Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

小山田壮平が語る、ソロアルバム制作の中で得た節目 「すべてに意味があるって考えていったほうが人生が楽しめる」

リアルサウンド

20/8/26(水) 18:00

 小山田壮平、初のソロアルバム『THE TRAVELING LIFE』は、1曲目のかつてない程に穏やかな肯定感が貫くミドルテンポの「HIGH WAY」から始まり、ラストの雄大でサイケ感漂うUKロック「夕暮れのハイ」まで、旅をするように情景が移ろいゆく12曲が収められている。andymori、ALの楽曲で実証されてきた天才的な輝きを宿したメロディと言葉はより研ぎ澄まされており、また、そのアレンジはとても細やかで豊かだ。そして、とにかく歌の情感が素晴らしい。喜びも悲しみも郷愁も瑞々しさも後悔も確信も、すべてが繊細な機微をともなって描かれている。本作について、小山田壮平に話を聞いた。(小松香里)

「人生が旅である」っていう感情を作品にできるんじゃないか

ーーそもそも初のソロアルバムを作ろうと思ったきっかけは?

小山田壮平(以下、小山田):2016年から毎年ソロで弾き語りツアーをやっていて、2018年のツアーのタイミングで、手土産のような意味合いで4曲入りの『2018』っていうEPを作ったんですね。その時期は、ソロアルバムを作るとしたらどんな風なものにしようっていうのはそこまで考えてなかったんですけど、『2018』を作ってツアーが終わった後に、インドとネパールに旅行に行ったんです。それで、空港で保安検査場を抜けて免税店とかがあるところを歩いて飛行機に乗り込む時に、すごく心がワクワクして。ほんとに自分は旅が好きなんだなって実感する瞬間だったんです。それで向こうでは、仕事をしながらアジアを転々としている仲間たちと出会って、二週間くらい同じ宿で一緒に過ごしたんですけど、日本に帰ってきた時に彼らのことを思い出して、彼らにとって人生は旅なんだなって想いを巡らせて。ふと自分のことを思い返してみると、自分もいろんな人と出会ったり別れたり……自分の心も移り変わっていって。僕は引っ越しが好きなので、2年の契約更新ごとに引っ越しをしてたりして、そういう自分の人生を考えてみると、日本にいても海外にいても、人生という旅をしているという点では彼らと同じなんだなと思ったんです。それでふと、『方丈記』を読み返してみたんです。そうしたら、最初に小学校か中学校の時に授業で読んだ当時、時が止まったかのように深い感情になった思い出が蘇ってきて。僕の実家は福岡の飯塚市ってところなんですけど、昔ちょっと自転車を飛ばして釣りをしに行った場所とか、絵に描いたような田舎の風景なんです。『方丈記』を改めて読んだ時に、そういう自分の原風景と重なったりして。心の奥に深く刻まれてる田園の風景に、川が流れていて、そこで人々が生まれては死んでゆくーーそういうことがあって、「人生が旅である」っていう感情を作品にできるんじゃないかと思って、アルバム制作に取り掛かり始めたんです。

ーー『THE TRAVELING LIFE』に入っている「ローヌの岸辺」は、実際小山田さんが好きなゴッホが住んでいたアルルに旅行した時にできた曲だそうですね。

小山田:はい。基本的に海外にもギターを持っていくので、この曲はローヌ川の岸辺の宿で書きました。「Kapachino」はインドに行った時の感覚を頼りに、日本に帰ってきてから書いた曲ですね。

ーー「Kapachino」ってインドのお店ですかね。

小山田:バラナシのお店ですね。すごく入り組んだエリア、ガンジス川の岸辺にあるカフェなんですけど、自分から見ると混沌と見えるインドの風景を歩いていって、そのカフェでひとり佇んでる時に、歌詞にもあるように「ふと気付いたら何してるんだろう」ってなって(笑)。その時にふっと湧いたイメージを、帰ってきてから構築していった曲ですね。自分の頭の中で見てきた印象深い物事とか経験とか考えが形になっていく感覚です。「ローヌの岸辺」もそうなんですけど、単純に旅というよりも、それからイメージされる自分の心象風景というか。自分の内面の想いを綴っていくことだったりをして曲ができていきますね。

ーー旅行することで曲が生まれるのはどういう関係があるんですか?

