢ヒロインとなる。なお、娘役と一緒に登場するダブルヒロインの『京、ふたり』の山本陽子も同じ48歳(同じくダブルヒロインの『おんなは度胸』の泉ピン子は45歳、『青春家族』のいしだあゆみは41歳)。余談だが、最年少は16歳だった『てるてる家族』の石原さとみだった。

 制作統括の堀之内礼二郎氏は、るい役のキャスティングにあたり、「強さと弱さを抱えた女性を魅力的に演じられる役者さん」をチームで考え抜いた末、「さまざまな作品で新しい女性の価値観や生き方をみせてくれた深津さん」にたどりついたと振り返っている。

 そもそも深津はワンレングスが隆盛を極めていたバブルの時代にショートカットをトレードマークにしてデビュー時から、周囲の若手女優とはひと味もふた味も違う雰囲気を醸し出していた。水原里絵名義のデビュー映画『1999年の夏休み』はショートカットを活かした少年役だったし、ドラマデビュー作の『予備校ブギ』(TBS系)では予備校教師の田中美佐子やコンサバティブな女子大生の渡辺満里奈とは対象的なフリーター役だった(ドラマが放送された90年当時、フリーターは時代の先端を走る存在として注目されていた)。初主演映画『(ハル)』はパソコン通信にのめりこむ若者たちを描いたラブストーリーである。

 絶大な人気を誇った『踊る大捜査線』シリーズ(フジテレビ系)では、織田裕二演じる青島俊作のパートナー・恩田すみれを演じて人気女優の座を確たるものとした。真面目で正義感に溢れ、男社会にも臆さず立ち向かう自立した女性でありつつ、かつてストーカーに襲われて心と身体に深い傷を負った過去があるすみれは、まさしく「強さと弱さを抱えた女性」だった。『きらきらひかる』(フジテレビ系)では真摯に仕事に取り組む若き女性監察医を演じてヒットに導いた。本木雅弘主演のドラマ『西遊記』(フジテレビ系)では三蔵法師を演じたが、夏目雅子以外に女性の三蔵法師がぴたりとハマる女優は彼女ぐらいだろう。

 最近作である今年1月6日に放送されたばかりのスペシャルドラマ『最後のオンナ』(テレビ東京系)では、藤山直美、岸部一徳という超ベテランを相手に一歩も引かずにやり合い、あの香川照之の夫を尻に敷く「クソ!」が口ぐせの気の強い妻を演じてみせた。深津絵里もたくましくなったものだ……。

 ところで、深津は長いキャリアの中でこれまで「母親役」をほとんど演じたことがない。映画『博士の愛した公式』のシングルマザーの家政婦役と映画『サバイバルファミリー』の専業主婦役の2度だけである。たしかにCMで演じる夫婦役でも子どもがいる設定には見えなかったりするが、『カムカムエヴリバディ』ではガッツリと母親を演じることになる。どのような母親像を見せてくれるのか楽しみだ。

 透明感、芯の強さ、変わらぬフォルム、新しい女性の生き方を演じるエッジーな部分、強さと弱さの共存、多くの人に愛される大衆性。これらをすべて併せ持つのが深津絵里という女優なのだろう。母親への憎しみを抱えつつ、ジャズというカルチャーに身を投じ、娘とも向き合っていく『カムカムエヴリバディ』のるいという役に実によく似合っている。はたして、どんな朝の顔になってくれるだろうか。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
NHK総合にて、2021年秋放送
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史ほか
写真提供=NHK

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