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なぜ癒される? 秋ドラマに見る「面倒くさい男」たち

リアルサウンド

19/11/21(木) 6:00

 偶発的にLGBT関連ドラマが多数作られた2019年。前クールには、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)、『サインー法医学者 柚木貴志の事件―』(テレビ朝日系、以下『サイン』)という医療×刑事複合技ドラマが重なったり、『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)、『TWO WEEKS』(カンテレ・フジテレビ系)、『サイン』などの韓国原作ドラマが集中したり、『凪のお暇』(TBS系)、『セミオトコ』(テレビ朝日系)で国分寺~立川エリアを舞台としたアラサー女性の夏が描かれたりと、テーマや手法が重なってくることは少なくない。

 そんな中、今クールで目立つのは、「面倒くさい男」だ。

 筆頭はもちろん、阿部寛主演の『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)。30分×2本という異色の構成に挑んだ生田斗真主演の『俺の話は長い』(日本テレビ系)も、なかなかの面倒くささだ。そして、波瑠主演の『G線上のあなたと私』(TBS系)の中川大志も、若いながらも別の角度から面倒臭さを放っている。

 それにしても、そんな面倒くさい男たちに、ちょっとイラっとしたりクスリとさせられたりした挙句、なんとなく癒されてしまうのは何故だろうか。

 一つには、彼らの裏表のなさが挙げられるだろう。タイプも世代も異なる三者だが、それぞれに周囲を怒らせたり困惑させたり、ドン引きさせたりするほどの正直さを持っている。

 阿部寛演じる桑野信介の場合、偏屈ぶりは前作と変わらず。誰も聞いていないうんちくを一方的に得意げに披露したり、言わなければ良い嫌味を付け加えたりする。でも、それは言いたいことを胸にしまっておけない正直さゆえ。しかも、13年前に比べて年齢を重ねたためか、態度が少々柔軟になっている気もする。

 にもかかわらず、前作よりも女性陣は桑野に対して悪口大会のオンパレードで、キツイ態度であることがちょっと引っかかる。特に桑野の母親の前で悪口を平気で言う女性たちは、鬼のように見え、女性たちのほうにドン引きした人も多かったのではないだろうか。

 続編の評価として、女性陣が前作に比べて劣るという指摘が多く見られる。女性のキャラが弱い、演技力が……などという批判は多数あるが、何より腑に落ちないのは桑野との関係性だろう。前作では、周囲の人が皆なんだかんだ文句を言いつつも、桑野という偏屈な人物をあたたかく包み込んでいた。そのため、視聴者も夏川結衣などの視点から桑野を見て、桑野に呆れつつも愛着を持ってしまっている。にもかかわらず続編では、年齢を重ねて偏屈に哀愁が加わってきた桑野に対して、女性たちが優しくない。その様子を目の当たりにすると、なんとなくモヤモヤした気持ちになってしまう。新しく登場したキャラよりも、なぜか視聴者が「桑野を理解する身内目線」になってしまうのだ。

【写真】屁理屈だらけの面倒臭い男・生田斗真

 『俺の話は長い』で生田斗真演じる岸辺満の場合は、屁理屈だらけの面倒臭い男ながら、実は繊細でこだわりが強いために、引きこもりのニートになっている。

 視聴者は、次から次に出てくる屁理屈に、思わず笑わされてしまったり、ときには「うまいこと言うな」と妙に感心させられたりする。しかし、特に心を動かされてしまうのは、ニートの満が実は家族のことをいちばんよく見ていて、誰もが忘れていることをちゃんと覚えていて、大事にしていることだ。面倒くさいこだわりと屁理屈の根底には、繊細で優しくあたたかな家族愛があるのだ。

 そして、『G線上のあなたと私』で中川大志が演じる加瀬理人の場合は、若さゆえの青臭さ、初恋の拗らせ具合が面倒くさい。

 兄の元婚約者を好きになり、彼女に会うためにバイオリン教室に通い、こっぴどくフラれてもやはり諦められず……。しかも、本来は非常に合理的で無駄がなく、理路整然としたタイプであるだけに、也映子(波瑠)に対しては正論を率直にぶつけたり、身も蓋もないツッコミを平気で投げかけたりする。理性的な彼が、自分の恋に関してだけはウダウダと出口のない悩みを抱き続けて全く合理的になれない弱さは、幼く真っすぐで、苛立ちもあるが、可愛さも感じてしまう。

 このように、三者三様の面倒くさい男たちに愛着を持ってしまったり、癒されたりする理由には、彼らの言動のリアリティもあるだろう。ここまで極端ではなくとも、彼らを見ていると、様々な言動に「ああ、こういうところ、〇〇にもある」などと家族や知人、友人などとつい重ね合わせて見てしまう人もいるのではないか。

 そして、実は面倒くさい男たちに親近感を抱いてしまうのは、『凪のお暇』、『だから私は推しました』『トクサツガガガ』(共にNHK総合)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)などの「空気を読むのに疲れた女性たち」が近年増えている傾向の裏返しのようにも思う。本音を言わず、空気を読んで周りに合わせることに疲れた女性たちは、彼らのような面倒くさい男たちの、自分の軸やこだわりをしっかり持ち、自分の言葉で自分の思ったことを話す率直さに、羨ましさを感じたり、痛快さを感じたりするのではないか。

 「空気を読めない女たち」のドラマと「面倒くさい男たち」のドラマをセットで観てみると、その対比がまた面白いかもしれない。

(田幸和歌子)

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