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佐々木蔵之介、ムロツヨシ、山内圭哉、荒川良々……軽妙さとユーモアでドラマ支える小劇場系俳優

リアルサウンド

18/12/20(木) 6:00

 ドラマの味を決めるのは、いいバイプレイヤーがいるか否か。主演俳優・主演女優といった一級品の素材の味を、監督や脚本家などの料理人が上手に引き出し、バイプレイヤーという名の至妙なスパイスがぐっと引き締める。そうやって、名作ドラマという極上のひと皿が生まれてきた。

 『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)の追い風を受け、今、そんな個性豊かなバイプレイヤーたちに視聴者の注目が集まっている。中でも異彩を放つのが、小劇場系俳優の活躍だ。今期で言えば、

・劇団innerchild主宰の小手伸也(フジテレビ系『SUITS/スーツ』/蟹江 貢 役)

・笑殺軍団リリパットアーミー出身の山内圭哉(日本テレビ系『獣になれない私たち』/九十九剣児 役)

・大人計画所属の荒川良々(テレビ朝日系『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』/馬場雄一 役)

・コントユニット親族代表所属の野間口徹(日本テレビ系『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』/細面隆一 役)

などが代表格。名前を挙げただけでも、字面から個性がはみ出してきそうなクセモノたちが勢揃いしている。

 なぜこうした小劇場系俳優が連ドラの世界で重宝されるのか。ひとつは「クセ」の強さだろう。いわゆる小市民的な役どころや、落伍者的な役どころを、美男美女が演じても今ひとつ説得力に欠ける。見た目にインパクトがあり、キレのいい演技力を持つ小劇場俳優が、時に大胆に、時に繊細に、非王道的な役どころを演じ上げることで、強烈なインパクトが生まれるのだ。こうした「クセ」のある役どころがドラマを盛り上げてくれるのは、『古畑任三郎』(フジテレビ系)の西村雅彦や八嶋智人、『ショムニ』(フジテレビ系)の高橋克実や伊藤俊人など、数々の名作ドラマが証明している。

 また、「軽妙さ」も小劇場系俳優の魅力のひとつ。演劇になじみのない方からすると、舞台と言えば、いかめしい顔をしてシェイクスピアを朗々と読み上げるイメージがあるかもしれない。が、いわゆる小劇場演劇と呼ばれる演劇はそうした古典演劇とはまた別物だ。たとえば荒川良々の所属する大人計画は、主宰の松尾スズキが放つ、ファンキーでブラックな笑いが特徴。現実から飛躍した過激な作風で、観客を非日常の世界へと連れ出してくれる。

 映画館ほど観劇環境がよろしくはない小劇場で、2時間なり3時間のあいだ、観客を引き込むには、ある程度ユーモアやコメディセンスが不可欠。特にナマモノの舞台では、客席の反応を見ながら柔軟に芝居を変えたりネタを入れたりする軽妙さと空気を読む力がないと、なかなか観客を味方にはできない。いわゆる小劇場系俳優が画面に出てきた瞬間に、何か面白いことをしてくれそうという期待感をにじませるのも、数多の舞台で培った百戦錬磨のサービス精神ゆえだろう。先日放送された『田中圭24時間テレビ』(AbemaTV)で、劇団扉座所属の六角精児が撮影でいきなり「面白いこと言って」とムチャブリされた過去をこぼしていたが、ディレクターがそう言ったのもさもありなんという話。彼らの持つアドリブ力を含めた「軽妙さ」がオファーの切れない理由だ。

■わかりやすい華とは別の、幹の太さこそが小劇場俳優の魅力

 今や連ドラ界を席巻する小劇場系俳優だが、彼らの活躍の場はもはや助演だけではない。『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』(フジテレビ系)の佐々木蔵之介や、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)のムロツヨシもルーツを辿れば小劇場出身。佐々木蔵之介は、90年代に一世を風靡した惑星ピスタチオの人気俳優。小学生の番長やドーベルマンといった役をそれはもう痛快に演じていた。劇団解散後は映像の世界に進出し、『オードリー』(NHK)を皮切りに一気に全国区へと駆け上がったが、今なお年1本は舞台に出るなど活動のベースを演劇に置いている。

 佐々木蔵之介もムロツヨシも、女性に人気が出るのも頷けるルックスだが、いわゆる映像俳優のように眉目秀麗というわけではない。そんな彼らがどうして中山美穂や黒木瞳、戸田恵梨香といった美人女優を相手に堂々とラブストーリーを演じられるかと言ったら、やはりそれは確かな経験に裏打ちされた演技力、そして人間味にある気がする。

 『黄昏流星群』の佐々木蔵之介を見ても、台詞の行間や皺の一本一本に中年男性の悲哀や滑稽さがにじみ出ている。ドラマ自体はいかにも昼ドラ的な、リアルとは少し乖離した風合いなのだが、その中で大真面目に演じている佐々木蔵之介には、きちんと組織の谷間で揺れながら行き場を失った中年銀行員の人生が透けて見える。

 ムロツヨシも同様だ。記憶を失う妻との純愛を多くの視聴者が応援したのは、そこについ共感せずにはいられない素朴な温度感があったから。主役一筋でキャリアを積んできた俳優には出せない“私たちに近い人”という親しみやすさが、主演俳優としての魅力となっている。

 どうして彼らの演技に人間味があるのか。舞台に上がっている時間は一寸の隙もなくその人物として生きなければ観客に綻びが見えてしまうという演劇ならではの難しさが、彼らの人物造形力に磨きをかけているところもあるだろう。あるいは、今日に至るまでの挫折や苦労といった部分が味になっている部分もあるかもしれない。いずれにしても、わかりやすい華とは別の、時間をかけて丹念に水をやり肥料を与えなければ育たない幹の太さが、小劇場系俳優の武器となっている。次クールも、そんな小劇場系俳優の活躍に注目しながら、新たな名作との出会いを楽しみたい。(文=横川良明)

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