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みうらじゅんの映画チラシ放談

『ほんとうのピノッキオ』『MORE/モア』

月2回連載

第71回

『ほんとうのピノッキオ』

── 今回の1本目は、『ほんとうのピノッキオ』、アカデミー賞で衣装デザイン賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門にノミネートされたという作品です。

みうら 僕、昔から長く伸びたものにすごく興味があるんですよ。このチラシの写真は、当然日本人なら誰もがアレを想像するんじゃないでしょうか? そう、京都の六波羅蜜寺におられる“空也上人像”の構図ですよね。口から6体の仏を出しておられますよね。

六波羅密寺で公開展示された際の空也上人立像(写真:読売新聞/アフロ)

── なぜ空也上人像は口から仏を出してるんですか?

みうら はい。お任せください。空也上人は、踊り念仏で有名だったんです。寺に籠ることなく、ストリートに出て念仏を唱えるアウトドア派の上人ですね。腰から下げた鐘をチンチン鳴らしながら、今で言うところのラッパーですかね。説法というラップをされるわけです。この像は、そのライブ中を表現してるんですね。言ってみれば、マンガの吹き出しのルーツ。「南無阿弥陀仏」と唱えてらっしゃるお姿なんですね。

ピノキオとなんの関係もないじゃないかとおっしゃる方もおられると思いますがね、このチラシだと、ピノキオの鼻の先がどこまで伸びているか分からないじゃないですか。想像でしかないですけど、つまりこれは天狗がルーツにあるんじゃないかと思うんですよね。

── 日本がルーツってことですか?

みうら 空也上人のそれはセリフでしたが、伸びるものは天狗の鼻と昔から相場は決まってます。天狗ってそもそも中国で、稲妻とか流星の意味だったんです。天を翔ける狗(イヌ)って書きますよね。それが奈良時代末期に入ってきて、日本の山岳宗教と結びついたと言われています。

なんで天狗の鼻が長いのかっていうのは、諸説あるんですがね、山に追われた渡来人たちではないかという説もある。そこで僕はピノキオもまた、天狗ではないかと考えるわけです。しかし、どうでしょう? 今ではピノキオの方が逆に広く知られてはいませんか?

── “鼻の長い界隈”では天狗の方が先輩なのに、冷遇されているということですか?

みうら というか解せないですね。ま、僕と同じ考えを持つ方なんでしょうが、昨今、天狗の逆襲というかね、『鬼滅の刃』の主人公の師匠、鱗滝左近次によって天狗は復権を果たしましたでしょ。なんなら今は鱗滝左近次の方がピノキオより有名じゃないですか?

じゃ、ピノキオはなぜ嘘をつくと鼻が伸びるか考えてみましょう。それはね、「天狗になるな」っていう戒めだと思うんですよ。

── なるほど。今、ちょっとだけ納得しそうになりました。

みうら でしょう? 平気で嘘をつくくらい天狗になってるということでしょう。それがこの映画『ほんとうのピノッキオ』で解き明かされるんだと思いますよ。

── たしかに“ほんとうの”って言ってますから、何かは明かされないとおかしいですね。チラシにも“この名著の主人公の実像を知る人は少ない”と書いてあります。

みうら ほら! そこですよね。先に明かしてしまいましたが、つまりは“ほんとうのピノッキオ”というのは“天狗”だったわけです。きっと、そこに行き着くヒントとして、チラシの写真を空也上人像に寄せてきてると思うんです。

僕は「これなら日本人はピンとくるだろう?」っていうメッセージだと思いますね。これで僕が長年考えてきた“ピノキオ=天狗説”がついに明かされるときが来ますから。

『MORE/モア』

── 続いては1969年製作の『MORE/モア』ですね。

みうら もう、その頃、青春期を迎えた僕たちからすればね、モアはピンク・フロイドが手がけたサントラということになります。よって、ピンク・フロイドのサントラだけでしかこの映画のことを知らない方は大勢いるはずなんです。だから今回のリバイバル上映はそんな“老いるショッカー”へのプレゼントだと思うんですよね。

当時から難解なトリップ映画だと噂には聞いていたんですが、今ならきっと記憶に残ってないんで意味は分かると思うんですよね。ところでこのチラシの裏面の男女ふたりの写真は座位ですかね?