小山田:やっぱりワクワクして楽しい気分になるっていうことと、日本の生活の中では考えないようなことが客観的に思い出されるってところがあります。家族、恋人、友達、そういう大事な人たちとも遠く離れてるから、なおさら自分に対して言ってくれたこととか、大切さが身に沁みてきて、想いが溢れてくる。僕の場合はそれをきっかけにして、メロディと言葉が一緒に出てくることが多いです。そうなると、「あ、これは曲になるな」って明確なイメージが湧く。ちょっと新しい感覚もあったりして、「これは曲が作れそうだな」ってなったら、そこから歌いながら膨らませていって、歌詞を紡いでいく作業になりますね。はっと心が動いて、なおかつ自分の中で何か新しさを感じる体験や感情が大事な気がしています。例えば、酔いどれてくだまいたりしてるけどすごく優しいあの人のことを考えた時に、「あれはもうベロべロックンローラーだな」って思ったりするのも新しい感覚なんです。そのモチーフ、人自体は元々頭の中にあったんだけど、ある時「そういえばあれはもうベロべロックンローラーって呼んでも差し支えないな」って名前がつくというか。そこから、ふとそのベロべロックンローラーの日々の暮らしとか、素敵な部分やかわいらしい部分が形作られていって、今回のアルバムに入ってる「ベロべロックンローラー」って曲が生まれたり。ずっと心の中にあったけど、それを汲み取れずになんとなく流れていっていたものを「これだ!」って取り出して形にしていく作業でもありますね。

ーーその作り方は昔からですか?

小山田:そうですね。ここまではっきりと自分の中で言語化できてはいなかったと思うんですけど、結局ずっとそういうことをやってたんだろうなって思っています。

ーー今回音楽性もとても豊かで聴き応えがあって。「旅に出るならどこまでも」はテルミンとティン・ホイッスルが入ったサイデリックガレージ的な曲で、終盤はアイルランド民謡のような展開になります。

小山田:テルミンはデモの段階で入れようとは思ってて。ティン・ホイッスルは何か笛のようなものがほしいなって思って入れたんですけど。テルミンは街角マチコさん、ティン・ホイッスルは豊田耕三にそれぞれ素敵な音を演奏してもらいました。バンドでレコーディングすると、「この音とこの音が不協和音になってないかな」とか細かいことを気にするし、構築しようとして作業を進めるので、考え方も硬くなっていくんですけど、民族音楽やオーケストラってバンドと音色が全然違うから、音がぶつかっても全然調和が取れるんですよね。そういう風に、ルールを突き破っていくようなプレイが見られて。それをあとでこっちが整理をするんですけど、すごく自由に音楽を楽しんでていいなって思いました。以前からずっと意識してたことではあったんですけど、特に今回は「旅」をテーマにしていることもあって、いろんな音色を入れたいなって。自分のネガティブなこともポジティブなこともひっくるめて、景色が移り変わっていくようなアルバムになってほしいし。それで、なるべく色鮮やかにしたいなって思って作っていきました。

小山田壮平 – HIGH WAY (Official Music Video)

ーー「HIGH WAY」にはandymori時代からお馴染みのくるりのファンファンさんがトランペットで参加しています。

小山田:アルバムのレコーディングを伊豆スタジオでやったんですけど、そこに向かう車の中で偶然くるりの「ハイウェイ」が流れてきたんです。サビが〈俺は車にウーファーを(飛び出せハイウェイ)〉って「HIGH WAY」と同じく輪唱してて。そもそもタイトルもだし、その瞬間にめちゃめちゃ影響されてるってことに気付いたんです(笑)。デモを作って、「良い曲できた」って思って、ファンファンにトランペットのオファーしてるのに、そこまでその事実に気づいてなかったんですよね……「ハイウェイ」はすごく好きな曲なので、無意識にすごく影響を受けてますね(笑)。

ーーなるほど(笑)。「HIGH WAY」は精神的に不安定になったり、落ちたりしたとしても、これを聴けば軸が定められるような、すごく強い力のある曲だと思いました。

小山田:「HIGH WAY」は自分でも一番よく聴いてる曲ですね。落ち込んでても聴けるし、なんでもない時にも聴ける曲で。特に気分が落ち込んできたり、後悔に悩まされる時に聴くと少し気持ちが楽になるんですよね。

ーー「HIGH WAY」で歌っている穏やかにすべてを肯定するような気持ちは昔から小山田さんが持っていたものではあったと思うのですが、なんで今こういう曲ができたんだと思いますか?

