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ザ・クロマニヨンズ、真心ブラザーズ、SOLEIL…… 今、モノラルミックス作品が生まれる理由

リアルサウンド

19/9/27(金) 7:00

 音楽作品の中には、時々「モノラル」であることをうたってリリースされるものがある。一般的な録音作品はLとRの2チャンネルを使う「ステレオ」で制作されるが、これに対し、左右のチャンネルを分けない手法をモノラルミックスと呼ぶ。つまりスピーカーやヘッドフォンの左右からまったく同じ音が鳴らされることになり、音の分離や立体感、臨場感において不利であるとされている。

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 「高解像度」と並ぶほどに「音の分離」が絶対正義とされるハイレゾ時代の世の中で、なぜわざわざモノラルミックスで作品をリリースする必要があるのだろうか。

●モノラルで作品を作るアーティストたち
 国内のアーティストで言えば、モノラルのイメージが最も強いのはザ・クロマニヨンズだろう。一部ステレオで制作された作品もあるが、これまでにリリースされている13作のスタジオアルバムのほぼすべてがモノラルでミックスされている。アルバムジャケットにはご丁寧にも「mono」表示がされているため、判別も容易である。なお、ステレオにするかモノラルにするかの判断は、本人たちが「なんとなく」で下しているという。

 また、近年の真心ブラザーズも積極的にモノラル作品を発表している。先日リリースされたセルフカバーアルバム『トランタン』はステレオ作品だったが、ここ2作のオリジナルアルバムはどちらも「モノラル一発録り」を掲げて制作されたものだ。その理由については、「そのほうが早く帰れるから」などと説明されている。

 SOLEILも昨年のデビュー以来、一貫してモノラルミックスにこだわってリリースを続けている。60年代のフレンチポップスを始めとしたギターサウンドの再現を図るにあたり、モノラル以外の選択肢は考えにくかったのだろうと推測される。「モノラルだとレコーディング時にあきらめがつきやすい」という旨のメンバー発言も確認された。

 ほかにもTHE NEATBEATSやTHE BAWDIESなど、モノラル音源に愛情を持って制作を行っているアーティストは、多いとは言えないものの確実に存在する。共通して言えることは、オールドスクールな音楽の魅力を現代に伝えるタイプのアーティストであること、バンドとして存在することにプライドを持っているアーティストであることだ。

●モノラルミックスは難しい
 音楽を聴くとき、その音源がステレオであるかモノラルであるかを意識するリスナーは、おそらく多くはない。なぜなら流通している音楽作品のほとんどがステレオミックスであり、2チャンネルレコードの実用化や2スピーカーシステムの普及などによって1960年代にステレオ技術が一般化して以来、モノラルミックスは何か明確な意図がなければ行われない特別な手法となっているからだ。

 よって、制作現場ではよほどの理由がない限りはステレオ方式を採用するのが普通である。多くの場合、制作サイドには「ステレオを採用している」意識すらないだろう。刺身を食べるときに醤油をつけるかどうかでいちいち悩む人がほとんどいないのと同じことで、そうすることがあまりにも当たり前なのだ。

 レコーディングエンジニアの多くは「モノラルは難しいんだよね」と口をそろえる。モノラルミックスの場合、「定位でバランスを取る」といったテクニックの多くが原理的に使えないばかりでなく、彼らがそもそも「ミックスとはステレオミックスのことである」という世界で生きてきているということもある。醤油を使わずに刺身をおいしく食べさせるのは、大変なのである。

●モノラルの魅力は独特の音像
 そうした状況で、なぜわざわざモノラルで作品をリリースするアーティストがいるのかというと、当たり前の話だがそれだけのメリットがあるからだ。

 一番わかりやすい魅力としては、60年代風のビンテージな雰囲気が出しやすいということ。実際に60年代以前のレコードはモノラルが主流だったため、それらを聴いて育った世代にとっては原点と言える音像であるし、それ以降の世代にとっては新鮮な響きを得られることになる。

 しかしそれはあくまでも表面的な魅力だ。本質的には、音圧感であったり演奏の一体感をステレオ音源以上に強く感じられるという側面のほうが重要である。すべての音が一箇所からまとめて鳴らされることにより、それぞれに分離していない渾然一体とした音像になりやすい。そのことが、生演奏とは違う録音物ならではの独特の風合いを生み出す。

 バンド音楽で言えば、「ドラムの音とベースの音とギターの音が鳴っている」のではなく、「バンドの音が鳴っている」状態として味わいやすくなる。どちらがいいとか悪いとかいう話ではなく、「トンカツとカレーのセット」と「カツカレー」とでは、まったく意味合いが違うということだ。そして、そのどちらにもきちんと意味がある。

●ステレオも万能ではない
 そもそも、ステレオミックスにしたところで完全に分離感のある音像を再現できるわけではない。もともとの演奏では各プレイヤーがそれぞれの立ち位置からそれぞれに音を出しているわけで、それをLチャンネルとRチャンネルのたった2箇所から鳴らし直すという過程においては、モノラル収録と同様の欠落はどうしても起こってしまう。であるならば、よりプリミティブな形であるモノラルで仕上げたほうが潔い、という考え方は十分に成立する。

 米津玄師に代表されるような、デスクトップで作られる緻密かつレイヤードな音像に慣れきった耳には、ものすごく異質に響くであろうモノラル音源。しかし、実際にモノラル音源を聴くことによって、それが単なるノスタルジーにはとどまらないことがわかるはずだ。不可分なバンドサウンドの魅力や、ミュージシャンとしての彼らの基礎体力的な強靭さにも触れることができるだろう。

 もちろん、ステレオ音源でそれらが味わえないということではない。が、確実に言えることがひとつだけある。よほど自信がなければ、モノラルで音源などリリースできないということだ。(ナカニシキュウ)

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