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いま、最高の一本に出会える

indigo la Endは不安を美しい音楽に変えていくーー初の日比谷野音ワンマンを見て

リアルサウンド

19/7/9(火) 18:00

 野音でのライブは、indigo la Endの念願だった。ここ7年間雨が降っていないという6月30日、2019年は、雨。会場にはレインコートに身を包んだ観客が開演の時を待っていた。

 川谷絵音(Vo/Gt)が「昔の曲も万遍なくやろうというツアーだった」と語り、序盤で『あの街レコード』から「夜明けの街でサヨナラを」「billion billion」と懐かしい2曲を披露した。コートのフードをかぶると、髪はくずれ、ステージだけが視界に入り、こもった音が耳に届く。バンドと一対一でいるような感覚は、indigo la Endの曲とファンの向き合い方そのもののような気がした。

 「雨の中待たせるのも良くないんで、僕らばーってやっていきますから」と気遣いながら、9曲を続けて演奏。『夜に魔法をかけられて』から「彼女の相談」「スウェル」とインディーズ時代の曲も届けられ、〈あれが最後の贈り空 綺麗な色してたよね〉という歌詞を、空を見上げて聴いた。「忘れて花束」では川谷と長田カーティス(Gt)のギターに、えつこ(Cho/Piano)とささみお(Cho)のコーラスが重なりあい、これがindigo la Endの美しさだ、と息をのむ。 

 本公演は、ワンマンツアー『街路樹にて』の追加公演。『abuku』という色気ある題名がつけられ、「見せかけのラブソング」では泡(あぶく)のようなシャボン玉が空に放たれた。結成時から唯一変わらないメンバーである川谷と長田が「インディゴラブストーリー」で向かいあってギターを鳴らす。川谷が音楽を辞めようとした時、「僕は君の音楽が好きだから」と長田が引き止めたエピソードを思い出した。

 14曲を一気に演奏した後、「野外なんで盛り上がる曲をやろうと思います」と「名もなきハッピーエンド」「瞳に映らない」など、MV集のような4曲を披露。この頃にはすっかり雨も止んでいた。盛り上がる曲を一カ所に集約させたことで、身体を動かし楽しむ時間と、じっくり曲に浸る時間の両方を味わえた。

 そして本編ラスト、ツアータイトルの由来である「幸せな街路樹」である。〈「雨のにおいがしたって」〉という歌詞は、街路樹に囲まれた雨上がりの野音で歌われることが、最初から決まっていたかのようだ。

 本ツアーは、「幸せな街路樹」を巡る旅だった。川谷は各所で「他の曲は客観的に見れるようになったのに、この曲だけは解決できていない」と打ち明け、横浜公演では「この曲の歌詞は今読んでもすごい苦しくなる」と吐露。結局最後の野音でも「7年前と気持ちが変わらなかった」と告白した。ツアーを最後にこの曲を封印することも考えたが、むしろ「満たされたら僕は曲を作らなくなる。この曲があるから、曲がつくり続けられる」とツアーを通してポジティブになれたという。

 彼らの曲は、まさに“満たされない想い”を歌うものが多い。好きな人との気持ちのずれ、女性目線の満たされぬ想い。〈君が好きだってこと以外は この際どうだっていい〉(「藍色好きさ」)と恋心を素直に表現する歌が聞かれた時期もあった。しかし最近は、嘆くどころか、満たされない方が良いとする歌詞が増えたように思う。

 〈距離が伸びるほど悪くない〉と 〈愛情ごっこで手を打とう〉としたり(「ほころびごっこ」)、 〈視野の狭い愛情〉しか送れず 〈完成した瞬間冷めてった〉りする(「はにかんでしまった夏」)。今のindigo la Endは“満たされない想い”のもつ苦しさと美しさ、両方を感じて音楽を紡いでいるような気がする。 

 アンコールでは、野音で一番やりたかったという「夏夜のマジック」を心地よく響かせた。その後サプライズで、新曲「結び様」を初披露。〈結んでもないから 僕はもう君を 愛さないことにするよ この歌にだけ残す〉と本心を仕舞いこむ。〈起承転結 三文字目半の糸〉と歌われる「蒼糸」のように、〈糸は吉に絡ま〉って結ばれることはない。“満たされない想い”が、また一つの曲となった。

 川谷はライブ中何度も「楽しかった」と呟き、「良いツアーだったな」「一人で曲を書いてる時は苦しいけど、ライブでやると楽しかったなってなる」と柔らかい笑顔を浮かべた。「メンバーとか、普段そんなにしゃべらないですけど、この場を借りてほんといつもありがとうございます」と感謝し、メンバーもはにかみながら喜んでいた。

 来年結成10周年を迎えるindigo la Endだが、ずっと同じメンバーではない。後鳥亮介(Ba)は、2014年8月に加入。その後、ツアー『幸せが溢れたら』のサポートドラムだった佐藤栄太郎が2015年3月、ファイナルで正式加入した。アルバム『幸せが溢れたら』は、2015年2月に発売され、今の4人で再スタートをきる節目となった作品と言える。野音ではそこから6曲と、最も多く演奏された。「幸せな街路樹」も、曲自体は以前からあったが、発表されたのはその時期。だから自ずとこのライブでは、indigo la Endの歩みに想いを馳せたし、後鳥・佐藤が加入する前の曲も、すっかり彼ら自身のものになっていることを感じた。

 この日川谷は、野音のステージには個人的に二回ほど立ったことがあると前置きし、「indigo la Endで、野音でやるっていうことに、凄く特別な意味を自分で課してた」と話した。川谷は度々「indigo la Endで歌うことが一番自分に近い」と語っている。複数のバンド、舞台『独特な人』、プロデュースなど、自分の中に自己を複数抱えると、「ホント」がわからなくなり、混乱をきたすこともあるかもしれない。だからこそより、indigo la Endが川谷の軸であることが際立つのだろうし、そのindigo la Endとして野音に立っている姿には、感慨深いものがあった。

 ツアー『街路樹にて』は、メンバー同士、そしてindigo la Endとファンが絆を深めた、美しいツアーだった。リリースツアーではない分、メンバー4人がじっくり向き合う貴重な時間になったことだろう。ファンにとっても、川谷の美しい楽曲、長田の流れるようなギター、後鳥のあたたかいベース、佐藤の緩急あるドラム、その全てが揃ってこそindigo la Endであると、より愛しく思えたのではないだろうか。

 終演後に配られた川谷からファンへの手紙には「全て泡になってしまえ 最初からなくなるって知ってたら 幾分楽だから」「でもこんな不安が綺麗に見えるのが音楽です」「どうかもう少し身体を預けてみませんか」と書かれていた。不安を美しい音楽に変え、私たちを救ってくれるように、私たちもindigo la Endを幸せにしたい。だからもう少し、いや末永く、indigo la Endを見守っていきたいと思う。

(写真=井手康郎)

■深海アオミ
現役医学生・ライター。文系学部卒。一般企業勤務後、医学部医学科に入学。勉強の傍ら、医学からエンタメまで、幅広く執筆中。音楽・ドラマ・お笑いが日々の癒し。医療で身体を、エンタメで心を癒すお手伝いがしたい。Twitter

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