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木竜麻生が語る、『鈴木家の嘘』での大きな経験と女優としての今後 「自分のことをもっと豊かに」

リアルサウンド

19/8/7(水) 12:00

 映画『鈴木家の嘘』のBlu-ray&DVDが8月7日にリリースされる。橋口亮輔、石井裕也、大森立嗣などの数多くの作品で助監督を務めてきた、野尻克己の劇場映画初監督作となった本作は、ある日突然長男・浩一がこの世を去ったことをきっかけに、遺された父・幸男と長女・富美ら家族たちが、母・悠子の笑顔を守るため嘘をつき、悲しみと悔しみを抱えながら再生しようともがく姿をユーモラスに描いた人間ドラマだ。

参考:加瀬亮×木竜麻生『鈴木家の嘘』対談 「すごく純粋に出発した映画に参加できた」

 今回リアルサウンド映画部では、長女・富美を演じた木竜麻生にインタビュー。本作の撮影や役作り、映画自体について改めて振り返ってもらいながら、映画『東京喰種トーキョーグール【S】』、NHK大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』、初の連ドラ単独主演作『まどろみバーメイド ~屋台バーで最高の一杯を。~』(BSテレ東)など、2019年も幅広い活躍を見せる彼女自身についても話を聞いた(編集部)。

ーーパッケージのリリースを控えた今、この『鈴木家の嘘』という作品は、改めて木竜さんにとって、どんな作品になりましたか?

木竜麻生(以下、木竜):言葉では説明しづらいですけど、私がこれから大事にしていきたいと思うような言葉を言ってくださった大切な方々というか、そういう尊敬する共演者の方々にたくさん出会えた現場だったなって、改めて思いますね。

ーー岸部一徳さん、原日出子さん、加瀬亮さん、そして岸本加世子さんと大森南朋さん……錚々たる顔ぶれの共演者ですよね。

木竜:本当に(笑)。こんなにもたくさんの大先輩の方々と、ひとつの現場でご一緒できることって、なかなかないと思うんですよね。しかも、その方々と“家族”という形で、同じ時間を共有することができたので。それは私にとって、すごく大きな経験になりました。

ーー昨年はこの他にもう一本、木竜さんが出演した、瀬々敬久監督の『菊とギロチン』も公開され、こちらも高い評価を獲得しました。

木竜:そうですね。なので、2018年というのは、私にとってひとつの転換期というか、すごく大きな年になったと思っていて。この23歳から24歳になる一年というのは、後々振り返っても、きっと自分のターニングポイントとして思い出すような一年になったと思います。

ーーそれら二本の出演作が評価され、昨年の東京国際映画祭では、今後の活躍が期待される新人俳優に贈られる賞――“東京ジェムストーン賞”を受賞するなど、これまで以上に人前に立って話す機会も増えたのではないですか?

木竜:ホント、ありがたいことに、いろんな場所に登壇させていただいたり、舞台挨拶はもちろん、こういう取材も含めて、自分がどう思っていたとか、どんなふうに感じていたかみたいなことをお話しさせていただく機会がすごく多くなって。そうやって自分が感じたことだったりを、もっと大事にしていいんだなっていうのは、そのなかで改めて感じたんですよね。それは、この『鈴木家の嘘』という作品で出会った方々に教えていただいたことのひとつでもあるんですけど、もっと自分自身のことを大事にというか、自分のことをもうちょっと知ろうと思いました(笑)。

ーー自分のことを知る?

木竜:何かひとつの作品に入って、自分が演じる役についてはもちろん、その作品のなかにいる人たちのことを知ろうと思ったら、まずは自分のことを知らなきゃいけないなって思ったんですよね。それまで知らないことだらけだったというか、特にこの『鈴木家の嘘』という作品によって、自分のなかにある、まだ開けてない扉みたいなものを、いろんな人にいっぱい叩いてもらったような気がするので。そういう機会を与えてもらった作品でもあるなって思います。

ーーそう、この『鈴木家の嘘』で木竜さんは、監督とのワークショップから参加されていたんですよね?