── 座位のセックスっぽいですね。ずいぶん深刻な顔をしながらの座位ですね。

みうら これはすなわちチャクラとかいう、要するにヨガのポーズだと思ったんですよね、当時は。60年代はやたら精神世界ってやつが流行ってましたからね。ある種、悟りを求める映画なんじゃないかと思ってたんですが、違いますね、コレ。エロ映画ですか?

サントラ盤に『ナイル・ソング』っていう曲が入ってましてね、ピンク・フロイドにしたらハードロック寄りというか、めちゃカッコイイ。当然インドを連想しますよね?

── いや、ナイルはエジプトじゃないですか?

みうら あぁ、そうでした。今まで、『モア』はてっきりインド的な精神世界の話なんだろうと思ってたもので(笑)。

── でも、確かにピンク・フロイドはエジプトよりもインドの精神世界のイメージの方が結びつきますよね。僕もピンク・フロイドの『ライブ・アット・ポンペイ』は、イタリアのポンペイなのに、インドのボンベイだと思い込んでいました。

みうら ありゃ、僕もボンベイと間違えてました(笑)。こりぁ、全然ダメですね。

“恋人たちの失楽園”とかチラシには書いてありますね。渡辺淳一以降のキャッチコピーでしょうかね、これは。イビサ島が舞台ってことはね、そりゃ大変な騒ぎなんでしょうね(笑)。

── 高校生だったみうらさんがフリーセックスの島だと信じて隠岐島に行ったみたいなものですか?

みうら いやいや、お恥ずかしい限りで(笑)。島は開放的になりますからね。そうそう、『私は好奇心の強い女』という映画があったのご存知ですか? たぶん『モア』に近い頃だったと思いますが。その邦題が絶妙なもので、僕はものすごくいやらしい映画だと思い込んでたんです。

で、随分してからDVDで発売されたときに思わず買ったんですけど、『モア』にある座位のようないやらしいシーンはあるにはあったんですけど、もっぱらテーマは社会派だったんですよ。ま、一生観なくて妄想だけを抱えて死ねば良かったと思ってます。

── 『モア』はその逆になりそうですね。ちゃんとチラシにも“セックス、ドラッグ、ロックミュージック”って書いてありますね。

みうら 確かに。よくよく見たら彼女の服、乳頭が透けてますしね。

まあ、僕のようにサントラだけ持ってて実際は観てない人たちは、冥土の土産に、50年ぶりにどんな映画だったかくらいは確かめてもいいんじゃないかなと思いますね。

最近はやたら、半世紀ものって言われる商品が出回ってるじゃないですか。ぴあさんもそれに当て込んで、『巨人の星』のアニメDVDを出してますよね。『巨人の星』のマンガの連載開始から55年っていうのが打ち出してあるので、当然半世紀狙いの商売なことは分かるんですけどね。僕は、『巨人の星』をリアルタイムと再放送で観ていて大好きなんですけど、DVDは持ってなかったからそれだけを楽しみに1カ月生きてるんですよ。

でも、なんで毎月チョロチョロ出すんですかね? 一気にドドっと出してくれてもいいじゃないですか!?

── 確かに18カ月連続刊行ってなってますね。

みうら ジラし過ぎですよ、その商法(笑)。どうせ『新・巨人の星』も出されるんでしょうから、そのときは一気にドドッとお願いしますね。

『モア』から随分、話が逸れましたけどね、この“老いるショッカー”の提案、受け入れてもらえませんかね? サントラ持参だと割引されるってシステム。どうかよろしくです(笑)。

取材・文:村山章

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(C)1969 FILMS DU LOSANGE

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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