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『MIU404』が暴き出すあらゆる人生の障害物 テレビドラマとしての気概と妙技に目が離せない

リアルサウンド

20/7/25(土) 6:00

「日本嫌い、なりたくなかった」

 これは1人のベトナム人の叫びとして語られるセリフだが、日本人だって思わず叫びたくなる言葉ではないだろうか。

 金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)第5回、タイトルは「夢の島」。ジャパニーズドリームを求めてやってくる多くの外国人にスポットライトが当たる。彼らが夢見たはずの日本は、矛盾でいっぱいだ。留学生ビザではアルバイトができるのは週28時間まで。でも、その収入額では学費も払えないし、生活もできない。だから、複数の職場を掛け持ちするしかない。雇用側も見て見ぬふりをするしかない。「こんなものだ」「仕方ない」「自分たちにはどうしようもない」不満や疑問を踏みしめる毎日。「夢の国」ではなく「夢の島」と付けられたタイトルに、メディアによって「夢の島」と言われた埋立地を思い出さずにはいられない。

【写真】第6話に志摩の元相棒役として出演する村上虹郎

 ジャパニーズドリームは、人工的に作り上げられたものだと言わんばかりに。

 志摩(星野源)と伊吹(綾野剛)は、コンビニで張り込みをしていた。ベトナム人と思われる者による強盗予告の書き込みがあったからだ。張り込み先のコンビニでは、ベトナム人留学生のマイ(フォンチー)も働いていた。共犯の疑いがかけられたマイを追ううちに、外国人留学生を取り巻く様々な問題を知ることになる志摩と伊吹。そして、日本語学校の事務員として働く水森(渡辺大知)が、かつて人材サービスの会社を立ち上げていたことを掴む。

 人材業界に夢を抱く人も少なくない。仕事を求める人と、その力を求めている企業との橋渡しをして、双方にとって最善の出会いを演出する仕事。だが、その企業にはブラックと呼ばれるところもある。こんなところに人を送り込んでも、幸せにはなれないのではないか。そんな疑問を持ちながらも、ビジネスとして割り切って斡旋するというケースも。外国人であろうと、日本人であろうと、人が動くところには誰かが利益を手にするようにできていることをしっかりと見つめなければならない。やたらに恐れるのでもなく、冷静に自覚するのだ。私たちは「夢」のある話として語られると、あまりに無防備になるのだということを。

 真面目にやる者と、法の抜け穴を見つけて悪さをする者。どの国にも、2種類の人がいる。でも、日本は前者のほうが多いと誰もが信じている。日本人は真面目で、治安もいいと。でも、それさえももしかしたら、そういう報道ばかりだったからかもしれない。個人的に、この第5話で最もしびれたのは、動画投稿サイト「NOW TUBE」で配信している特派員REC(渡邊圭佑)がテレビマンに持ちかけたシーンだ。「外国人問題って、視聴率とれないんだよね。こういうのみんな興味ないの。テレビは、お茶の間が喜ぶ番組を作るのが仕事」と一蹴するのだ。

 知る機会がないと興味も持てない。でも、多くの人が興味を持っているのだとわからないと、知る機会が少なくなっていく。その知る機会が少ないことそのものが、誰かの人生の障害物を取り除く術を奪っていることもある。おもしろおかしいことばかりではない、この社会で。数の論理に負けそうな人たちに起こっていることを、真面目に伝えていくことがどれだけ大切なことか。それをテレビドラマとして描くことに、このドラマの「他がやってないことやろうって気概」を感じずにはいられない。

 カタツムリになって、殻の中で聞きたい言葉だけを聞けて生きていけたらいいけれど。残念ながら、そんなに社会は甘くない。この社会にはあらゆる問題が渦巻いている。個人が罪悪感を抱いて心を痛めても、何十万人単位の問題をすぐに解決することはできない。だが、それでも少しでも生きやすい社会になるように、夢が幻想で終わらない国であるように。私たちができることは、あらゆる人生の障害物を知ろうとすること。

 人生のピタゴラ装置から落ちそうになった人を「救う」なんて、大それたことはできなくても、いっしょにもんじゃ焼きを食べたり、美しい景色を見つめる。そのくらいしかできないけれど、それが誰かのまっすぐ走るきっかけになるかもしれないのだから。

 とはいえ、誰かの人生を知るというのは、身近な人こそ難しかったりする。次回は、ついに伊吹が志摩の過去に触れることになりそうだ。相棒の“不審死“とは、UDIラボが脳裏をよぎる。まさか、そんなことは……と頬が緩む。そして、第3話で逃走した陸上部員の成川岳から、RECのもとに助けを求めるメッセージが届き、再びあの謎の男が登場しそうな予感だ。現実社会の問題を鋭く突きながらも、エンタメとしてしびれさせられる妙技に、今後も目が離せない。

(佐藤結衣)

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