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コロナ禍の社会で夢を見られるだろうか? 『らいか ろりん すとん』が映す剥き出しの感情

リアルサウンド

21/1/15(金) 12:00

 泣くことは誰にでもできる。しかし、見た瞬間から暗い目をできる、いや暗い目をしている人間は少ない。映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』を観はじめて、まず目を奪われたのが、インポッシブル・マイカとワキワキワッキーの暗い目だった。そして、それはそのまま映画の終盤への伏線となる。

 『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』は、BiSHなどが所属する芸能事務所・WACKの合宿オーディションの1週間を追った映画だ。2020年の合宿オーディションは新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の感染拡大を受け、例年の壱岐島ではなく関東で3月22日から開催された。

 合宿オーディションは24時間ニコニコ生放送で配信されていたので書いてしまうが、そこで一番仲の良かったインポッシブル・マイカとワキワキワッキーが、いったい最後はどうなったのか? 同日にふたりとも脱落を通告されてしまうのだ。そして敗者復活をかけて、ふたりはオセロで戦うことになる。勝って合宿オーディションに残れるのはひとりである。

 『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』で重要な役回りをしている人物がもうひとりいる。BiSHのセントチヒロ・チッチだ。この映画は彼女の存在で成立していると言ってもいい。

 セントチヒロ・チッチは、合宿オーディション4日目で脱落するトト・パーティン・トトとふたりで組んでレッスンもしていた。トト・パーティン・トトもまた暗い目をしている。そして、感情を剥き出しにしてはセントチヒロ・チッチに冷静に諭される。耳たぶを真っ赤にして涙を流す。合宿オーディション名物のデスソース入りの食事に当たってしまうと、脚をガタガタと痙攣させながら食べ続ける。ときには涙を白米に落としながら食べ続ける。

 トト・パーティン・トトがセントチヒロ・チッチに「怒ってますか?」と聞くシーンは、素直すぎて好感すら抱いた。そんなトト・パーティン・トトの弱音に、「軽くそういうこと言われたら……」と言葉を詰まらせてセントチヒロ・チッチも涙を流す。当初はオーディション参加者たちに対して冷淡なほどだった彼女の姿勢の変化が、映画のひとつの軸になっている。

 セントチヒロ・チッチは、インポッシブル・マイカとワキワキワッキーに手紙も渡し、ふたりは逸材だ、一緒に仕事をしたい、事務所の代表である渡辺淳之介が落としたら抗議するとまでカメラの前で語る。そして、ふたりの脱落を受けて、それは現実のものとなる。

 渡辺淳之介は言う。「たぶんね、あのふたり、このまま落ちないで合格すると、確実に辞めるわ、わけわかんなくなって」。それは予言のように的中する。合宿オーディションに残ってWACKのアイドル育成プロジェクト・WAggに加入し、ユウドット・comと改名したワキワキワッキーは、2020年9月12日に早くも脱退している。

 ワキワキワッキーは、2019年の合宿オーディションを描いた映画『IDOL-あゝ無情-』にも登場している。冒頭で、壱岐島に到着するなり過呼吸で倒れて救急車で搬送され、オーディションを断念したのが彼女である。その彼女がこうして『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』では主役格になれたが、現実は甘くない。COVID-19に侵される、この社会のように。

 前作『IDOL-あゝ無情-』が事実上、第2期BiSが瓦解していく過程のドキュメンタリーであったのに比べると、『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』は正気に返ったようにまっとうな合宿オーディションのドキュメンタリーだ。どこか駆け足な印象があるのは、前作の岩淵弘樹に加えて、エリザベス宮地にバクシーシ山下と、3人も監督がいる体制と関係があるのだろうか。緊急事態宣言前後の社会とエンターテインメント業界の関係の難しさを投影したかのような映画だとも感じた。

 一方で、渡辺淳之介の存在感がこれまでほど強くなく、参加メンバーの内面を描こうとする構成は挑戦的だ。技術面でも、レッスンをするメンバーの周囲をぐるっと回りながら撮るカメラワークは、『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』の絵をぐっと締めている。

 『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』で何度も話題に出てくるのは、現役のWACKメンバーも、合宿オーディションでは何人も落ちていたという事実だ。インポッシブル・マイカとワキワキワッキーの姿を再び見られる日は来るのだろうか。それは、コロナ禍の社会で夢を見られるのかという問いでもある。あなたは、コロナ禍の社会で夢を見られるだろうか?

【本予告】映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』WACKオーディションドキュメンタリー2021年1月15日(金)公開

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■公開情報
『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』
1月15日(金)より、テアトル新宿ほか全国順次公開
監督:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地
プロデューサー:渡辺淳之介
出演:オーディション候補生、BiSH、BiS、EMPiRE、CARRY LOOSE、豆柴の大群、GO TO THE BEDS、PARADISES、WAgg
撮影:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地、白鳥勇輝
配給: 松竹 映画営業部ODS事業室/開発企画部映像企画開発室
(c)WACK INC.
公式サイト:http://rolin-ston-movie.com

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