小山田:何か吹っ切れるものがあったのか……曲をずっと書いてきて、今この曲ができたっていうのは、やっぱり歳を重ねて経験を積んできて……〈誤解されないように生きるなんて無理な話 そんな気持ちもすべて流れていくのだから〉って一節とかは、「誤解されないように生きるのはもう無理だとわかった」ってことなんで、やっぱり経験してこないとこんな気持ちにはなれないわけで。

ーー〈面倒くさいやつも爽やかなひともいい/誰が現れたってまっすぐに見つめよう〉という歌詞もありますが、過去の曲では人によっては距離を取ったり避けていたこともあった。でも〈誰が現れたってまっすぐに見つめよう〉と歌ったのはとても大きいのではないかと。

小山田:でも現状がそうなだけで、これからどうなっていくかはわからないんですよね。すべてのことが、これが駄目でこれが良いと判断できるものではないから、その中で自分が何か光を見れるなら良いと思うし。でも、自分が出会う人でも体験したことでも、すべてに意味があるって考えていったほうが人生が楽しめるっていう気持ちが強くなってはきてますね。これまでもそういう気持ちはなかったわけじゃないんですけど、なるべくそういう風に生きようと思った。歌詞の〈迷い込んでも目眩に襲われても 諦めないで 君の声を響かせよう〉ってところは、今苦しい思いをして頑張ってる誰かへのエールという気持ちもあって。何かひとつのことにまっすぐに向かっていけば、救ってくれる誰かが現れるとか、全く別の方向から自分を照らしてくれる光があるっていうことを自分は経験してきたから。あと、自分自身の心のバランスも保って良い状態にしていきたいので、なるべく自分のできる範囲でも良いと思えることをやっていきたいなとも思っています。これまでは、もっと自分の中のおどろおどろしいものに引っ張られていったり、罪の意識に悩まされたり……そういう部分は今でもあるんですけど、昔の方がより強かったんじゃないかって思っていて。

俯瞰的に眺めているような曲が多い 

ーー例えば、andymoriの曲の中でも「teen’s」は10代の時に作った曲で。それと「HIGH WAY」や「君の愛する歌」の精神状態は真逆と言っていい程の違いがあると思うんですが、それについてはどう思いますか?

小山田:それもやっぱり、昔も「HIGH WAY」や「君の愛する歌」みたいな感情がなかったわけじゃないんですけど、曲にはできないくらい淡いものだったのが、単純に歳をとって経験を積んできて濃く出てきたってことだと思うんですよね。あまりそういう風に昔と今とを客観的に分析することはしてないんですけど、ちょっと冷静にはなってる気がしますね。激しい情熱っていうよりは、俯瞰的に眺めているような曲が多いのかな。

ーーちなみに「ゆうちゃん」は結構前からライブでやってる曲ですが、これは実在する人物なんですか?

小山田:実在しないですね。ただモチーフになった女の子がいて。自分がよく宿題をするのを忘れたり、忘れものをすることが多い子供だったんですが、そこで綺麗なノートを見せてくれたあの子によくしてもらったなってことを思い出して。大人になってもずっと、そういうゆうちゃんのような存在が常にいて、助けてもらって生きてるなってことを実感するんですよね。この曲も客観的な歌ではあるんですけど、ふたりの友情を描いていて。意識してなかったんですけど、「『ちびまる子ちゃん』のたまちゃんとまるちゃんの関係だよね」って言われたことがあって、「確かに」って思いました(笑)。たまちゃんはすごく優秀な子なんだけど、まるちゃんとすごく仲良しで。

