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THE PINBALLSは音楽という“魔法”を信じ続けるーー『Return to The Magic Kingdom Tour』ファイナル公演

リアルサウンド

19/12/30(月) 10:00

 11月にメジャー2ndシングル『WIZARD』をリリースしたTHE PINBALLSが、ツアーを『Return to The Magic Kingdom Tour』を開催。12月20日に東京・渋谷CLUB QUATTROでツアーファイナルを行い、エッジの効いたロックンロールの数々で、集まったファンを熱くさせた。

夢を諦めない男たちの挽歌

 このツアーは、会場ごとに多彩な対バンを迎えて行われ、仙台ではYellow Studs、大阪ではPOT、名古屋ではSuspended 4th、博多では空きっ腹に酒、そしてこの日の東京では、LAMP IN TERRENが出演。THE PINBALLSとはテイストが異なりながらも、どちらが勝るとも劣らない高い熱量を持った対バンたちと、しのぎを削り合ってきた。そうしてついに帰って来た東京公演。各地の対バンの想いも背負ったTHE PINBALLSの4人は、圧倒的なオーラを宿して何倍にも巨大に見えた。

 LAMP IN TERRENの松本大の「お前らが認めた、THE PINBALLSが認めた俺らを認めろ」という、ファンの心を揺さぶる痛烈なあおりによって、会場にはTHE PINBALLSの登場が待ちきれないといった様子で観客の手拍子が鳴り響く。そこへ登場したTHE PINBALLSのライブは、1曲目から会場を熱狂の渦に叩き込んだ。

 オープニングナンバーは、『WIZARD』に収録の「統治せよ支配せよ」。グルーヴィーなギターカッティングから一転、アッパーのリズムへと変化すると、それに合わせてベースの森下拓貴が、まるで狼の遠吠えのようなシャウトを聴かせる。「戻って来たぜ東京、行くぞ!」というボーカル・古川貴之のひと言で、観客は手を挙げて一斉に躍動した。「さあショーを始めようか」。そんな呼びかけで始まった「劇場支配人のテーマ」は、まるで見せつけるかのように、ギターの中屋智裕とベースの森下が前に出て演奏。ドラムの石原天のあおりで、観客の間にはクラップがどんどん広がっていった。

 「旅に出て戻って来ると、やっぱりみんなの顔が最高。俺たちが戻って来る場所は、やっぱり最高の王国なんだって思う」と、MCで観客の表情を嬉しそうに見渡した古川。そんな古川が「夢を諦めた時に作った歌です」と伝えて歌ったのは、「fall of the magic kingdom」だ。

 本楽曲は、シャッフルビートの軽快なナンバーだが、どこか切ないメロディで、古川の歌からは、夢に破れて打ちひしがれたような気持ちが流れ込んでくる。誰でも前向きばかりではいられず、時には現実を受け入れて眠ることも必要だ。そんな、人の弱さも飲み込んで歌にして、吐き出してくれるのがTHE PINBALLSなのだ。どうせまた新しい夢や希望が溢れて来て、動き出さなければいけない時が来る。せめてそれまでは、この曲でいつまでも踊っていたい……。観客はきっとそんな気持ちで、目を閉じて身体をゆっくり動かしていただろう。そんな気持ちに応えるように、「このまま俺たちと唄い続けようぜ。夜明けまでは」と呼びかけた古川。続けて歌った「蜂の巣のバラード」では、ムーディーなツービートにジャカジャカとしたギターが、絡むように鳴り響く。古川のボーカルには、観客を包み込むような愛情が溢れ、最後のファルセットのコーラスは、涙をそっとぬぐう指先のように優しかった。

物語の結末は観客1人1人の中にある

  また「ばらの蕾」では、しっとりとしたギターのストロークが始まると、会場はしんと静まりかえって聴き入った。そこに古川が、静かに歌い出す。バンドサウンドがそれに続き、スケールの大きなロックバラードが会場に鳴り響く。どこか死を想像させる歌詞ではあるが、その裏側には、きっとそこからまた立ち上がることが出来るという前向きなメッセージがあるように感じた。それは、その後の古川のMCで明確になった。

「俺はもう一度、魔法を信じる。俺がなりたかったロックスターになる、その魔法を信じる。その魔法は奇跡とか、そんなじゃない。本当のロックスターになることを約束するということ」

 その魔法を叶えるためには、お前たちの笑顔が必要なんだよとでも言うかのように歌った「bad brain」。ポップでのりやすいナンバーで、肩を組んで身体を揺らすような近さが感じられる楽曲だ。〈そこに君はいる 間違いはないから〉〈手を伸ばして 動き出したら 始めようぜ〉。すべての観客を肯定して、みんなの気持ちを丸ごと受け止め、同じ歩幅で進んでくれるような、前向きで温かな空気が会場を包み込んだ。

 終盤は、ステージとフロアがまるでひとつのバンドのように、一体となって熱狂した。「蝙蝠と聖レオンハルト」は、ダークな世界観の歌詞とマイナー調のソリッドなサウンドが秀逸だ。まるでスティーヴン・キングの小説に出てきそうな、言葉の数々が想像力を刺激する。マシンガンを打ち鳴らすような、暴力的なギターが聴く者のハートを撃ち抜く。海賊の逸話に出てきそうな物語が歌詞になった「片目のウィリー」は、ロマンチックさがありながら、どこか切なさが広がる。ギターのリフは、胸を締め付けるようなメランコリックさで、観客の耳を惹きつけた。キャッチーなメロディが実に耳馴染みが良く、思わず一緒に口ずさんでしまうほど。会場にはクラップが広がり、「行くぞ!」というかけ声で、会場には手を挙げてサビを歌う大合唱が広がった。

 感情をそのまま吐き出したような、シンプルでストレートなガレージサウンド。歌詞は、映画や詩、小説、はたまた童話など、どこか外国の物語を想像させる。しかしどの物語にも、明確な結末はない。それはその物語の主人公が観客1人1人であり、彼ら自身も決して夢を諦めていないからだ。まだ見ぬそれぞれの結末に向けて、戦い続けるためのバックグラウンドミュージック、きっとそれがTHE PINBALLSの音楽なのだろう。

 この日アンコールは、当初2曲の予定を急遽3曲に追加。「もう1曲やります。何が良いですか?」と問いかけ、「分かった。みんなを真夏にしたいから。冬だけど遠慮するんじゃねえぞ!」と、2015年の1stフルアルバム『THE PINBALLS』から「真夏のシューメイカー」を演奏した彼ら。真夏の夕立のようなギターサウンドに身を投じた観客は、彼らが紡ぐ物語の主人公になって、最後の一滴まで力を絞り出すように踊り続けた。

(写真=白石達也)

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、インタビュー本数は延べ4,000本。現在は日本工学院で講師も務める。

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