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菅田将暉と小松菜奈の“リアルな表情”が心に迫る 『糸』が意味付ける“繋がり”の深さ

リアルサウンド

20/8/24(月) 8:00

 運命の“糸”で繋がれた人と出会えただろうかーー映画『糸』は、自分の人生において紡いできた人との繋がりを思い起こさせる。中島みゆきの名曲「糸」をモチーフに映画化した本作は、2人の男女の人生がゆっくりと交差していく様子を描く。

 本作でW主演を務める菅田将暉と小松菜奈は今回が3度目の共演となる。過去の『ディストラクション・ベイビーズ』、『溺れるナイフ』(共に2016年)を経て、2人が見せたのは、人生を踏みしめるように描いた男女の物語。“すだなな”の愛称で親しまれる2人が紡ぐ運命の“糸”の行方はいかに。

 平成元年に生まれた高橋漣(菅田将暉)と園田葵(小松菜奈)の半生を描いた『糸』は、中学生時代の2人のエピソードを軸に“積み上げられていく人生”の重みを感じさせた。時に傷つき、気づき、苦しみ、恋をする姿のリアルな表情が魅力の作品だろう。

 漣を演じた菅田は、表情だけではなく、ふとした仕草からも人間性の発露を感じさせる。様々な人物との交流によって得た感情や学びを鑑賞者に届ける。綿密に練られた芝居にも感じられるこうした細かい所作であるが、一方で菅田がカメラを前にリラックスして芝居に挑んでいることも伝わる。無駄な力の抜けた身体から表現される感情は、指先から肩の動きまでを使ってナチュラルに届けられていると感じた。葵を抱きしめる姿や、勤めているチーズ工場の外で伸びをするシーンさえ、漣が人生で抱えてきたものの輪郭の端々を感じさせ、映画をより雄弁にする。漣と葵がお互いに対して抱く遠慮がちな愛は、30年間を通してジワジワと手繰り寄せられ、ついには縦の糸と横の糸が交わる瞬間を観ているかのよう。

 2人が共に積み上げてきたキャリアは、本作のように“過去の思い出”が重要な意味を持つ作品で大きなアドバンテージを得たと見受けられる。これに関しては菅田自身も完成報告会にて「幼少期の思い出ありきの関係性の役なので、『はじめまして』の相手でなくて良かった」(引用:小松菜奈、3度目の共演の菅田将暉は「良いお父さんになりそう」 – フジテレビュー!!)と語っており、小松との信頼関係があってこその芝居だったことを伺わせた。

 そして本作では脇を固める俳優陣の豪華さにも注目してほしい。特筆すべきは、榮倉奈々演じる桐野香と成田凌演じる竹原直樹であり、どちらも漣の人生において重要な役割を担う。香や直樹と過ごす漣の姿があってこそ、本作はより深みを増す。そこにはそれぞれの視点からみた漣の人生があり、葵との関係の意味が改めて強く浮き彫りになるのだ。

 菅田は、榮倉や成田の演じる役の力強い芝居に対して「受け」の姿勢を取りながらも漣の人生におけるスタンスを示し、改めて菅田の芝居の柔軟性の高さを見せつけた。さらに榮倉と成田のそれぞれが、劇中で中島みゆきの「ファイト!」を歌うのだが、菅田はそれぞれのシーンで「ファイト!」をその時の感情に合わせて受け止め演じ分ける。この掛け合いの見事な美しさこそ、人と人の繋がりが発する一筋の光なのであろう。

 平成という時代の変遷と共に描かれた本作は、リーマンショック、東日本大震災などの災害を如実に描き、平成史をゆっくりと振り返る要素を有しながら、そこに改めて人と人の“繋がり”に深い意味を持たせているのだ。令和になって新たに新型コロナウイルスという疫病が流行り、また人々は“繋がり”の重要性を再確認させられている。このタイミングでの本作の上映は多くの人に新たな気付きを与えるだろう。振り返れば、今近くにいる人物こそが運命の“糸”によって出会った相手なのかもしれない。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『糸』
全国公開中
出演:菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、二階堂ふみ(友情出演)、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、成田凌、斎藤工、榮倉奈々
原案・企画プロデュース:平野隆
脚本:林民夫
監督:瀬々敬久
音楽:亀田誠治
配給:東宝
(c)2020映画『糸』製作委員会
公式サイト:https://ito-movie.jp/

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