木竜:そうなんです。私はオーディションも兼ねたワークショップから参加させていただいて、そのときから、野尻(克己)監督とは、すごくたくさん話をしたんですよね。この作品のことについてはもちろん、「私は兄と弟がいて……」とか、そういう自分の個人的な話とかも、いろいろさせてもらって。だから今回の役は、私の地の部分が出ているようなところも、すごく多いかもしれないです。私自身のことをわかった上で、たぶん監督は演出とかをしてくれたんだろうなって思うので。

ーー実際の撮影に入る前から、かなり監督と密なコミュニケーションを取ることができたわけですね。

木竜:はい。実は私も、血縁とか家族ではないんですけど、近しい人が自死して亡くなるという経験をしていて……それを言うつもりはなかったんですけど、ワークショップに参加しているうちに監督には話したいなと思って話したら、監督に廊下に呼ばれて「僕もワークショップのあいだに話すつもりはなかったんですけど、これは僕の話なんです。僕の兄が自死したんです」っていうことを言ってくださって。

ーーそう、この『鈴木家の嘘』という映画は、監督の実体験をもとにした物語になっているんですよね?

木竜:そうなんです。なので、私が演じたその“富美”という役についても、「その役が一応僕にあたるわけですけど、だからといって僕がこう感じたから、木竜さんにこうしてほしいっていうことではないんです」ということを、最初の段階から言っていただいたんですよね。「僕が感じたことに対して、木竜さんがどう思うかを聞いて、わからなければ説明をしたいし、わかるんだったら、それで一回やってみましょう」って。

ーー木竜さん自身の考えがあるなら、いつでも聞くと。

木竜:そうです。自分だったらどう感じるかみたいなことも、どんどん言ってほしいっていう。そういうところも、すごく大きかったかもしれないですね。だから、この“富美”という役は、監督と一緒に見つけていったというか、監督と一緒に作り上げていったところがあると思います。

ーー本作は、東京国際映画祭をはじめ、数々の映画賞に輝くなど、各方面で高い評価を獲得しました。木竜さんとしては、この映画の何が評価されたのだと思いますか?

木竜:うーん、どうなんでしょうね。この映画は、確かに監督の実体験をもとにした話ではあるんですけど、けっして監督だけの話ではないというか、この映画を観たときに、みなさん、自分の話だったり、自分の家族の話だっていうふうに感じてくださっているんじゃないかなって思って。知らない場所で起こった他人の話じゃなくて、自分の大切な人だったり好きな人にも、こういうことが起こるかもしれないとか。そうやって、観てくださった方が、自分に寄せて観ることのできる作品なのかなっていうのは思います。

ーーそんな“鈴木家”のなかでも、木竜さん演じる長女“富美”は、わりと平静を装っているようなタイプでしたよね?

木竜:そうですね。でも、実は“富美”がいちばん子どもというか、そうやって平静を装ってないと、自分が保てないのかもしれないですよね。本当はお母さんみたいにとか、お父さんみたいに、思ったまま行動できてしまうほうが、正直なのかもしれないですし。そう、鈴木家のみんなは、最初お兄ちゃんの死を、ちゃんと悲しめないんですよね。岸本加世子さん演じる叔母の“君子”さんが悲しんでいたり、大森南朋さん演じる叔父の“博”さんが敢えて明るく振る舞ったりするんですけど、そのどっちにも振り切れず、ただただそこに留まっているしかないというか。鈴木家の家族は、お兄ちゃんの死を、悲しめてもいないし、受け入れてもいないんですよね。

ーー当事者である家族の人たちは、その現実をなかなか受け入れることができないというか。

木竜:そうなんです。やっぱり、ひとつ屋根の下で暮らしてきた家族には、それぞれが思うお兄ちゃん像っていうのがあるんですよね。父から見る息子、母から見る息子、そして妹から見る兄っていうのがあって、それは本人たちにしか知り得ないんですよね。で、“富美”は“富美”で、お兄ちゃんに対して理想があったと思うし、そういう理想があるからこそ、今のお兄ちゃんは絶対違うって思っていたんだろうなって。そうやって彼女は、心のなかに何枚も壁みたいなものを作っていて……それが一枚一枚はがれて、ちゃんと悲しんだり、ちゃんと怒ることができるようになるっていう。それはホントに、何かちょっとしたことだと思うんですよね。そこから一歩も二歩も大きく踏み出したわけじゃなくて、気持ちがちょっとだけそっちに向けられたっていう。そのくらいのことだけど、そのぐらいでいいんじゃないかなって思うというか。

ーーそうやって、ちゃんと悲しむことや、ちゃんと怒ることの難しさを、この映画は描いていて……しかもそれを、人間の滑稽さやおかしみと共に描いているところが、この映画の良さですよね。

木竜:そうですね。彼らが真剣だったり真面目であればあるほど滑稽というか、ちょっと面白くなってきちゃうんですよね(笑)。お父さんが真剣にソープランドに通えば通うほどおかしみが出てくるし、“富美”が一生懸命手紙を書けば書くほど、「この家族、おかしいな」って思えてくるというか。