ーー確かにそうですね(笑)。あと、このアルバムは歌がどんどん素晴らしくなっていると思っていて。

小山田:ありがとうございます。毎回歌入れは辛いんですけど、今回も苦しんで。アレンジまでほぼ終わって歌入れが始まる時から、まさにスランプのような状態に陥りました。歌っても気持ちが全然開放されなかったんです。実家の猫が死んでしまったり、コロナ禍の影響もあるだろうし。でも、なんで気分が落ちるかって、明確な理由ってよくわからないですよね。あと、毎回歌入れの時にすごくてこずるっていうのが記憶にこびりついているので、どんどん引っ張られて、またそういう状態になっちゃうっていうのもあるとは思うんですけど。ALは歌をふたりで歌っていたので、そこまでてこずった記憶はないんですけど、アンディは基本的に全部きつかったですね。ギターとかは多少いいやみたいに思っちゃうところもあるんですけど(笑)。基本的に自分は小さい頃からずっと歌に惹かれてきて、音楽といえば歌っていう聴き方をしてきたんです。アレンジの魅力に気付いたのはThe Beatlesとかくるりに出会ってからで。だから、自分の中で歌への理想像がどんどん膨れ上がってて、最終的にそれに押しつぶされるっていうか。しかもそのジャッジが年々厳しくなってる気がしてて。「今のはピッチが合ってたけど気持ちがこもってない」とか、「今のは気持ちがこもってたけどピッチが駄目だった」とか。ピッチシフターでちょっと直してみたりするけど、不自然に感じたり。それでどんどん神経質になって、苦しい状態になってしまうんです。

ーーこちらはできあがったものを聴いているので、まずは1曲目の「HIGH WAY」のすごく穏やかで、でも透明感のある歌に新たな喜びを感じつつ、「雨の散歩道」では美しいソプラノが聴けて、歌がどんどん良くなっているなと思いましたが。

小山田:嬉しいです。未だにこのアルバムに対して不安を抱えている状態なんですよね。どこかでOKとするしかないんですけど。でも、チェックだと思いながらそれでも何度も聴きたくなってるっていうことは、結局曲が好きなんだと思います(笑)。

ーー6月に出たライブDVDには、2018年の弾き語りツアーでのピアニストの宮崎真利子さんとのセッションも収められていますが、ギターなしでピアノと歌だけっていう経験は、何も持たずに歌う気持ちよさみたいなものはあったんですか?

小山田:それはありますね。難しいギターを弾きながら歌うと、どうしても意識が分散されてしまう。リズムはギターを持ってた方が良くなるんですけど、自由な開放感って意味ではギターを持ってないほうが良いですね。だから、あの時にハンドマイクで歌ったような自由さだったり、いろんなことが活きてはいると思います。

ーー『THE TRAVELING LIFE』は初のソロアルバムということで、小山田さんの音楽人生の中で大きな節目になっていると思うんですけど、作る前とできた後は心境的にどういう変化がありますか?

小山田:まだそこまで客観的に聴けてなくて。リリースするまでソワソワしてる状態というか、いつもと違う感覚なんですよね。制作作業的には今までとそんなに変わってないんですけど、本当に何回も聴き直していて。そこでソロアルバムっていうものの責任を感じているという。バンドだと、ちょっと「みんなで作ったしいいや」って感覚もあって(笑)。でも今回は往生際悪く何回も聴いて。客観的なものになるのってやっぱり時間がかかりますね。今は「やばいやばい」と思いながら、「ここもう少しこうだったかな」とか考えちゃってるんで、早くリリースされないかなって思ってます(笑)。

■リリース情報
『THE TRAVELING LIFE』
発売:2020年8月26日(水)
<初回限定盤:CD+DVD> ¥3,800(税抜)
<通常盤:CD> ¥2,800(税抜)
<アナログ:2LP> ¥3,500(税抜)
※アナログ盤のみ2020年9月4日(金)発売 
【CD収録曲】
1.HIGH WAY
2.旅に出るならどこまでも
3.OH MY GOD
4.雨の散歩道
5.ゆうちゃん
6.あの日の約束通りに
7.ベロべロックンローラー
8.スランプは底なし
9.Kapachino
10.君の愛する歌
11.ローヌの岸辺
12.夕暮れのハイ
【DVD収録曲】
初回限定盤のみ付属
[Live]
あの日の約束通りに(なんばHatch 2019.9.19)
革命(中野サンプラザ 2018.10.30)
16(中野サンプラザ 2018.10.30)
[Music Video]
OH MY GOD
HIGH WAY

『THE TRAVELING LIFE』特設ページ
オフィシャルサイト

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む