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ディーン・フジオカは“ロマン”を体現する 『シャーロック』など古典文学原作ドラマにハマる理由

リアルサウンド

19/10/21(月) 6:00

 イギリスの作家コナン・ドイルの作り上げた名探偵シャーロック・ホームズは19世紀に誕生して以来、たくさん映像化されてきた。近年では、21世紀のロンドンを舞台にしたベネディクト・カンバーバッチの『SHERLOCK』が傑作だ。日本でも宮崎駿監督は犬にしてアニメ化し(『名探偵ホームズ』)、三谷幸喜は寄宿学校の学生にして人形劇(『シャーロックホームズ』)で描き、竹内結子は配信ドラマで女版ホームズを演じ(『ミス・シャーロック/Miss Sherlock』)、どれも人気を得た。三谷幸喜は今年の秋、演劇でもシャーロック・ホームズに挑み、その『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』では柿澤勇人が『デスノート』のLみたいな椅子の座り方をしてエキセントリックさを出していた。カンバーバッチ版以来、かなりイカれた人物のイメージが強くなったホームズは、原作ではクールで頭脳明晰、捜査のスイッチが入ると激アツ、品行方正ではなく薬物依存の癖もあるという個性派。その要素を拡大したり縮小したり様々いじりながら、無限に再生産されていく。2019年10月からフジテレビ月9ではじまった『シャーロック』では、令和の東京でフリーの犯罪コンサルタントとして活躍する男として名探偵は生まれ変わった。名前は誉獅子雄。イニシャルがSHでシャーロック・ホームズと同じになっている。

 演じるのはディーン・フジオカだ。カンバーバッチに寄せるとしたら、原作のレストレード警部的役割・江藤警部を演じる佐々木蔵之介のほうが適任であろうが、ここはディーン・フジオカなのだ。また、犬だったり21世紀だったり趣向が変わっても、英国紳士的というイメージは必須項目かなと思っていたが、ディーン・フジオカには、名前が外国の名前みたいというくらいしかない。いやでも、ディーン、デビューしてしばらくはアジアで活動、外国生活が長いからか、国籍不明、ボーダレスな雰囲気がある。だからなのか『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』(18年・フジテレビ系)、『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』(19年・フジテレビ系)と外国文学の舞台を日本に置き換えたドラマに連続出演して、それなりの評価も得た。『シャーロック』もその第3弾と考えても良いかもしれない。

 ボーダレス感あるディーン・フジオカのもうひとつの魅力は所作が優雅で、紳士的な雰囲気が出せること。彼が、日本で注目されるようになった出世作、朝ドラ『あさが来た』(15-16年・NHK総合)でディーンが演じた五代友厚がまさにそれで人気を獲得した。外国から多くの知識を日本に持ち帰り日本のために尽力する実業家は、洋装がよく似合い、馬にも乗っていて、少女漫画の王子様ふうな雰囲気が年齢問わず女性視聴者をときめかせ、「おディーンさま」などと呼ばれるようになる。じつはそのときヒロインが巻き込まれた炭鉱爆破の謎を解くという回もあった(65話)。私は当時のレビューで「名探偵・五代友厚」と(冗談で)書いている(参考:exiceニュース)。日本で初めて出た連ドラ『探偵の探偵』(15年・フジテレビ系)でも探偵役だった。そういう意味では、やや強引ではあるが、日本人版シャーロックありなのだ。

 『シャーロック』ではバイオリンを弾きながら頭を整理していたディーン。これは原作にもある特技。そういう華麗なアクションが様になる人はなかなかいない。ちなみにボクシングのアクションをする場面もある。これも原作に倣っている。基本的なホームズの特性は、薬物依存以外は誠実に踏襲しているようだ。

 ただ、衣装はいわゆるシャーロック・ホームズの英国紳士ふうなイメージとは少し違う。バイカラーのベストにシャツ、シルエットがふんわりしたパンツにロングコート。なにより特徴的なのは首にまいたボウタイみたいな巻もの(カンバーバッチのマフラーみたいなもの?)。崩しつつ、どこか上品。これが令和の東京の紳士の服装なのかもしれない。撮り方のせいもあるとは思うが、ディーンがスカイツリーの見えるリバーサイドに立つと、東京のダイバーシティ度ががぜん上がって見えるのである。

 この東京をバイクで走るシーンも良い。しかも、相棒ワトソンのポジションである精神科医・若宮潤一(岩田剛典)の運転するバイクに2ケツ(獅子雄が後ろ)だ。若宮に運転させて後ろに乗っているところも貴族っぽいではないか。英国紳士でない分、貴族っぽさでカバーという感じだ。英国紳士っぽさは『相棒』(テレビ朝日系)の紅茶好きな右京さん(水谷豊)にお任せすれば良いのかもしれない。

 また、甘めの顔だちながらクールで感情がよく読めないところが探偵(犯罪コンサルタント)という役どころに合っている(映画『結婚』で演じた結婚詐欺師という役も合っていた)。それでいてお茶目なところもあって、2話ではボイスチェンジャーのようなもので女性の声を出していた。若宮や江藤をからかう絡みなどもやりすぎず、さらっとしているのがまた掴みどころのなさとなって良い。

 こういう俳優、芸能界を見渡してみると、いそうでいないのである。とりわけ昨今の若い俳優はリアリティを重視するあまり、等身大というか一般市民の像を映し出すような役や演技を好む俳優が多い気がする。だから恋愛もの青春もの、現代を舞台にした群像劇などで共感を得る。それはそれで大事なことなのだが、物語にはやっぱり浪漫がほしいときもある。庶民がなかなか近づけないようなロイヤルな空気に浸りたいときが。ディーン・フジオカの良いところはそんな浪漫を感じさせるところだ。舞台、主にミュージカル俳優などは、それこそ浪漫あふれる貴族や王子様を演じているが、映像に出てくると、ともすれば過剰な表現や存在感を面白さとして捉えられてしまいがち。例えば『ルパンの娘』(19年・フジテレビ系)の大貫勇輔や『あいの結婚相談所』(17年・テレビ朝日系)の山崎育三郎のように。それをディーン・フジオカは映像の世界で、リアルな東京というロケーションのなかで、浮遊するような生活感のなさをリアリティもって演じてみせる。しかも自分の歌までバックに流しながら。それはなかなか凄いことで、ドラマ主演が引きも切らない理由もナットクなのだ。(文=木俣冬)

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