ーーそもそも、最初に“嘘”を言い出したのは“富美”ですしね(笑)。

木竜:そうなんですよね(笑)。お父さんが本当のことを打ち明けようとしているのに、突然変なことを言い出したっていう。そういう家族のおかしみというか、ただ暗くて重くて苦しいのではなく、何かちょっとおかしいよね、カッコ悪いよね……でも、頑張っているお父さん、ちょっとカッコいいよねとか、そういうところがあるのが、この映画のいいところなのかなって思います。

ーー結構重めの話ではありますが、観たあとには、ちょっとだけ心が軽くなっているような。

木竜:うん、そうですね。何かそういうふうに、面白いなとか、笑えるなって思えるところは笑ってもらって……ただ、そこから何か持って返るものがあったら、持って返ってほしいなって思っていて。何か映画って、そういうのがいいなって思うんです。現実をただ「こうですよね」って突きつけるのではなく、ちょっとだけいいことありそうとか、ちょっとだけ光が見えそうって思えるような。そういう映画のほうが、私は「何かいいな」って思うんですよね。

ーー本作の出演後も、NHK大河ドラマ『いだてん』に水泳女子日本代表選手・松澤初穂役で出演するなど活躍目覚ましい木竜さんですが、そもそも木竜さんは、なぜ女優になろうと思ったのですか?

木竜:ああ……もともと女優になりたいと思っていたわけではなく、ホント徐々にというか、きっと何段階かあったと思っていて。そもそも小さい頃から、人前で何かをやるとか、そういうアグレッシブなものは、あまりない子だったんですよね。だけど、中学の頃に今の事務所の方に声を掛けていただいて……ただ、中高は地元の新潟で進学するつもりでいたので、ちょっと待っていただく形というか、「大学進学のときに、本人が興味があったり、やってみたいというのがあるなら、お任せします」っていうことを、私が14歳ぐらいのときに、父が事務所の方に言ってくれたんです。で、私自身は、大学で東京に出たら、そういうことをやるのかなあみたいなことを、ボンヤリした感じで思っていて。だから、そのへんのことは、事務所の方も、あまり焦らずというか……。

ーーわりと長い目で見てくれたんですね。

木竜:そうなんです。事務所の方はホントに「楽しくやってほしい」って、いつも言ってくださるような方で、「ちょっと興味があるなら、ちょっと興味があるっていうその状態で始めてみようよ」っていうスタンスでいてくれたんですよね。で、その後、東京の大学に進学して、CMとかMVのお仕事をさせていただいたり、ちょっとだけ映画に出させてもらったりしていたんですけど、最初はやっぱり、何よりも家族が喜んでくれるのが嬉しかったんですよね。「ああ、こんなに喜んでもらえるんだ」って思って。

ーーということは、その後、またどこかで転機みたいなものがあったんですか?

木竜:それこそやっぱり、就職活動の時期ですよね。まわりの友だちとかがエントリーシートを書いたり、リクルートスーツを着たり、セミナーに行ったりしているのを見て……これは私にはできないというか、私はちょっと頑張れないなって思ってしまったんです。で、ちょうどそのタイミングに『菊とギロチン』のオーディションがあって、「もう私は就職活動はしない」ってことを自分のなかで決めて、それを親に伝えたら、父も母もそれを良しとしてくれて、「じゃあ頑張ってみたら」と言ってくれたので……そこでまたひとつ、覚悟を決めたというか。

ーーで、結果的に、『菊とギロチン』のオーディションを見事勝ち抜いて……。

木竜:そうですね。なので、『菊とギロチン』の現場では、ホントにいっぱいいっぱいだったというか、もうただガムシャラに頑張るだけだったんですけど、その現場が終わって、この『鈴木家の嘘』の現場に入ってからは、またちょっと意識が変わったのかなっていうのは、自分でも思いますね。就職活動をしないで女優の道を進むぞっていう覚悟とは、もう一個違う覚悟を決めたというか。『鈴木家の嘘』で、すごい大先輩たちとご一緒したのはもちろんですけど、こうやって映画というものに生命を注いでやっている人たちがいて……岸部さんだったり加瀬さんだったり原さんだったり、みなさんやっぱり中身がすごく深いんですよね。それまでやってきたことだったり経験してきたことだったり、見ている先がすごく深くて。「あ、こういう覚悟でやっている人たちと、私はご一緒できたんだな」って思いましたし、またこの人たちとやりたいと思ったら、自分もそこに追いついていかなきゃいけないんだなって思って。そのためには、もっともっと自分のことを知らなくちゃいけないなって思ったんですよね。

