Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

立川直樹のエンタテインメント探偵

2019年を振り返る。レベルが高く魅力的なパフォーマンスにたくさん出会えた1年だった!

隔週水曜

第40回

19/12/28(土)

【映画】
『アリー/ スター誕生』(1/21公開)
『ダンボ』(3/29公開)
『アクアマン』(2/8公開) 『女王陛下のお気に入り』(2/15公開)
『ROMA/ローマ』(3/9公開)
『アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ』(2018/11/23〜12/28、12/29~2019/1/18)

【ステージ】
演劇実験室◎万有引力『幻想寓意劇「チェンチー族」』(4/5~14)
演劇実験室◎万有引力『奴婢訓』(2/5~14)
勅使川原三郎ダンス公演『シナモン』(5/2~6)
アップデイトダンスNo.62『青い記録』(5/24~6/1)
アップデイトダンスNo.64『幻想交響曲』(7/13~21)
勅使川原三郎 KARAS『「忘れっぽい天使」ポール・クレーの手』(12/12~15)
『ヤン・リーピンの覇王別姫~十面埋伏~』(2/21~24)
『ポリティカル・マザー ザ・コレオグラファーズ・カット』(4/6~11)
『赤いランタン ~紅夢~』(5/10)
『サタンジャワ』サイレント映画+立体音響コンサート/響きあうアジア2019(7/2)
『ル・グラン・ガラ2019』(7/23~25)
国立劇場 11月舞踊公演『京舞』 令和元年度(第74回)文化庁芸術祭協賛(11/29~30)

【アート】
『ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ』DIC川村記念美術館(3/23~6/16)
『山沢栄子 私の現代』東京都写真美術館(11/12~2020/1/26)

【音楽】
松任谷由実『Time machine tour Traveling through 45years』
『近藤房之助LIVE 2019 ~Anytime Anyplace~』高円寺JIROKICHI(10/9)

ローリング・ストーンズの稀代の名曲『タイム・ウェイツ・フォー・ノー・ワン』のタイトルじゃないが、本当に“時は誰も待ってはくれない”し、“時は矢のごとく過ぎ去っていく”。今年最後の通算40回目のエッセイを、「2019年の振り返り」でとオファーがあったので、担当のK嬢が作ってくれた執筆メモを見ると心からそう思う。

1月9日の初回分で書いていたのはレディー・ガガとブラッドリー・クーパー共演の『アリー/ スター誕生』。この映画は素晴しく良く出来ていて、音楽も申し分なく、たくさんの人にすすめたが、日本ではレコードの売り上げやら何やらで社会現象にまでなってしまった『ボヘミアン・ラプソディ』のあおりをくって興行的にはイマイチの結果に終わってしまったのである。『アリー/ スター誕生』同様、興行的にはうまくいかなかった『ダンボ』も良く出来たファンタジーだったので何故だったのか。もう1本『アクアマン』もそう。でもこの映画については、どういう映画かがわかるいい邦題がついていればよかったのにと、アメリカ本国の意向が強いメジャー映画の日本公開についての問題点を考えさせられてしまう。

映画については、作品の傾向がどんどん二極分化していて、ただただ派手に作られた、いわゆるハリウッドものと『女王陛下のお気に入り』や『ROMA/ローマ』のように映画の本来的な魅力をたっぷりと味あわせてくれる作品やドキュメンタリー系とに分かれ、そこに『アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ』のような、もう日本では観られないかも知れないと思っていた芸術映画の特集上映も盛んになり、この傾向は強まっていくだろう。それは演劇や音楽ライヴ、展覧会などの分野についても言えることかも知れない。

勅使川原三郎 KARAS『「忘れっぽい天使」ポール・クレーの手』チラシ

J・A・シーザー率いる万有引力や勅使川原三郎率いるKARASの充実かつ精力的な作品の発表などにそれは顕著だ。万有引力は4月の幻想寓意劇『チェンチー族』、7月の『奴婢訓』と何を観ても、その独創的呪術空間が心を震わせてくれたし、勅使川原三郎も5月の『シナモン』、『青い記録』、7月の『幻想交響曲』、12月『「忘れっぽい天使」ポール・クレーの手』も他の誰にも作り得ない舞台で圧倒してくれたのである。

そして、執筆メモを見ていくと、今年はレベルが高く魅力的なパフォーマンスに随分たくさん出会えた感がある。2月の『ヤン・リーピンの覇王別姫~十面埋伏~』、4月の『ポリティカル・マザー ザ・コレオグラファーズ・カット』と5月の『赤いランタン ~紅夢~』、7月のサイレント映画+立体音響コンサート『サタンジャワ』 、『ル・グラン・ガラ2019』などが特筆すべきもの。展覧会も佐倉のDIC川村記念美術館で開催された『ジョゼフ・コーネル コラージュ&モンタージュ』を筆頭におもしろいものがたくさんあったが、11月12日に東京都写真美術館で始まった『山沢栄子 私の現代』(1月26日まで)は何の予備知識もなかったので驚きの幅が大きかったように思う。同じ日まで東京都写真美術館で開催されている中野正貴写真展 『東京』も巨大都市の変わりゆく表情を独自の視点でとらえた「東京」を不思議な感覚で展覧することができる。

『ヤン・リーピンの覇王別姫 ~十面埋伏~』

それは予想もつかないものと出会える喜びと言えるかも知れない。執筆メモを見ながら記憶を甦らせてみても、音楽ライヴにはこれといったものが少なく、行く前からこうなんだろうなあと思えてしまうものが多く、他のものに時間をさいてしまうことになってしまった気がするが、松任谷由実の45周年記念『Time machine tour Traveling through 45years』コンサートと高円寺JIROKICHIで観た『近藤房之助LIVE 2019 ~Anytime Anyplace~』は、客の数が100倍という違いはあっても個性が輝いているという点では共通していた。

和ものでは11月30日に国立劇場で観た『京舞』の中の井上八千代の地唄舞『虫の音』と舞台上で38人の芸妓、舞妓がパフォーマンスする手打『廓(くるわ)の賑(にぎわい)』が生の芸の極致で酔わせてくれたし、12月15日にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンから生中継されたテレンス・クロフォード対エギディウス・カバラウスカスのWBO世界ウェルター級タイトルマッチの凄さも超弩級のものだった。

今年はウッドストックから50年、ビートルズの『アビイ・ロード』もローリング・ストーンズの『レット・イット・ブリード』もキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』も同じ年に発表されたものだったが、ロックはもうクラシックやファインアートの枠の中で語られるものになっているのだろうか。

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

アプリで読む