ーーなるほど。そこで先ほどの「自分のことをもっと知ろうと思った」という発言に繋がってくるわけですね。

木竜:そうなんです。何か私は、小さい頃から自分っていうものが、ずーっとわからなかったんですよね。まあ、今もあんまりわかってないんですけど(笑)。ただ、小学校とか中学とか高校とか、自分はすごく優等生みたいな感じできていて、わりと卒なくやってきた感じがあって。兄と弟がいるから、男の子とのほうが会話が楽だなあみたいなタイプで、学校でもわりと先生の言うことは聞くし、でも友達にはちょっとやんちゃな女の子とかもいて、とはいえおとなしい子とも話せるしみたいな。ホント普通というか、わりと卒なくやれるタイプだったんですよね。

ーー特に何かをこじらせるわけでもなく。

木竜:あ、そうです、そうです。ちょっと何かやっかみを言われるとかはありましたけど、それを特に気にするとかでもなく、ホント普通に生きてきたんですよね。でも、このお仕事を始めてから、本当の自分っていうか、別にいい子じゃない私もいるなっていうのを思うようになって。それは、結構最初の頃に共演した方にも言われたんですよね。「ホントは何か心のなかにグチャグチャしたものがあるでしょ?」って。

ーーほほう。

木竜:それを言われたときに、いい子じゃない私というか、みんながイメージする私じゃない私を面白がってくれる人もいるんだなって思ったんですよね。で、そうなったら今度は、「自分って何だろうな?」って思い始めるようになって。普通に生活したり、今こうしている私も、「本当は誰なんだろうな?」とか、素直に思ってしまうんですよね。

ーー面白いですね。インタビュアーとしては、ちょっと不安になってきましたけど(笑)。

木竜:ははは。ですよね(笑)。でも、そういう感じで、「今、こうしてしゃべっているのは、誰なんだろうな?」とか「今、ご飯を食べて美味しいって思ってるのは、誰なんだろう?」とか考えてしまうことが、最近多いんですよね。それが実際のお芝居と、どうリンクするとかはまったくわからないんですけど、こうやって作品だったり役だったり、相手の役者さんだったり監督だったりと向き合うなかで、知らない私というか、それまでは見えてなかった自分が見えてくるんじゃないかなっていうのは思っていて。何かそういうふうなのが、今はあるような気がします。

ーー女優という仕事をしていくなかで、「こんな自分もいたんだ」って新しい発見をしたり?

木竜:ああ、もうホントにそうです。むしろ、「ここに、こんな扉があるんだよ」って、みなさんに叩いてもらったというか、自分で開いたというよりも、みなさんに叩いてもらって「あ、あったんですね」っていう感じなんですよね(笑)。だから、今回の映画でも、お兄ちゃんに対して本を投げつけるシーンとかで、「ああ、自分には、誰かのことが憎いとか腹が立つ、死ぬほどムカつくっていう気持ちが、ちゃんとあるんだな」って思いましたし、そういうのはやっぱり、監督が先に見抜いてくれて、出てきた私だったんですよね。そうやって、自分でも知らなかった自分みたいなものを見つけてもらっている感じはありますね。

ーーそういう経験は、木竜さんにとって楽しいことなんですか?

木竜:うーん、楽しいっていうよりも怖いですね(笑)。もちろん、「楽しい!」って思うタイミングもあるんですけど、嬉しいけど怖いっていうのが正直なところかもしれないです。

ーーなるほど。ちなみに、木竜さんは今後、どんな女優さんになっていきたいと思っているのですか?

木竜:うーん、今までと変わらずというか、今回の『鈴木家の嘘』を踏まえて、やっぱり映画がやりたいなって思いました。まだまだ知らないことだらけというか、まだまだ知りたいことがたくさんあるので。ただ、そのためには、もっと自分自身の経験だったり、私っていう人間をもっともっと豊かにしていかないといけないと思うので、そういう意味では、あまり食わず嫌いはせずにいろいろなお仕事をやってみて、自分の目とか耳とか感覚でいろんなことを感じていけたらなって思っています。

ーーこうしてお話を聞いていて、木竜さんには、まだまだ開けてない扉がいろいろありそうだなって思いました。

木竜:ホントですか(笑)。でも、そうですね。そうやって面白がってもらえたら嬉しいなって思いますし、私も自分のことを、もっともっと面白がれたらいいなって思っています。(取材・文=麦倉正樹)

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